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パンデミック【体験談】(6)「調整する力、アダプトする力を大切に」 保険会社経営・平野ホルコム雅子さん

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布マスク作り

寄付するために作り始めた布マスクも100枚を超えた

新型コロナウイルスのパンデミックで、ワシントン州では2020年3月から経済活動・社交再開に規制のある生活が続いています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。

第6回は、保険会社 MHH Insurance を経営している平野ホルコム雅子さんにお話を伺いました。

– 自宅待機命令で、生活はどのように変わりましたか?

こちらで2月中旬ぐらいから新型コロナウイルスに関する情報が出回り始めたころ、私の保険会社に対して電話やFacebookで差別や中傷するようなことを言われたり、「自国に帰れ」というメッセージが何件か書き込まれることがありました。ワシントン州ではなく、他州の人からでしたが、そんなふうに、私にとってこの新型コロナウイルスの件は、アジア人であることで人種差別を受けるところから始まったのです。

大学からこちらに来て人種差別や偏見を感じることがなく、今まで一生懸命に仕事をしてきたのに急にそういうことがあったので、ドスンと落とされていく感覚があって、本当に気持ちが暗くなっていきました。「私の存在は何?」というところまで落ちてしまって。でも、アメリカで死者が増えていくのを見ていて、「こんなことで悩んでる場合じゃない。一人や二人に中傷されても私は生きている。できることをやらなくちゃ!」と思った時に、また立ち上がることができました。

今は、日々の仕事をし、仕事が終わったら布マスクを作って、布マスクが必要な人に差し上げています。そうすることで、「自分は人のために仕事ができている」「私の存在も喜ばれているんだ」と実感し、安心することができています。

夫婦ともに保険関係の仕事をしていて、コンピュータとインターネットさえあれば自宅でできます。でも、普段ならこの時期は人事異動があるので忙しいはずが、いろいろなビジネスと同様、保険もビジネスは減っています。自宅待機で運転する機会が減ったことから自動車保険の返金があったり、医療保険は一時的に誰でも入れるオープンエンロールメントになったりと、いつもとは違う業務の大変さはありますが、スモールビジネスでは何か損害がないと保険会社から補償してもらうことができません。私もスモールビジネスなのですが、保険があってもお役に立てない部分がありますね。

でも、このようなスローな時間ができたからこそ、人間らしい生活ができている、だからこそお客様やスタッフに支えられて私たちが存在している、みなさんがいてくださるから自分がいるのだなと感謝する機会が増えました。人生いつ何が起きるかわからないと教えられました。やらなくて後悔する人生よりは、思ったら行動する人生にしたいと思いました。

– 布マスクをたくさん作っていらっしゃると伺いました。

布マスク作り

布マスク作りも、思ったら行動しようという気持ちから出てきました。これまで生きてきて、若かったころはこれがしたい、あれがしたいと、やりたいことに飛びついていたわけですが、忙しくて時間が過ぎ去る人生を送っていると、まあいいか、まあいいや、と後回しにすることもありました。でも、今は時間があるからこそ、こうしたらお客様は喜んでくださるのではないか、こうしたら自分の人生にとってもいいんじゃないかなと考え始め、行動し始めたのです。

布マスク作り

医師から届いた感謝状

今8年生の娘に刺激を受けたということもあります。娘が「マスクが2箱あるから、医療従事者に提供しよう」と言い出し、www.mask-match.com を通じて医療従事者とマッチしてもらってマスクを提供したところ、感謝状が届いたのです。

そうすると、人の役に立てている幸せを感じ、もっとできるのではないかと思わせられるんですね。そして、家族の分の布マスクを作り、「もっと布マスクを作ったら使ってもらえるだろうか?」「私が作るマスクなんて誰か使うかな?」と娘に言ったところ、「作ったらいいよ」「役に立つよ」と後押ししてくれたのです。今日までに100枚以上の布マスクを作りました。ビジネスよりも、人間と人間のかかわりの大切さを感じる。私にとってはそこが一番大きいですね。

– お子さんたちのリモート学習はどうですか。

スイーツ作り

リモート学習は、最初の2週間は学校から指示がなく、本読みぐらいしかなかったので、最初は戸惑いからのスタートでした。なので、普段できない家の中の掃除だったり、片付けだったり、ランドスケープを考えたり、そういうことを親子で一緒にしていました。

その後は学校から時間割が送られてきて、今は午前9時から午後2時ぐらいまでは学校のことでいっぱいいっぱいですね。勉強で何か質問があれば聞いてきますから、私たちもずっと仕事をしているわけにもいかないのがやはり大変ですが、今までやっていたことがガラリと変わるんだと理解して、長女は洗濯と食器洗い、長男は草抜きやスイーツ作りとか役割分担を決めたら、スムーズに動き始めました。

私自身は役割分担が増えて、毎日、「私はいったい何屋さんなんだろう」と感じることはありますね。でも、楽しもうとしていますよ。子どもの髪を自宅でカットする方法も、私が子どもの頃は図書館に行って調べるしかなかったことも、今ならYouTubeで検索できてしまう。今の時代ならではですね。

– これからどんなことが必要だと考えていますか。

新型コロナウイルスの感染防止について、人それぞれの考え方があり、本当に温度差が激しいと思います。個人単位、もしくは家族単位でそれぞれが違うルールを作っていっているので、自宅待機命令が徐々に解除されていくにあたり、どう対応したらいいんだろうと思わされます。人とのコミュニケーションの壁や違和感があると思いますから、相手をよく見ながら行動しなくてはなりませんね。

いろいろなことを考えるときりがありませんが、カスタマーサービスをする立場として、これから衛生関係をもっと注意していかないといけないでしょう。食べ物の取り扱う業界ならなおさらだと思いますが、ハンドサニタイザーの常備、消毒、飛沫を飛ばさないようにするためのマスクも大事です。調整する力、アダプトする力を大切にしながら、仕事を、ビジネスを続けていく必要があります。

そして、当たり前のことが当たり前じゃなくなることもあると知った今、人のあたたかさを大切にしながら行動していく。これも自分との闘いなんですよね。「まあいいか」と考えてしまうと今までと変わらないわけですが、命を守るために、自分やまわりのために、個人単位でも調整していくことを、今後もやり続けないといけないですね。

– 今年1月にワシントン州で最初の感染者が確認されてから約4カ月ですが、世界がまったく変わってしまいました。でも、おっしゃるとおり、それに対する考えや対応は本当に個人単位でさまざまで、それぞれの「調整する力」「アダプトする力」が可視化されていっています。まだまだわからないことが多いからとパニックになるのではなく、感染経路や症状についてわかってきていることにもとづき、できる限り調整し、アダプトしていきたいと思います。

掲載:2020年5月 聞き手:オオノタクミ



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