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パンデミック【体験談】(8)「大切なものがもっとはっきり見えてきた」写真家 香也子・サリーンさん

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クラフト

クラフト好きな子どもたちの作品

新型コロナウイルスのパンデミックで、ワシントン州では2020年3月から経済活動・社交再開に規制のある生活が続いています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。

第8回は、フリーランスの写真家、香也子・サリーンさんにお話を伺いました。

– 自宅待機命令で、生活はどのように変わりましたか?

スペースニードル

スペースニードルの上には
『WE GOT THIS SEATTLE』
の旗がなびく

ワシントン州で自宅待機命令が出される直前の3月上旬に9歳の次女が熱を出し、102度(摂氏38.9度)前後からなかなか下がらない状態が続きました。咳も出始めたので、かかりつけ医に連絡しましたが、「解熱剤と水分補給で様子を見て」と言われ、当時は新型コロナウイルスに関してよくわからない部分がもっと多くて、検査キットも不足していたので、すぐに検査をしてもらえませんでした。

1週間しても熱が下がらず、シアトル子ども病院の ER に行ったところ肺炎と診断されましたが、それでもまだ検査キットが不足していて、中国への渡航歴・陽性と診断された人と接触があった人のみ検査できると言われ、その場で検査してもらえなかったのです。でも、かかりつけ医からスウィディッシュ病院に連絡してもらって、ようやく検査を受けることができました。結果は陰性だったので、本当に安心しました。

その後、次女が完全に治る前に休校が宣言されました。いつまで休校になるかわかりませんでしたが、勉強する環境を家で作らないといけないと、ダイニングルームに私が昔使っていた古いMacを設置して、子どもが使えるようにしました。

自宅待機命令が出てから、食料品の買い出しは私が一人で1週間に1回行くようにしています。今までは、足りないものがあればその都度買いに行く、衝動買いをするということがありましたが、できるだけ行かないようにして、あるもので作る、残り物を違った形で違う味にして食べるなど、以前よりもっと工夫するようになりました。例えば、夕食の麻婆豆腐が残ったら、翌日に担々麺にする。でも、中華麺がないからそうめんを使う。意外においしくて、「あるものでできるんだ」という発見がたくさんありますね。

– 仕事の面ではどういった変化がありますか。

夫の仕事はオンラインでできるものなので影響は出ていませんが、フリーランスの写真家である私の仕事はすべて延期かキャンセルとなり、借りたばかりのスタジオも使えないのに賃料を支払わないといけない状態です。でも、少し割引してもらえたので、私はラッキーな方だと思います。自分のビジネスを維持するために何ができるか考えてみたら、ウェブサイトのアップデートや SEO の改善など、できることはたくさんありました。今年は制作した映像作品がロンドンのコンペティションの映像部門で2位になったので、映像撮影も前向きにがんばっていきたいと思っています。

そんなわけで、仕事のプロジェクト自体はありませんが、これまでレストランや飲食関係の人とお仕事をさせていただいていたので、何かできることはないかと考えて、レストランのオーナーがスマホでも美味しそうに撮れるチュートリアルを作成しました。それをメールで送って、オンラインでも説明しますよとお伝えしています。

クイーン・アンの商工会議所

クイーン・アンの商工会議所が開催したバーチャルのネットワーキングイベントの様子

また、クイーン・アンの商工会議所の役員なので、中小企業の生き残りをどう支援できるか、オンラインミーティングで話し合ったりしています。今月は初めてバーチャル・アフターアワーズというネットワーキングイベントをやりました。初回にしてはとても上手くいきましたし、これからも月一回のペースで開催していく予定です。フリーモント商工会議所など、近所の商工会議所とコラボしてサポートを拡大できないかと考えています。

シアトルは、大きな街ですが、小さな街のメンタリティがあるというか、みんな協力しあっているのを感じます。バラードでもアーティストの方々が壁画を描いたりしていますね。素晴らしいと思います。シアトルならではかわかりませんが、市やアーティスト団体がこういう状況でアーティストを支援しようとする動きががありますね。

– お子さんのリモート学習はどんな感じですか。

学校からの課題はオンラインで毎日チェックして、その週の課題をこなしていくという感じです。4年生の娘のクラスは3つのグループに分かれて、先生と週2回、オンラインミーティングをしています。わからないところがあったら聞きに来るという感じですね。6年生の娘はクラス全体で一部の科目ごとに週2回オンラインミーティングをして、あとは仲良しの子と Face Time を使って一緒に勉強しています。ミドルスクールは子どもそれぞれ時間割が異なるので、同じクラスがなかった仲良しの子とこれで一緒に勉強できると喜んでいます。

時間的には勉強をそれほどしているわけではなく、午前10時ぐらいに始めて、お昼はたっぷり1時間とって、午後2時から午後3時には終わっています。

2人ともクラフトが好きなので、ダンボール箱など家にあるものを使っていろいろなものを作ったりしています。それ以外の時間は、市立図書館で E-BOOK を借りて読んだり、縄跳び、ローラースケート、自転車とか。夕食は家族そろってみんなで食べられるので、食後の1時間後にどうやって過ごすか話し合って、テレビを見たり、パズルをしたり、集まって本を読んだりしています。

カップケーキ

新しいこととしては、簡単なおかしやランチを作るようになってきたこと。料理には算数が必要なので、レシピには完熟がバナナ4本だけど3本しかないからどうするかとか考えるようになりましたね(笑)。

– 改めて気づいたことにどんなことがありますか。

改めて気づいたのは、「自分が人のためにできることは何か」と考えている人が多いということです。ヨガのバーチャルクラス、マスク作り、レストランの経営が大変なのに医療機関に食事を寄付したりと、人のために何かしたいという気持ちがたくさん可視化されて、素晴らしいと思いました。パンデミックが終わったとしても、こういうことは残ってほしいですね。

それで、「私も何かしたい」と、変なあせりのようなものが出てきたのですが、まず家族が健康に暮らしていくこと、ウイルスの拡散を妨げることが一番大事だと考えて、他と比べることなく、人のために私が何ができるかをゆっくり考えていこうと思っています。

このシリーズの第4回で辻小百合さんが言われていた「貢献心」にとても共感しました。また、第6回でアイリープの恵さんがおっしゃっていた「つながり」、私も大事にしていきたいと思います。あるものを大切にする。家族、お世話になっている人、学校、仕事を一緒にしている人、自然や施設など、当たり前と思っていたものが当たり前でなくなってしまったことで、つながりが本当に大事だと、ひしひしと感じています。

また、この状態に置かれて、大切なものがもっとはっきり見えてきました。先日、ミネソタ州での学生時代からの友人10人とオンラインミーティングをしました。後回しにしていたわけではないのですが、それぞれフルタイムで働いていて育児をしているお母さんたちなので、これまではありえなかったことです。

また、子どもとの時間に集中するようになりました。これまでは仕事をしている時や料理をしている時などに、子どもが「これ教えて」と言ってきても、「待って」と言っていたのです。これは今しなくてはならない、今やってしまいたい、と思っていたことが自分の中にあったのですね。でも、一歩下がってみると、仕事は待てると気づくことができました。それより、子どもにしっかり集中しよう、この子が言っていることを聞こうと思うようになったのです。本当に、毎日を大切にして生きていく思いがもっともっと強くなってきています。

スーパームーン

2020年最後のスーパームーン

もう一ついいことは、空気がきれいになったこと。オリンピック山脈がもっときれいに見えたり、マウント・レーニアの山すそまで見えています。世界中でこの現象が起きていますよね。インドの親戚も数カ月前までスモッグがひどくてガスマスクみたいなものをつけていたのに、今は山脈も見えて空が見えるそうです。これからもその状態をずっと続けるように、暮らし方を変えていきたいですね。

– 「当たり前と思っていたものが当たり前でなくなってしまった」。そういう状況になって、自分やまわりの人、物事に対して、新しい発見がありますね。自宅待機、社会的距離、経済活動の再開など、たいていの人にとって初めてのことですが、いろいろな変化を通じて、本質がさらに見えてくる。今、自分ができることは何か。やるべきことは何か。焦りを感じたりもしますが、おっしゃるとおり、自分のペースが大事ですよね。自分が倒れたら元も子もない。自分や大切な人との時間を大事にして、お互いをしっかりケアして、この長期戦を乗り切っていきたいと思います。

掲載:2020年5月 聞き手:オオノタクミ



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