とから千夏子さん(和菓子職人)

富樫千夏子(トカラ)さん

とから千夏子(とから ちかこ)

1999年にシアトルへ。京都で学び、シアトルで和菓子のビジネスを開業。各地のティーハウスや裏千家に和菓子を卸すようになり、2007年には注文菓子の受付も開始した。”トカラ” はニックネーム。

『とうりゃんせ』
毎月開催されるオープンハウス。季節の和菓子が3個セットで購入できるというもので、”箱の中身は開けてからのお楽しみ” となっています。予約可。
【公式サイト】 www.tokaragashi.com

和菓子の道に進む、和菓子教室へ

もともと故郷の札幌でタウン情報誌の編集をやっていたのですが、1992年に夫の転勤で仙台に引っ越しました。知らない土地で専業主婦になってしまい、友人もいない。幼いころからお菓子作りが好きでしたが、ちょうどそのころ、鈴木そのこさんが「和菓子は体にいい」という和菓子ダイエットが話題でしたので、じゃあ和菓子をやってみようと、近所にあった某和菓子教室に行くようになりました。月に2~3回の教室でしたが、ハマッてしまいました(笑)。今私が仕事としてやっていることとあまり変わらないぐらい本格的なもので、3コースを終えると師範コースになるのです。この教室は全国展開しているので、3コースを終えた後に夫の転勤で今度は東京に引越した後も、東京で師範コースを終えることができました。その頃は本当にいろいろな和菓子を食べ歩いて食べ比べをしました。後に、和菓子の勉強をさせて頂けるところを探しまわった時期と合わせると、行ったことがないのは、四国と沖縄ぐらいです。まだその頃はビジネスをするなどは考えていませんでしたが、夫がアメリカ人なので、いつかアメリカに住むことになることは予想しており、「アメリカで和菓子を作ることができたらいいな」とは考えていましたね。

そうして一番気に入ったお菓子屋さんが、いくつか見つかりました。もちろん、他にもおいしいところはあると思います。店構えとか雰囲気、立地とかそういったことも含め、自分の中に深く残ったのです。そのうちの1つは、電話番号や連絡先をどこにも載せておらず、口コミだけでお客さんが買いに来るというので有名な店で、毎日午後2時にはすべて売り切れてしまいます。とてもきれいなお菓子です。もう1つのお店は私が生菓子が好きになったお店です。特に、ねりきりは好きではなかったのですが、ここのものを食べてからは大好きになりました。「目からうろこ」の味でした。それがアメリカに行くことになっていた1999年だったのですが、「もし帰って来て修行するようになったら、ここで修行したい」と思いました。その時は本当にご縁があるとは思っていませんでしたが(笑)。

京都での勉強を開始

渡米当時は趣味で作った和菓子が周辺の人に好評で、パナマ・ティー・アンド・コーヒーからお声をかけていただいて売るようになり、大変好評をいただきました。そして3ヶ月ほど置かせていただいて、和菓子を作ることがどんどんおもしろくなってきました。でも本当にビジネスとして売るならライセンスを取得しなくてはなりませんし、そうするとコマーシャル・キッチンが必要です。かなりお金のかかることなので、「それならもう本格的に勉強しよう」と。勉強させていただくところはもう京都のお店しか考えていませんでしたので、連絡をとって門を叩きました。念願のお店でお世話になることができたのはとても幸運でした。若い女の子が和菓子職人を目指すという NHK のテレビ小説 『あすか』 に影響を受けた若い子たちが「和菓子の修行をしたい」と、京都の和菓子屋に押し寄せてきていた、すごいブームの嵐が去りかけた時だったのです。そこに、アメリカから、『あすか』 のことを知らない私が来たのは意外だったのでしょう。そうして昼間はお店でお世話になることになり、夜は京都の和菓子職人が通う学校で学びました。学ぶことは、原材料のこと、衛生学ほか、ものすごくたくさんありました。商品になるお菓子を作らせてもらうのは4年ぐらいしてからですから、師匠がやっているのを見て学ぶというものです。余った材料で練習させてもらいました。でも辞めていく人は多いので、最初に白衣を作った時も、「どうせすぐ辞めるのに」と言われました。

ある和菓子屋さんを見学させていただいた時のことですが、毎日朝の6時から午前零時まで働くと言われ、入って数ヶ月という女の子が「いろいろ厳しいですが、一緒にがんばりましょう」と言ってくれました。でも私は12時間も無理だと思ったのと、修行の名のもとにそこまで働かせながら、保険一切なし、1ヶ月に手取りで10万円ぐらいしか払わないで平気という経営者の心になじめませんでしたから、そこには入りませんでした。でも、別の和菓子屋さんでは「わざわざ来てくれたことやし、食べさせてもらおか」と、食べようとしてくださいました。そこでこの和菓子屋さんは心が違うかなと感じたものです。金儲けだけとは違う、わざわざ足を運んでくれたことをねぎらう心があるんだと。また、京都では材料は、5キロとか10キロとかで売ってるものを小分けして売ってくれるところが多いのです。「金儲けだけが商売じゃないから、がんばって」「いいものを残したいから、1人でもおいしいと言ってくれる人のためにがんばってください」と言ってくださいました。篩などの器具を特注で作る時にも、「ええもんを作ってください」と言われました。だからこそ、小さい和菓子屋さんが成り立っているんだなと感じました。

京都の生活はすごく好きでした。中に入ってみると、みんな優しくて親切でしたね。その反面、マナーのない人にはとても厳しかったですよ。東京などからも取材がたくさん来ていましたが、ちゃんと手順を踏んでやって来て、取材中もマナーの良い人達には、きちんと対応していました。でも、下調べもしないで来るような人には「もう来んでいいから、はい、帰って帰って」と。よく言われる「裏表がある」のではなく、相手がそれなりのことをしていないという理由があってのことなのです。特に印象深かったのが、お店ではすぐに物を触ってはいけないということ。「手にとってみていいですか」と聞くのと聞かないのでは、店の人の応対が全然違います。また、だらだらと長居せず、決められないのだったら、さっと去るのも大事です。そしてまた来ればいいのです。そういうことを体験して知っていくのがおもしろくなり、いろいろと学びました。

シアトルでビジネスを開始

学校が終わり、試験に合格し、シアトルに戻って来ました。そして、「さあ、どこにキッチンを作ろうか」ということになったら、なかなか場所が見つからない。この場所を見つけるのはとても大変でした。工事もいろいろと予想外のことが起きたりして。6週間で終わると言われたのに床を持ちあげた後で業者が3ヶ月ぐらいにわたっていなくなてしまったりと、伸び伸びになったりしました。でもパネルやペンキ塗りなど、自分たちでできることはやりました。その後に腰を悪くしてしまって、1年ぐらいは裏千家さんから依頼された茶菓子だけは作っていましたが、ようやく使いやすいものができたので良かったです。

アメリカでのチャレンジ

今のところ、お客様はティーハウスです。グリーンウッドのセブン・ロースターズ・コーヒーとネプチューン、フィニー・リッジのフレッシュ・フラワーズや、インターナショナル・ディストリクトのパナマ・ティー・アンド・コーヒー、バラードのフローティング・ティー・リーブスなどで、今は定番のどら焼きから卸売りを始めています。でも結構売れていて、注文が増えていますよ。特に週末は売り切れてしまうんです。とは言え、こちらから聞かないと注文してきてくれないので、御用聞きもしなくてはなりません(笑)。でも、知識層のアメリカ人の小豆への抵抗はなくなってきていると思います。フレッシュ・フラワーズからも、甘い豆に対する抵抗は昔ほどなくなってきているとも聞きました。餅が好きな人も多いですしね。おはぎも注文が来るようになりました。でも、アメリカの胡麻は日本のものよりも苦味がちょっときついんですね。アメリカ人にそう言うと、「またまた」と言われることが多いんですが、本当に味が少し違うんです。それに気づいているから、なんとか工夫しなくてはなりません。また、ピザとかハンバーガーに慣れている10代の人たちは和菓子などは逆に食べないんですよ。いろいろ挑戦してみない世代のようです。つまり、お母さんたちがいろいろな料理を作らない家庭では、バラエティに富んだ繊細な味覚が育ちにくいようですね。それに、「食べてもおいしくなかった」というのは、新鮮なもの、できたてのものを食べたことがないということもあると思うのです。最初の体験って重要ですよね。シアトルでは新鮮なできたての和菓子なんて手に入りませんでしたし、日本にいてもできたての和菓子を食べたければ、注文して取りに行くか、よほど売れているところに買いに行かないと手に入りませんよね。でも話に聞くと、シアトルは中西部などに比べてアジアの食べ物に対してはもっと寛容で、保守的な感じが少ないみたいですね。勉強中に、できたてのものは本当においしいということを知りましたし、冷蔵庫や冷凍庫に入れたものはまったく味が違ってきてしまいますしね。

現在はご注文をお受けして作らせていただいています。ですから、これこれこういうお菓子が欲しい、色はどういうものがいいといった細かいご注文も受けています。例えばアメリカ人のお坊さんからご注文を受けたのは、位が上がったことに対するお礼に配りたいということで、袈裟に似た形で色は白といったご注文をしていただけます。

和菓子というのは贅沢なものです。1つの和菓子にたくさんのものが詰まっています。由来があったり、名前がついていたり、意味があったりなかったり、そういったことはアメリカ人が最も聞きたいことの1つだと思います。一つ一つは小さいものですが、時間をかけて、大事に食べていただきたいですね。「和菓子は五感で楽しむもの」と言われるように、まず名前を聞いて、次に目で見て、そして笹や蓬などの匂いをかいで、触ってみて、実際に食べて味わいます。和菓子を作るには五感を研ぎ澄ます必要もあるんですよ。関東のある和菓子屋さんの工房を見学させていただいた時のことですが、「この音がしたら、何かおかしいとか気づけ!五感をフルに活用しろ!」と、修行している人達に言われていたのが印象に残っています。ですから、手を抜くことができないんですよ。手を抜いてしまうと、後悔するだろうし、「大丈夫だったかな」と心配でストレスになりますよね。ベストのものだけを出しておけばストレスがありません。そういうことも、シアトルで裏千家さんに茶菓子を卸させていただきながら学びました。疲れていても、人をだますような、変なお菓子は出せません。そんなものを作ってしまったら、自分で落ち込んでしまいますよね。これからもまだまだ勉強です。がんばっていきたいです。

掲載:2007年11月

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