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世界最高齢プログラマー・若宮正子さん 「私は創造的でありたい」シアトル講演

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「今あるものが面白くなければ、どうしたら面白くなるか考えて、自分で作ってみる」

去る5月25日に『シアトル熱中小学校』で開催された第4回の授業で講師を務めた、世界最高齢プログラマーとして知られる情報技術コミュニケーション(ICT)の伝道者・若宮正子さん。「私は創造的でありたい」と題した約60分間の講義を通して、いろいろな人とコラボレーションをしながら「これだ」と思ったことをどんどん深く掘り下げていく楽しさを、実体験を通して伝えてくれました。

シアトル熱中小学校

「若宮正子です。マーちゃんと呼んでください」

若宮さんの穏やかな語り口に、生徒たちに笑顔が広がりました。1935年生まれの若宮さんは、現在84歳。9歳の時に親元を離れて地方に疎開し、10歳で終戦を迎えました。男女ともに高校を卒業したら働く人が大半を占めた時代で、高校卒業後に銀行に就職。「当時から新しい商品やサービスを思いついては管理部に送っていた」「女性も管理職になれることに気づいて、男性社員が貸してくれた教科書で勉強して試験に合格した」というエピソードから、若宮さんの「やってみたいと思ったことはやる」という姿勢が伺えました。

しかし、その銀行で定年まで勤め上げた若宮さんは、当時90歳だった母親の在宅介護をすることになります。人とのおしゃべりや外出といった大好きなことができなくなると憂鬱になっていたある日、「これがあれば、家から一歩も出ないで、いろいろな人と話ができる」と雑誌で読み、コンピュータを衝動買い。「社交と在宅介護を両立させたい」という強い思いで3ヶ月かけて接続できたパソコン通信で老人クラブ 『めろう倶楽部』 に入会し、毎日を楽しく充実させることを実現しました。コンピュータとネットのおかげで「翼をもらった」という若宮さんは、それだけにとどまらず、10年後に母親が100歳で亡くなると、シニア向けの ICT 学習教室にボランティアとして参加するなどして横のつながりを広げ、活動の場を増やしていきます。

若宮さんに一貫しているのは、「今あるものが面白くなければ、どうしたら面白くなるか考えて、自分で作ってみる」。シニアにとって面白くなかったエクセルも、「編み物や手芸が大好きなシニアの女性のために、手芸の延長線上にエクセルを持ってくればいい」と考え、セルの塗りつぶしやグラデーションなどを使って作れるエクセルアートを生み出し、日本古来の文様や家紋などにヒントを得ながら、オリジナルのバッグ、内輪、洋服などを作り続けています。シアトル講演での洋服も、新しく制作した模様を使ったオリジナルです。「オンラインで作って布にしてくれるところがあるんですよ。お友達がいろいろ手伝ってくれます」。

そんな若宮さんが世界的に有名になったのが、「スマートフォンで若者が遊んでいるようなゲームでシニアも楽しめるものがない。それなら作ってみよう」と制作した『ひな壇』。雛人形をひな壇の正しい位置に置くというゲームで、アーティストが絵を描き、女優が音声を録音し、日本語版、英語版、中国語版、韓国語版までリリース。シニアは苦手なスライド機能を使わず、タップ機能のみを利用するなど、自身の経験にもとづく工夫も高く評価され、2017年にはアップルが開発者向けに毎年開催しているイベント WWDC に招待されるという想定外の展開になったことを笑いを交えながら振り返ります。会場でティム・クック CEO に直接アプリを説明する映像や基調講演での紹介が配信され、「世界最高齢プログラマー」として一躍注目を集めるようになりました。

そうした経験もあり、70歳近い猟師が開発したイノシシ捕獲器制御ソフト(福井発のプログラミング学習用パソコン『IchigoJam』で制作)、高校生が開発した認知症家族が徘徊する患者を見つけるためのスマートフォンアプリなどを例に挙げ、「汎用性の高いソフトウェアやアプリばかりでなく、現場を知っている人が自分にもっとも役立つ自分の使いやすいアプリを開発する時代が来る」と、若宮さん。そして、それを次のレベルに持っていくためには、「プログラミング以外にもいろいろなことができたほうがいい。人間力を高めよう」「いろいろな人たちと出会って高めあい、いろいろな本を読み、音楽や絵などと親しみ、自然とたわむれる。自分だけの世界を持つことが大事」と話してくれました。

言語教育でもよく言われることですが、言語はツール。それひとつだけではできることはかなり限られます。プログラミングも同じで、そのツールを使ってできること、してみたいこと、しなくてはならないことが見えると、勉強の仕方もツールのレベルや使い方も変わります。そして、いろいろな才能や技術を持った人とコラボレーションができ、コラボレーションをしたいと思われる人間的魅力がある人であれば、ひとりではできなかったものを創造することも可能になるかもしれません。

「もう一度7歳の目で世界を」をテーマに、日本の地方各地で12校が運営されている大人の学び舎 『熱中小学校』。その唯一の海外校であるシアトル校には、高校生からシニアまで約100人が参加しています。6月29日(土)・30日(日)に開催されるジャパンフェアでの第1期の最後の授業は一般に開放されているので、興味のある方はぜひ参加してみてください。

シアトル熱中小学校
www.necchu-seattle.org

掲載:2019年6月



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