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第15回 建築におけるサステナビリティ

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

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写真1:カーター大統領とホワイトハウス屋上のソーラーパネル

マヤ文明のマヤカレンダーでは今年がその最後の年と言われている。それが文明の終焉を意味するのか、新しい文明の始まりを意味するのか定かではないが、人類の行き先を考えるにつけ、建築の中のサステナビリティ(省エネ、環境に優しい設計)を再考してみた。

歴史的に見ると、建築界では1970年代になって初めてこのサステナビリティという言葉が使われ始めた。いわゆるオイルショックと言われるこの時代には、原油価格高騰にともなって資源依存に対する批判的な見方が広がる一方、ソーラーパネルの普及、外壁断熱効果の向上という一連の流れが建築界の中で起こった。米国では、カーター大統領がホワイトハウスの屋上にソーラーパネルを取り付けるなど、一時的であったにしろサステナビリティが一般の生活に根付いたかに思われた(写真1)。

しかし、レーガン大統領の時代(1980年代)に入ると、国の政策の視点が中東でのエネルギー確保に変わり、ホワイトハウスの屋上のソーラーパネルも取り払われてしまったと聞く。1990年代に入ると、世界的に地球のエコシステム自体が崩れて来ていることを指摘する批判が増え、生活習慣・態度を変えなければ我々の住む地球の将来が危ういという認識のもとに、再びサステナビリティが建築界でも取り上げられるようになった。

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写真2:Bertschi School Science Wing

この第2のエコ・ムーブメントが始まって今日まで20年近くが経過したが、振り返って見ると、公共・商業建築部門では比較的大きな進歩があったようだ。例えば、建築業界一般に広く利用されている LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)という建物のサステナビリティ度は示す基準がある。この20年間で多くの数の公共・商業建築がこの LEED で高い基準値を示すようになった。

最近完成した Melinda and Bill Gates Foundation 社屋はこの LEED 基準でもっとも高い Platinum の認定をもらっている。また、米国陸軍は将来建設されるすべての軍関係の建物にこの LEED 基準で Silver 以上の高度のサステナビリティの仕様をあてはめることを標準としている。Bertschi School というシアトル市にある私立小学校では2008年に Science Wing という建物が増設されたが、この建物は Living Building という、LEED 基準より更に高度なサステナビリティ仕様を持つ建物で、竣工当時ワシントン州で最も環境に優しい建物と言われた。この建物の特徴は、学校給食に出す食材を庭で育て、屋根に草木を生い茂らせ、雨水はすべて貯水されフィルタで濾過した後にトイレ用の再生水として利用している。また、トイレからの廃棄物はすべて再処理して肥料として再利用し、床暖房には自然換気空調、電気にはソーラーパネルによる自家発電と、学生が毎日勉強しながらサステナビリティを体験できるように作られれている(写真2)。

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写真3:zHome の中庭

それに対し、住宅建築部門では公共・商業ほどの進歩がないように思える。今日に至っても大半の住宅では白熱電球を使用しているし、VOC (揮発性有機化合物)の入ったペンキやシーラーが一般的に使われている。暖房に関して言えば、光熱費の廉価な米国では床暖房よりも強制空気循環型のセントラルヒーティングが圧倒的に多い。これは必ずしも住宅建設に限っていないが、解体後の建設部品・残骸はリサイクルされることなくゴミとして埋め立てに使われている。

その中で、イサクア市に2011年10月に竣工した10棟からなる 『zHome』 と呼ばれるタウンホームは注目に値するかも知れない。日本の住宅メーカーがチームに加わっているこの集合住宅を遠くから見ると、今の人気の高い都市型タウンホームに見えるが、実は屋根に取りつけられたソーラーパネルで発電された電力量が室内で消費される想定電力量を上回るネットゼロエネルギー機能、地中200フィートの深度まで埋められたエタノール液が詰まった管から得られる地中温度を利用して暖房用に利用されるヒートポンプ、日本で加工され現場で取り付けられた断熱性能が州基準の25-40%近くある壁と屋根、そして屋根から出る全ての雨水を再利用し、敷地内の地面を浸透した雨水をすべて濾過処理して還元する機能を持ち合わせるという、今までなかなか達成できなかった住宅におけるサステナビリティを大きく進歩させた優れた建物だ(写真3)。

日本語には古来から「もったいない」という言葉がある。ケニア出身の環境保護活動家ワンガリ・マーガリ女史が2005年に来日した際に発見し、環境保護活動になくてはならないフレーズだとして世界的に有名になったが、2012年の今日、建築のサステナビリティの将来を考える時、もっともわかりやすいイメージは、「もったいない - reduce, waste not」この言葉につきるかもしれない。

掲載:2012年1月

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