ワシントン州西部では、夏の終わりから秋にかけてサーモン(サケ)の遡上シーズンが始まります。シアトル周辺の川や小川では、海で成長を終えたサーモンたちが一斉に戻ってくる姿を見ることができます。
このサーモンたちは、春に川や孵化場で孵化し、川を下って海に出て、1〜6年という長い年月をかけて太平洋を広範囲に回遊して成魚となります。そして、繁殖のために生まれ故郷の川に戻るという壮大な旅を続けています。
遡上するサーモンは、川の流れや水温を感じ取りながら、生まれた川を正確に探し当てて戻る驚くべき能力を持っています。シアトルのバラード・ロックス(Hiram M. Chittenden Locks)やレントンのシーダー・リバー、イサクア・クリークなどでは、毎年この時期になると地元の人や観光客が集まり、命がけで川を遡るサーモンの姿を観察します。
この「サーモンの帰郷」は、ワシントン州の自然と文化を象徴する光景であり、先住民族の伝統、地域社会の環境保全活動、そして生態系の健康状態を知る大切な指標にもなっています。この記事では、今年の状況や観察できるスポットなどをご紹介します。
ワシントン州で見られる主なサーモン
© Naomi
ワシントン州魚類野生生物局が提供している情報を簡単にまとめました。
チヌーク・サーモン(Chinook/King Salmon)
チヌーク・サーモンはパシフィック・サーモンの中で最大の種類。大多数は体重50ポンド(約22.5kg)未満ですが、中には体重100ポンド(約45kg)を超えるものもいます。産卵はコロンビア・リバーやスネーク・リバーなどの大河の流れの速い本流で行うことが多いですが、十分な水の流れがあれば比較的小さな川でも産卵します。稚魚は3ヶ月から1年の間に淡水で成長します。成魚になって海から戻ると、生まれ故郷の産卵地まで数百キロを遡上することもあります。
コーホー・サーモン(Coho Salmon)
コーホー・サーモンは、ピュージェット湾での釣りで非常に人気のある種類です。沿岸のほぼすべての小川や河川の支流に生息し、寒冷で清潔な水が一年中流れ込む都市部の小さな小川でも見られます。小川や支流で産卵し、中程度の水流と小~中サイズの砂利を好みます。産卵時期には、水流が増すのを待ってから遡上します。秋に川の中の砂利に産み付けられた卵は翌年の春に孵化し、約18ヶ月後に海へ向かいます。成魚の体重は約6~12ポンド(約2.7~5.4kg)、最大で体重31ポンド(約14kg)、全長2.5フィート(約76cm)になることがあります。
レイクサマミッシュにて
ソッカイ・サーモン(Sockey Salmon / Red Salmon)/ 紅鮭(ベニザケ)
ベニザケ(ソッカイ)は、パシフィック・サーモンの中で最も風味が豊かな種類とされ、ワシントン州ではレイク・ワシントンやベーカー・レイクなどで見られます。稚魚が湖で成育するため、産卵する河川は湖に繋がっている必要があるそう。湖で1~2年間成長するので、水質の低下に影響を受けやすくなります。成魚は5~8ポンド(約2.3~3.6kg)、最大で15ポンド(約6.8kg)になることがあります。
チャム・サーモン(Chum Salmon)
チャム・サーモンは沿岸の小さな川や大河の下流域で産卵します。コーホー・サーモンと同じ川を使うことが多いですが、コーホーは上流に進んで産卵するのに対し、チャムは海に近い場所で産卵します。これはチャムの体が大きく、深い水を必要とするため、または跳躍能力がコーヒーに劣るためとされています。チャムの稚魚は淡水に数日しか留まらず、すぐに下流の河口に移動し、数ヶ月間そこに留まった後、海へ移動します。オスのチャム・サーモンは「ドッグ・サーモン(Dog Salmon)」というニックネームがありますが、産卵時に犬歯に似た大きな「歯」が発達することに由来しています。成魚は体重10〜15ポンド(4.5〜6.8kg)、最大33ポンド(約15kg)になることもあります。
ピンク・サーモン(Pink Salmon)/ カラフトマス
ピンク・サーモンは、秋に産卵するパシフィック・サーモンの中で最も小さな種類です。大きな河川の本流や支流の塩水に非常に近い場所で産卵することが多いです。孵化してすぐに海に移動するため、海に近い場所で産卵するほど有利です。移動距離が短いため、捕食のリスクが減り、生存率が向上します。時には、カラフトマスは淡水を避け、直接塩水で産卵することもあります。オスのピンク・サーモンは、産卵期に背中に大きなコブができるため、「ハンプバック・サーモン」というニックネームがあります。そのライフサイクルは非常に規則的で、2年生きた後、次世代を産卵するために戻ってくるため、ワシントン州では、ピンク・サーモンの回遊は隔年でしか発生しません。体重は3~5ポンド(約1.4~2.3キロ)、最大で12ポンド(約5.4キロ)になることもあります。
おすすめ観察スポットと見頃(2025年)
サーモンがピュージェット・サウンドからバラード・ロックスを通過し、生まれ故郷の川まで遡上するには、時間がかかります。ワシントン州ではバラード・ロックスで毎日カウント数を発表していますが、カウントされたサーモンが翌日に上流の川に姿を現すわけではありません。例えば、ピュージェット・サウンドからイサクア・クリークにある孵化場までたどり着くには、約42マイル(約67キロ)の距離を遡上する必要があります。さらに、サーモンの種類によって海から戻ってくる時期も異なります。2025年に最初のチヌーク(キングサーモン)の成魚が確認されたのは8月17日でした。なので、見頃の時期を確認し、それぞれのカウント数を公式サイトなどで確認してから出かけるのがおすすめです。
メジャーな観察スポットと見頃の時期
観察スポット | 見頃の時期 | ポイント |
---|---|---|
バラード・ロックス(Ballard Locks) | ソッカイ:6月中旬〜7月中旬 チヌーク:7月下旬〜9月 コーホー:9月〜10月初旬 | 観察室から遡上の様子を間近で見学可能。公式サイトでデイリーカウントをチェック推奨。 |
イサクア・クリーク(Issaquah Creek) | 9月〜10月 | サーモン孵化場(Issaquah Salmon Hatchery)で解説付きツアーが開催されます。 |
シーダー・リバー(Cedar River) | 10月〜11月 | レントン近郊。解説員によるガイドウォークが毎週末に実施。 |
カーネーション・チヌーク・ベンド(Chinook Bend) | 9月頃 | スノコルミー・リバー沿いで野生のチヌーク観察が可能。 |
ノース・シアトルや郊外でサーモンが見られる場所(一部)
The Salmon SEEson program(サーモン・シーソン)は、夏の終わりから秋にかけて海から戻ってくるサーモンを観察するのにおすすめの川や小川を紹介するプログラムです。地図でチェックしてみてください。
- Pipers Creek in Carkeek Park(ノースシアトル)
- Longfellow Creek(ウエストシアトル)
- North Creek (ボセル)
- Issaquah Creek(イサクア・クリーク)
- Cedar River(レントン)
- Snoqualmie River – Chinook Bend(カーネーション)
- Raging River(フォール・シティ)
- Swan Creek Park(タコマ)
- Fennel Creek(ボニー・レイク)
- Chuckanut Creek(ベリンハム)
- Hoh River(オリンピック国立公園)
個体数減少と保護活動
サーモンは、特に先住民族にとって、文化的、経済的、環境的に非常に重要な資源です。そのため、キング郡やピュージェット・サウンド周辺では、地元政府、部族、コミュニティグループが協力して、生息地の保護や復元、道路やその他の硬い表面からの汚染された未処理の雨水の管理を行い、サーモンを保護するためにできることについての教育を提供しています。
ピュージェット・サウンドのチヌークは、1999年にESA(絶滅危惧種法)で指定されて以降、多くの集団で減少傾向が続いています。主な要因は以下の通りです。
- 生息地の改変:ダムや宅地開発による河川環境の変化
- 水温上昇:夏の高水温が遡上を阻害
- 汚染と雨水流入:都市部のストームウォーターが水質に影響
NOAA Fisheriesや地元部族、自治体は、河川回復プロジェクトや魚道整備、雨水管理などの対策を進めています。参考:NOAA Fisheries Puget Sound Chinook Recovery
観察のコツと安全対策
- 最新のデイリーカウントをチェックして混雑を避ける
- 平日や午前中に訪れると観察しやすい
- 河岸では滑りやすい箇所があるため歩きやすい靴で
- ボランティアガイドのツアーに参加する
サーモンのライフサイクル
サーモンのライフサイクルは個体群や種類によって異なりますが、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、アイダホ州のサーモンのライフサイクルは、河川で始まります。ここでは、シアトル地域のサーモンについて基本的な流れを簡単にまとめました。
シアトル地域には、二つの大きな水域があります。サーモンの卵は受精して数週間から数ヶ月間、卵の状態で過ごします。孵化したサーモンは、砂利の巣の中で栄養を取ります。
- レイク・ワシントン水域:シーダー・リバーなどレイク・ワシントンに流れ込む河川で構成される
- サマミッシュ水域:イサクア・クリークなどレイク・サマミッシュに流れ込む河川で構成される
数時間から数年にわたって川に留まったサーモンは、海へ向かいます。レイク・ワシントンを通ってシアトルのバラードにある水門バラード・ロックスに到達し、ゆるやかに海へ移動できるよう作られたフィッシュ・ラダーを通ります。そして、数日から数週間、河口域で栄養を取りながら、海に入る準備をします。
ピュージェット・サウンドに入ったサーモンは、数年にわたって北米の西海岸沿いを広範囲にわたって回遊する間に成魚となります。海を回遊する期間は1〜6年と、種類によって異なります。
数年かけて成魚となり、繁殖する準備が整うと、サーモンは生まれ故郷の川に向かうため、海から戻ってきます。生まれ故郷の川にたどり着くまで、急流、滝、人間や野生動物、水力発電ダムなどに遭遇したりして、個体数が減っていきます。
生まれ故郷の川に辿り着いた成魚のメスは、砂利に数千個の卵を産み、それをオスが受精させます。産卵後、成魚は死に、その体は生態系の栄養となります。産卵の時期は種類によって異なります。