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BMX プロ・ライダー 吉田尚生さん「夢の舞台 シルク・ドゥ・ソレイユ出演で日々感動」

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Photo credit: Patrice Lamoureux Costumes: Zaldy
©2017 Cirque du Soleil Inc.

世界最高峰のエンターテイメント集団、シルク・ドゥ・ソレイユの41番目の作品 『Volta』。現在ワシントン州レドモンド市で上演中のこの作品に、日本人のパフォーマーがこれまでのショーで最も多く出演しているって、ご存知でしたか?今回は、夢だったシルク・ドゥ・ソレイユへの出演を実現し、日々感動しているという BMX のプロ・ライダー、吉田尚生さんにお話を伺いました。

– 吉田さんは BMX のプロのライダーで、今回がシルク・ドゥ・ソレイユ初出演と伺いました。
シルク・ドゥ・ソレイユ(以下、シルク)はこれが初めての出演です。僕の場合はもともと BMX のプロのライダーとして活動していましたが、それだけでは日本では職業にならないので、平日は普通に会社員をやって、週末はいろいろな競技に出場するという生活をしていました。この 『Volta』 がちょうど1年半前に始まった時は競技大会でシルクに見初められた別の日本人 BMX ライダーが出演していたのですが、彼がケガで出演できなくなってしまったので、僕が呼ばれたのです。最初は1ヶ月だけのバックアップということでしたが、シルクは僕にとって夢の舞台だったので、そのために仕事も辞めて来ました。妻も仕事を辞めて来てくれて、本当に感謝しています。そして、トロント公演に出演して結果を残せたので本採用となって、フロリダ州タンパ公演から出演しています。

– シルクが「夢の舞台」になったきっかけは何だったのでしょうか。
初めてシルクを観たのは6歳ぐらいの時でした。音響エンジニアの父がシルクの日本初公演で仕事をすることになって、「日本に初めて来たわけだから観せておこう」と、連れて行ってくれたみたいです。何を観たのかは記憶にないのですが、観たことは記憶にあるんです。そういう環境のおかげで舞台はよく観させてもらっていましたが、幼い頃の夢が今につながったというのが僕にとってはすごく面白いです。

– ツアーに参加していると、いろいろな街に移動していくわけですが、そういった生活はどんな感じですか。
僕はもともと劇団四季の小道具を作る仕事をしていたので、日本全国、北から南まで、半年ぐらいかけて旅をしながら舞台裏で働くという生活をしていました。でも、それはパフォーマーとしてではなかったので、シルクではパフォーマーとして初めて体験することがいろいろあります。ショーは週に8回から10回ぐらいありますが、普通、この数はなかなか多いです。例えば、BMX のプロの競技大会は、だいたい週末に2~3回、月に14~15回あれば多い方ですが、シルクでは年間300回以上のショーをやるので、常に健康でなくてはならないですね。選手として活動していた時よりも、健康に対する意識は常に高く持っていないといけない。そんなふうに、プロのパフォーマーとしての考え方は少しずつ学んでいきました。例えば、食事もそうです。ここに来ることが決まって結婚を決め、妻もツアーに同行してくれているので、体調管理では妻の作る食事に助けられています。僕はなかなか日本人な部分が多くて、すごく暑い真夏にステーキとか、無理なので(笑)。あと、風邪を引いたとか、仕事をしていたらやっぱりあると思うんですが、それで自分の出演シーンの一部が欠けてしまうことはできるだけやりたくない。特に、僕が演じているシーンはストーリーの中で鍵となる要素が多かったりしますし、僕の場合はバックアップがほぼいない状態ですから。

Photo credit: Patrice Lamoureux Costumes: Zaldy
©2017 Cirque du Soleil Inc.

– シアトルに来てみて感じたことは。
僕らはほぼ2ヶ月に一度引越していて、アメリカは東を回ってから西に来ましたが、やはり文化が変わりますね。アメリカは広いなと感じます。で、シアトルに来てみて思いましたが、すごく住みやすい所なんですね!問題は税金(売上税)が高いぐらい(笑)。休みの時は、僕はどの都市でもまず美術館に行くんです。シアトルでもシアトル美術館に行きましたし、来週も別の美術館に行ってみようと思っています。シアトルの街でもアマゾンの本社があるあたりとかは、日本から来ると未来っぽい感じがしました。無人コンビニの Amazon Go もそうですし。何があるというわけではないんですけど、とりあえず行ってみるみたいな感じで行ってみました。キャピトル・ヒルにあるスタバのリザーブのロースタリーにも行きましたよ。

– そんなシアトルでの観客の反応にはどんな特徴がありますか。
シアトルは結構お客さんが入っていただいているようで嬉しいです。自分のパートが受けるのも一つですが、やっぱりみんなで一つのショーを創り上げるので、どう評価されるかは気になりますから。各都市で反応が違ったりするんですが、ニューヨークはやっぱり厳しめですね。最後は拍手をくれるんですが、総立ちとかなかなかありません。シアトルでは総立ちで、感動しますね。あれはやっぱり純粋に嬉しいです。毎日ショーをやっていても、やはり緊張もしますし、体力も必要ですが、シアトルの人は盛り上がってくれます。面白いですね。今日もやってよかった、いい仕事をした、という気持ちになります。

– BMX のライダーとして見せることとの違いは何でしょう。
BMX の競技はパフォーマンスを音にはめたりすることは少ないですが、自分の表情とか、選手の時は意識しなかったことを意識しているシルクでの仕事は「競技」から「表現」に近づいたステージです。僕にとっては、なかなか贅沢ですよ。あそこまで舞台を用意してもらって、毎日2千人近いお客さんに BMX に乗っているのを観てもらって、いろいろなところを旅する。夢がかなった、感動の毎日です。

Photo credit: Saskia Potter Costumes: Zaldy

– 素人からすると冷や冷やさせられるようなパフォーマンスの間に、笑わせてくれるコメディもありますね。吉田さんが考える、「シルクの面白さ」とは。
実はみんなめちゃくちゃ難しいことをやってるんですが、コメディを入れたらちょっとリフレッシュして、また集中力が増すんです。お子さんにとっては遅い時間に始まる長いショーでも飽きさせないように、音とか照明とか工夫していますね。それがシルクの面白いところの一つです。スタッフを入れて200人ぐらいいるんですが、一つの村ですね。これ、1週間ぐらいでできてしまうんです。小道具の仕事をしていたからというのもあると思いますが、それに関わる人たちの想いをステージで感じます。いいプレッシャーですね。お客さん、僕らパフォーマー、裏方さん、みんなで一つの空間を作っているんですね。そして、その日によって作品の具合に違いがあることもシルクの面白さの一つ。それは、進化している部分がたくさんあるからです。僕が最初に組んだパートナーはもう抜けてしまって、今組んでいるのは2人目でウルグアイの方。僕はウルグアイがどこか知らなくて、いきなりモントリオールのシルク本社で「はじめまして」。そしていきなり、「2人で2週間でショーを作ってください」ということになりました。曲や設定は決まっていたので、それぞれ何ができるのかということから少しずつ詰めて創り上げたのです。そうそう、僕らのパートは「親子」という設定なんですけど、わかりますか?

– わかります!背景の映像も観ながら、お母さんと子供で、過去を思い出しているんだなと。
よかった!言葉では一言も説明していないので、実は結構難しいんです。パートナーはお母さん役で、僕は子どもの役ですから、今30歳なのに子供の気持ちにならないといけないですし、すごく話し合う必要がありました。なので、今ではまるで家族のようですね。そして、これまで半年間かけて自分たちのパートのアップデートを繰り返してきて、さらに良くなってきています。大きくはそんなに変わりませんが、もっとこうした方がきれいに見えるなあとか、もっとここは揃えたいなあとか、毎日舞台が終わった後に、そんな長い時間ではないのですが、二人で話し合います。モニターがあるので、すぐにそれを見ながら自分たちのパートを毎日チェックできるんですよ。どのグループやパートナーもやっていると思いますが、これはとても大事ですね。

– 一度観たからといって終わりではないんですね。
また観てくださると、新しい発見が多いと思います。正直、『Volta』 はシルクの作品の中でも場面が多い方ですし、スピーディーなので、後で「あれはなんだったっけ」と思うこともあるかと思います。あちこちにストーリーにつながる伏線がありますし。あと、出演者は自分のパートのパフォーマーとして以外に、他の場面で物を動かしてたりとかセットを動かしてたりとかしてるので、「あ、あの人があんなところに」なんて、面白い発見もありますよ(笑)。

– これからやりたいことはどんなことですか。
まだまだシルクのアーティストとして活動していく気持ちもありますが、それ以外では、例えば BMX の見せ方とか、自分で作れるものを磨きたいという気持ちがあります。シルクでは、パフォーマンスの細かい部分だけでなく、ショーでも厳しい部分があり、パートをカットされたり、新しいことを入れたりといったこともあります。それは刺激になりますし、同じショーでもこれから観る場所によっても違ってくる。一度観たから同じではなく、2~3年後になったらまた違う。自分の期待も含めて、今後のシルクがますます楽しみだなと思います。

– ありがとうございました。

吉田尚生(よしだ・なお)さん 略歴
1988年生まれ。双子の BMX ライダー吉田兄弟の弟。15歳でBMX を始め、19歳の時に世界選手権フランス大会で優勝。その後、ヨーロッパやアメリカの大会に参戦し、世界レベルのライダーとしての地位を確立する。劇団四季の小道具製作の仕事もしながらアスリート活動を続け、2017年にシルク・ドゥ・ソレイユ入団。出演作品はこの 『VOLTA』 が初めて。アスリートとは異なる、パフォーマーとしての新境地に挑戦している。公式サイトはこちら

【会場】 Marymoor Park (Redmond, WA)(地図
【公演期間】 2018年9月14日~2018年11月4日
【チケット】 $39~
【公式サイト】 cirquedusoleil.com
【電話】 1-877-9CIRQUE(1-877-924-7783)
【駐車】 有料駐車場($20)
【その他】 入場の際にバッグの中身検査あり。場内では、軽食や飲み物のほか、さまざまなグッズを購入できます。

掲載:2018年10月



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