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第13回 子供のいるお産(3)

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ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん

Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP

Nadeshiko Women’s Clinic

【メール】 info@nadeshikoclinic.com
【公式サイト】 www.nadeshikoclinic.com
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最終回は、実際に子供をつれて病院に行った場合にどのようなことに気をつけたら良いか、ご説明したいと思います。

子供が退屈しないよう、その年齢にふさわしい本・おもちゃ・ビデオなどを準備します。おもちゃは慣れている物と、新しい物を持ってきておくと良いようです。どうしても退屈してしまう時に、見たことのないおもちゃが出てくると、それからしばらく夢中になって遊ぶことが多いようです。妊娠後期になったら、生まれてくる赤ちゃんからのプレゼントとして、上の子用のおもちゃを1つ買い、上の子にも赤ちゃんへのプレゼントを選ばせるという家族もいます。

病室によっては、ビデオデッキはないがDVDプレイヤーはあるという場合があるので、あらかじめ確認しておきましょう。年齢が2歳半ぐらいから4歳ぐらいまでの子供は繰り返しを好み、慣れ親しんだお話を聞くことによって安心感を得ることが多いようなので、新しいビデオよりは普段よく見ているビデオを持ってきたほうが良いようです。持ってくるビデオはいろいろで、『アンパンマン』 や 『機関車トーマス』 を持ってくる家族もあれば、ミュージカルや古いホラー映画(どういうわけか、その子はそれが好きなのです)を持ってくる家族もいます。

お産の経過にもよりますが、入院直後はお母さんもまだ話をする余裕がある場合が多いので、子供がその場に慣れるように見届けてあげましょう。入院してすぐにいろいろな処置がされたり、お母さんが患者用の寝巻きに着替えてベッドに横になるとびっくりしてしまう子供もいるので、様子を見て、普段着のまま、ゆっくり処置をしてもらう場合もあります。

子供を連れて行く時には、その子のために大人が1人付いていることが大切です。入院した時点から赤ちゃんが生まれて落ち着くまで、子供がなついている人に付いていてもらい、その場にいるか待合室に行くかなど臨機応変に対応してもらうのが理想的です。産婦のサポートをしながら子供の世話をするというのは難しいので、どちらかに役割を決めてしまうか、大人が2人以上いる場合は交代しながら、それぞれの役割を果たすのが良いでしょう。

次第に陣痛が強くなって、声をあげたり、子供にかまっていられなくなってきた時には、子供が信頼できる人が子供の視点で対応していてくれることが大切です。どんなによく準備がしてあっても、お母さんが痛がったり、何か処置を受けているのを見るのは子供にとって怖いものです。「お母さんは大丈夫なんだ」ということを口で言うだけでなく、平常心でふるまっていられる人がいるのが一番です。

お産の場面では、父親や祖母でも緊張することが多いので、子供の緊張感を和らげるところまで気がまわらない場合もあります。そうした場合には、子供の好きなドゥーラにいてもらうことが役立ちます。私のお産の時には、ドゥーラの勉強をしている人がついてくれる場合があります。子供の好きなドゥーラがいると、お母さんやお父さんは安心してお産に専念したり、あるいは、産婦のことを心配せずに子供に関わることができるので、とても役立ちます。私は、子供が関わっていない場合は「痛いね、大変だね。でもがんばろうね。」とまじめな顔で、じっと産婦さんの目を見て話しかけることが多いのですが、子供がいる場合は、「お母さんね、今お話できないけど大丈夫なんだよ。ねえ、ジュース飲もうか。」というように、普通のペースで子供と話しています。お産が間近になって、赤ちゃんを取り上げるために手術着に着替える時も、「先生ったら、こんなお洋服着ちゃった。おかしいね。」と言いながら、ニコニコして子供とやりとりを続けます。子供はちょっと怖くなると、お父さんに抱きついて、チラッと私の顔を見て大丈夫なのかどうか確認します。そこで大人が深刻な顔をしていると、子供が泣き出すので、周りの人が落ち着いていることが大切です。

あらかじめ本を何回も読んだり、ビデオを慣れるまで見てある場合は、「ほら、ビデオとおんなじだね」とか、「お母さんが声を出すって言ったよね。でも大丈夫だって言ったよね。」とか、「赤ちゃんのおへそって、血がでるけど痛くないんだよ。ビデオでそう言っていたよね。」などと、すでに慣れている状況を思い起こすことによって、まったく新しい状況ではないのだという安心感が得られます。

陣痛の場面を見るのは怖いかもしれないので、赤ちゃんが生まれる直前に部屋に入ってきてもらうことを勧める人もいますが、私はその方法はあまり好きではありません。部屋に入るといきなり見たことのない人がいて、赤ちゃんがいて、羊水の臭いがして血が見えるという場面に来ると、子供はびっくりします。少しずつ場所や場面や人に慣れながら、そこに赤ちゃんが最終的に登場するのが一番自然に受け入れてもらえると思います。その場面になってみて子供が泣き出すようなら、見せることにこだわらず、外に連れ出してもらって落ち着くまで待ち、赤ちゃんがきれいになってから、また、部屋に戻るのも良いでしょう。

お産に立ち会うというのは、年齢に関わらず、非常にパワフルな印象を残す経験です。傷にならないよう、良い想い出になるよう、生まれた後から家族でお産の経験を振り返ってみる機会を持つことが非常に大切です。おへそが気になって、「へその緒を切るときに血が出た」と繰り返し繰り返し話す子もいますし、「赤ちゃん、うんちとおんなじように産まれてきた」といって、ちょっと間違った印象を持っている子もいます(その印象を訂正するかしないかは、その家族が決めればよいのです)。その場では怖くなって泣き出した子も、後で聞いてみると、「赤ちゃんの産まれてくるところを見て、本当に良かった」と言ってくれたりします。経験というのは、消化されていくものです。お産の直後、数日後、あるいは1ヶ月後の印象は少しずつ違う場合もあります。折にふれて少しずつ話を聞き、お母さんはこう思った、お父さんはこう思ったという話をしておくと、家族としてのお産の経験が、意味のある1つの物語になっていきます。

掲載:2005年7月

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