秋のシアトルは、一年のうちで楽しみ方が大きく入れ替わる季節です。芸術団体やジャズクラブは新しいシーズンを迎え、図書館や書店では作家の講演・朗読シリーズが始まります。また、ファーマーズ・マーケットには秋の食材が、ブルワリーでは収穫したてのホップを使ったビールが並びます。この記事では、日本でおなじみの「芸術の秋」「食欲の秋」「読書の秋」「行楽の秋」「スポーツの秋」に分けて、シアトルで秋ならではの観光スポットをご紹介します。
芸術の秋:地元の芸術団体の公演やライブ
舞台芸術
©︎ Seattle Symphony
シアトルの主な芸術団体の新シーズンは、例年9月から10月にかけて開幕します。何度もシアトルに来ている人でも、前回とは違う舞台に出会えるはず。日が短くなる季節なので、暗くなった後の時間をそのまま劇場で過ごせるのも、秋ならではの楽しみ方です。オペラとバレエの舞台はシアトル・センターにあるマッコー・ホール、シアトル交響楽団はダウンタウンのベナロヤ・ホールが本拠地です。
演劇やミュージカルは、規模も内容も幅広くそろっています。ブロードウェイの巡回公演がかかるパラマウント・シアターやフィフス・アベニュー・シアター、地元の劇団が新作を上演するシアトル・レパートリー・シアターやインティマン・シアターなどをチェックしてみてください。
ライブハウス
ライブハウスは、シアトルの音楽の歴史に触れられる場所です。キャピトル・ヒルの Neumos は、1994年にグランジの拠点「Moe’s」として始まり、今も全米から来るバンドと地元の新しいバンドの両方が出演しています。フォークやブルーグラス、オルタナ・カントリーなら バラードの Tractor Tavern へ。コロンビア・シティの Columbia City Theater は1917年に建てられたワシントン州で最も古いボードビル劇場で、かつてはデューク・エリントンやエラ・フィッツジェラルド、ジミ・ヘンドリックスも出演しました。
ジャズの街としての顔もあります。1920年代から、セントラル・ディストリクトの Jackson Street 周辺にはジャズクラブが集まり、若き日のレイ・チャールズやクインシー・ジョーンズ、アーネスティン・アンダーソンがここで育ちました。今のシアトルを代表するジャズクラブは、ベルタウンの老舗 Dimitriou’s Jazz Alley、ダウンタウンの The Triple Door、パイオニア・スクエアの The Jazz Fellowship など。
そのジャズの街が一年で最もにぎわうのが、秋のイヤーショット・ジャズ・フェスティバルです。シアトルの非営利団体イヤーショット・ジャズが毎年10月を中心に開催するフェスティバルで、市内のさまざまな会場で公演や初演、ワークショップが行われます。太平洋岸北西部を拠点にする演奏家と、世界的に知られる奏者が同じ期間に集まるのが特徴で、DownBeatはこの祭りをシアトルで最も重要な年に一度のジャズ・イベントと評しています。
食欲の秋:ワシントン州産の味
ビール祭り、フレッシュホップのビール
©︎ Fremont Oktoberfest
ドイツのビール祭り「オクトーバーフェスト」は、シアトルでも秋の恒例行事です。市内では、フリーモントの通りを会場にしたフリーモント・オクトーバーフェストが毎年9月に開かれます。1997年から続く祭りで、21歳以上のみが入場でき、雨でも開催されます。
本格的なバイエルン風の祭りなら、カスケード山脈の東側、ドイツ村レブンワースへ。10月の3週末にわたって開かれ、ビアガーデンのほか、三つのステージでの演奏、ストリートフェア、観覧車のある子ども向けエリアがそろいます。レブンワースへ向かう一般的なルートはUS 2で、スティーブンズ・パスを越える必要があります。
Jason Hummel Courtesy of State of Washington Tourism
また、ワシントン州ならではの秋の味が、「フレッシュホップ」のビールです。米国産のホップのおよそ75%を生産するワシントン州では、収穫期の秋に摘んでから24時間以内のホップを乾かさずに使ったビールが醸造されます。日持ちがしないため、多くは小さな仕込みで、醸造所のタップルームを中心に出回ります。秋に醸造所を訪ねると、この時期にしか飲めない一杯に出会えます。
ファーマーズ・マーケット
©︎ Alabastro Photography
旅先で、スーパーマーケットやファーマーズマーケットをのぞいて、その土地の食文化に触れるのを楽しみにしているなら、ワシントン州の旬の食材がそろうファーマーズマーケットへ行ってみましょう。地元の生産者が自分たちで育てたり作ったりした食材を直接売る市場です。キッチンのないホテルに滞在している場合でも、果物、手作りのパンやチーズ、その場で食べられる軽食なら楽しめます。
秋から冬にかけても開かれている通年型のマーケットは、ユニバーシティ・ディストリクトで毎週土曜、バラードとキャピトル・ヒルで毎週日曜に開かれています。バラードのマーケットでは、通り沿いのレストランやカフェ、小売店も開いていて、ストリート・パフォーマーの演奏なども楽しめます。
リンゴも秋が旬です。ワシントン州は毎年秋に全米のリンゴのおよそ65%を収穫しており、収穫は11月末まで続きます。ワシントン州はリンゴのほか、チェリーやラズベリー、ホップ、梨の生産量でも全米1位です。
読書の秋:図書館や書店での作家との出会い
©︎ Rachael Jones
2017年にユネスコの「文学都市」に認定されたシアトルは、数字で見ても本がよく読まれている街です。シアトル公共図書館の27館には2025年に延べ340万人以上が訪れ、本や電子書籍などの貸出は1,270万回、1分あたり24回に上りました。このうち電子書籍や動画配信などデジタルの貸出が720万回で、紙の本などの550万回を上回っており、電子書籍の貸出数は世界で10番目です。シアトル市の外側をカバーするキング郡図書館システム(KCLS)も、2024年のデジタルの貸出が1,034万回を超え、全米2位、世界4位になりました。
秋は、そうした読者が作家に会える季節でもあります。シアトル公共図書館は秋に作家のトークや文学イベントを開催中。図書館のイベントはすべて無料で参加できます。事前の登録が必要なものもあるので、図書館の公式カレンダーでご確認ください。
街の書店でも、作家に会う機会があります。キャピトル・ヒルのエリオットベイ・ブックカンパニーでは、著者の朗読会が頻繁に開かれており、過去には村上春樹さんや桐野夏生さんも訪れました。作家と読者が集まる空気そのものを味わえます。
行楽の秋:季節の移り変わり
サーモンの里帰り
サーモンは、生まれた川に戻って産卵し、その一生を終えます。さまざまな種類がありますが、10月はコーホー(シルバーサーモン)の数が増える時期。WDFWの予測では、2026年にピュージェット・サウンドへ戻るコーホーは、天然と孵化場育ちを合わせて約89万7,000匹に上ります。この大きな群れが、シアトル周辺の川や小川へ上っていきます。
海から戻ったサーモンが最初に通るのが、シアトルのバラード・ロックス(チッテンデン水門)です。ここの魚道を通った魚は、40〜50マイル(約64〜80キロ)先のシーダー・リバーやサマミッシュ・リバー、イサクア・クリークなど、生まれた川を目指します。毎年10月の第1週末には、郊外のイサクア市でサーモンの里帰りを祝うサーモン・デーズ・フェスティバルに15万人以上が訪れます。また、10月の火曜日は、イサクアの孵化場で採卵が行われる日です。孵化場は一年中、毎日夜明けから日没まで無料で見学できます。
紅葉狩り
©︎ Rudy WillinghamVisit Seattle
紅葉を見るなら、ワシントン大学のキャンパスやワシントン・パーク植物園、シアトル日本庭園もおすすめです。
1861年に設立されたワシントン大学は、規模やレベルにおいてもワシントン州を代表する州立大学です。最大規模のシアトル校は、ユニバーシティ・ディストリクトと呼ばれる地域に広いキャンパスを持つ都市型の大学で、医学、薬学、工学、コンピュータサイエンスなどのプログラムは特に高く評価されています。日本を含む東アジア研究も盛んで、その中心となるタテウチ東アジア図書館は行ってみる価値があります。
©︎ Seattle Japanese Garden
シアトル日本庭園は、日本の庭園設計家・飯田十基の監修で1960年に造られた約3.5エーカーの庭園で、秋は夕方早めに閉園します。例年12月から2月は冬季休園になるため、紅葉を見られるのは秋の間に限られます。
2026年夏には、滋賀県の粟田建設の穴太衆15代目・粟田純徳さんが日米の職人を率いて、日本の伝統的な技法で石垣を積み直しました。モルタルを使わず、大きな花こう岩を手で割って形を整え、石を一つずつ組んでいく工法で、粟田さんはこの作業を「石の声を聞き、石が行きたい場所に置く」と表現しています。
スポーツの秋:プロのスポーツ観戦
NFL アメリカン・フットボール
©︎ Rachael Jones
アメフトのシアトル・シーホークスは、2026年2月のスーパーボウルLXで優勝したチームで、秋はレギュラーシーズンの真っただ中。本拠地のルーメン・フィールドはダウンタウンのすぐ南にあり、徒歩、ライトレール、ストリートカー、ライドシェアで簡単にアクセスできます。最大収容人数は約6万8000人。シーホークスのファンは歓声が大きいことで知られています。
NHL シアトル・クラーケン
アイスホッケーのシアトル・クラーケンは10月にシーズンが始まり、平日の夜にもホームゲームがあります。シアトル・センターにある本拠地のクライメート・プレッジ・アリーナは、屋根に降った雨水をためてリンクの氷に使っており、シアトルの雨がそのまま氷になっています。ダウンタウンからはモノレールやライドシェアが便利です。
まとめ
曇りや雨の日が増え、日も短くなって寒くなり、「何か楽しいことあるの?」と迷いがちな秋のシアトル観光。さらに、シアトルはダイナミックな観光地が次々と誕生する街ではないので、何度も訪れていて観光スポットから行き先を探す方式だと、「あそこはもう行った」「ここは何度も行って飽きた」と、すぐに退屈モードに入ってしまいます。
そこで、「自分は普段、何をしているときが好きか」から考えると、行き先ややりたいことを選ぶ基準がはっきりしてくるかもしれません。この記事で紹介した芸術、食欲、読書、行楽、スポーツの5つの「秋」は、その入口になります。
秋にシアトルを訪れるなら、どの「秋」から楽しみますか。気になる見出しの場所を一つ、次の滞在の予定に加えてみてください。
