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ソプラノ歌手・佐藤康子さん 『Madame Butterfly(蝶々夫人)』 でアメリカ・デビュー

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1904年にミラノ・スカラ座で初演され、その美しいメロディで人気を博し、プッチーニの代表作の一つとなった 『Madame Butterfly(蝶々夫人)』。現在、シアトル・オペラが上演中のこの作品に、イタリアを拠点に日本やヨーロッパの舞台で活躍するソプラノ歌手の佐藤康子さんが主役で出演しています。初めてアメリカの地を踏み、シアトル・オペラでアメリカ・デビューを果たした佐藤さんに、改めてお話を伺いました。

佐藤康子さん

– アメリカ・デビューとなった6日の舞台の後、会場が総立ちで大きな拍手が鳴り止みませんでした。その時、佐藤さんは舞台でどのようなお気持ちでしたか。

本当にビックリしました!満員のお客様全員がスタンディングオベーションをしてくださったことは今まで経験したことがありませんでしたし、自分が観客として歌劇場にいたときも見たことがありませんでしたので、全身の毛が逆立つようでした。

– 観客の受け止め方は、渡米前に予想されていたことと比べていかがでしたか?

予想を遥かに上回る繊細さで一つ一つの言葉を受け止めてくれました。一幕での、スズキらお手伝いさんを前にしたピンカートンの「奴らに名前で呼んでやる必要はないな、一号、二号、三号で十分だ」との言葉に失笑と、ピンカートンへの侮蔑で「オーウ!」という反応がインカムを通してまで聞こえて来たときには笑ってしまいました。

一つ一つの言葉をダイレクトに受け止めて、反応で表現してくれます。字幕が助けてくれているのだと思いますが、歌い手にとって観客の反応を感じるのは大きな助けになり、パワーをいただけることを今回強く感じました。

佐藤康子さん

– 公演終了後のディレクターとのトークセッションに参加した100数人の観客は、佐藤さんの歌はもちろん、演技も細やかな仕草についても絶賛されていました。渡米前のインタビューで伺った佐藤さんの蝶々さんという人物への想いやこれまで研究されてきたことなどがよく伝わっていたのだと思います。特にセッションに参加した観客は、着物を着た時の立ち方や歩き方、物を持つ時や手を添える時に手指がそろっていることなど所作の美しさについても触れ、「そういった細やかなことは、やはり日本人のオペラ歌手でないと、と感じた」との意見もありました。そういった「日本人だからこそ」という考えについては、どう思われますか。

そう言っていただけるのは、本当に嬉しいことですし、ご期待にそうようにもっともっと鍛えなければと思います。ご存知のように日本人だから自動的に身につくわけではなく、日本で所作の先生にたくさん叱っていただきながら勉強してきたので、ご指導いただいた先生に心から感謝するばかりです!出来の悪い生徒だったので!日本人ならではというよりも、やはり着物を着る際にどうしても必要な動き方がありますよね。それをしないといろいろ見えてはいけないものが見えてしまいますので。例えば襦袢が見えたら恥ずかしいとか、そういう感覚は確かに日本人ならではと言えるかもしれません。

– 立ち居振る舞いという点では、「鈴木」役の RENÉE RAPIER さんも、歩き方や手指の仕草などにこまやかな美しさがありました。そういったことは一緒に練習される時などに話し合われるのでしょうか?

ルネさんには本当にエッセンシャルなことしか申しませんでした。押し付けになっても失礼ですし、聞かれたら言おうかなぐらいに思っていましたら、ご自分から積極的に質問して来られたので、少しだけ、例えば手は揃えたほうがいい、お辞儀をするときに背中はいつもまっすぐ、歩くときに両足の内股が離れないように歩くといい、の3つだけお伝えしました。それであの優美さなので、彼女の動作の美しさは御本人がもともとお持ち合わせのエレガンスなのだと思います!

– ピンカートンの乗った軍艦が入港し、その日の夜、皆が寝静まった後、蝶々さんはずっと外に立ち、微動だにせず待つシーンがありました。そのシーンではだんだん時間がたち、夜が深まり、また明けていく様子が照明で表現されますが、あのシーンで蝶々さんはいろいろなことに気づき、現実に目を向け、一人の女性に成長していくのを見ているように感じました。これらのシーンでの佐藤さんのお気持ち、お考えをお聞かせください。

実はあの場面で9分弱、突っ立っているのは中々大変なんですが、これは蝶々夫人の真髄が現れる場面だなと思い、全く動かないことにしました。

その場で素晴らしいハミングコーラス、そして間奏曲を聞いていますと、自然に顔がしょぼたれて目が落ち窪んでくるのです!プッチーニの音楽が蝶々さんの心情と、更け行く夜と、段々に明けていく空とを絶妙に描写している効果だと思います。

– これまで出演されてきた他の国や都市での舞台と、シアトルでの舞台では、何らかの違いはありますか?

稽古場と舞台がいつも綺麗に清掃され管理されているのは日本以外ではシアトルだけで、いつも埃まみれの舞台を私の浴衣で掃除しながら稽古したり、クギを踏んづけながら歌ったりしてましたので、シアトルの働く皆さんの意識の高さに毎日毎回感動しています。

– ステージ・ディレクターが、「能や歌舞伎の要素を意識した舞台設定にした。能や歌舞伎の要素を取り入れたとはとても言えないが、借りてきたとは言える」と話していました。そういったことは佐藤さんも感じられましたか?

舞台装置は質素で、極力、色やモノを置かず、色鮮やかな衣装や背景で彩りを添えるところや、裏で障子などの舞台装置を動かす助演の方が黒い着物を着て日本の黒子さながらに動いているところなど、いろんなところで感じました。特に黒子さんたちは観客席からは影としてしか見えないのに黒い着物をお召のところなど、見えないところにも気を配る様子に感心いたしました。

佐藤康子さん

「花の二重唱」

– 佐藤さんがこのシアトル公演の舞台で一番お好きな場面は何でしょうか。

花の二重唱の場面が大好きです。蝶々さんの子役のヘーゼルちゃんが子供らしいあどけなさで、本気で舞台上の追いかけっこを楽しんでいるのですが、それが本当に可愛いのです!ヘーゼルちゃん、ルネさんとお花かけあいっこの遊びをしているとき、一瞬私は本気で幸せを感じ、蝶々さん自身というより、私、康子自身が、このささやかな蝶々さんの幸せがずっと続いたらよかったのに、と彼女の友達のような気分になり毎回人知れず泣きそうになります。


– 舞台以外で何かシアトルらしい体験をされましたか。

シアトルらしさといえば、街の行く人々がニコッと笑いかけてくれたり、待ちゆく車のマナーがとても良かったり、コーヒーが美味しかったり、だと思うのですが、それら全てを毎日満喫させていただいております!舞台に備えるためあまり外出ができずパイク・プレース・マーケットもスペースニードルも行かれてませんが、良識と優しさあふれるシアトル人の皆さん、そしてこちらにお住まいの日本人の方の優しさとねぎらいのお言葉に心底助けられています。これこそが本当のシアトルらしさかと思います!

– ありがとうございました!

佐藤康子略歴:
千葉県我孫子市出身。東京藝術大学音楽学部首席卒業。学部在籍中に、安宅賞、松田トシ賞、アカンサス音楽賞を受賞。同大学院修士課程オペラ研究科卒業。同大学博士課程修了。声種はソプラノ・リリコで、モーツァルトからヴェリズモまで幅広く歌う。特にプッチーニのオペラ、『ラ・ボエーム』 のミミ、『蝶々夫人』 タイトルロールが当たり役となり、特に蝶々夫人は2008年にスペインでデビュー後、イタリアなどヨーロッパ各地や日本で出演を重ねている。2016年12月には初めてのソロリサイタルも開催した。公式サイトはこちら

シアトル・オペラ 『Madame Butterfly』 公演
公演日:8/5、6、9、12、13、16、18、19
佐藤さんの出演日:8/6、12、16、19

『Madame Butterfly(蝶々夫人)』作品紹介:
舞台は1890年代、明治時代の長崎。没落藩士の娘で15歳の蝶々さんと戯れに結婚した米国海軍中尉のピンカートンは、「きっと帰る」と言い残し、本国アメリカに帰国してしまう。純情な蝶々さんはこの結婚は真実の愛によるものと信じ、ピンカートンとの間に生まれた息子を育てながら再会を待ちわびるが、3年後、裏切られたことを知る。そして、大切な息子を夫とアメリカ人の本妻に託し、元士族の誇りを守るために父の形見の短刀で自死するのだった。

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