去る6月1日、シアトルのファースト・ヒルにある会員制クラブで、日本酒のテイスティングイベントが開かれました。主催は日本酒の輸出事業を手がける日本名門酒会(Japan Prestige Sake International)。今回は奈良県の「春鹿(今西清兵衛商店)」、宮城県の「一ノ蔵(株式会社一ノ蔵)」と「浦霞(株式会社佐浦)」という、日本でも名高い3つの酒蔵が来米し、酒蔵のエキスパートと直接対話をしながら、それぞれの酒が持つ物語と味わいをじっくり楽しむ機会となりました。
当日の様子は、下記のREELでご覧ください。(ジャングルシティの英語版インスタグラムアカウントです)
まず奈良から参加した春鹿(はるしか)は、1884年創業の歴史ある蔵で、地元・奈良の軟水と伝統技法を活かした清酒造りに定評があります。今回紹介された「純米 超辛口」は、日本酒度+12の切れ味鋭い味わいで、刺身や焼き魚などシンプルな和食と抜群の相性とのこと。続いて「純米吟醸」は、米の旨味と柔らかい香りが調和し、単体でもじっくり味わえる一本。そして「発泡清酒 ときめき」は、甘口でアルコール度数6%と軽やか。食前酒やデザートワインのような感覚で楽しめ、日本酒に不慣れな人やスイーツ好きにもおすすめです。
宮城県大崎市から参加した一ノ蔵(いちのくら)は、1973年に4つの蔵が統合して設立された酒蔵で、サステナブルな酒造りにも積極的に取り組んでいます。今回提供された「大吟醸 蔵の華(くらのはな)」は、実は日本では販売されておらず、海外市場専用に設計された一本。低温でじっくり発酵させることで生まれるフルーティーで華やかな香りは、ワイン好きにも支持される仕上がりとなっています。「特別純米 樽酒(たるざけ)」は、72リットルの杉樽で7日間熟成され、木の香りと酒の旨味が絶妙に溶け合った一ノ蔵ならではの風味。焼き鳥や照り焼きなど、香ばしい料理と合わせて楽しむことでその特徴が際立つそうです。また「ひめぜん柚子(ひめぜんゆず)」は、宮城県産の柚子の果汁を加えた清涼感あふれるリキュールで、甘すぎず爽やか。「冷やして飲むのはもちろん、凍らせてシャーベット風にするのもいいかも」という声が参加者から上がっていました。
もう一つの宮城の蔵・浦霞(うらかすみ)は、創業1724年、塩竈神社の御神酒を担ってきた由緒ある蔵。浦霞の酒は、米の旨味と落ち着いた香りが調和した「食中酒」としての評価が高く、素材の旨味をしっかり引き出した味わいは地元でも海外でも根強いファンが付いています。今回紹介された「純米酒 浦霞」は、すっきりした飲み口が印象的。ラインアップの中でも最もよく知られている一本で、日常の食卓にもぴったりの味わいとなっています。そして、とてもまろやかな口当たりなのが、1973年の発売以来、浦霞を代表するロングセラーとなっている「純米吟醸 浦霞 禅」。飲みやすく、さまざまな料理に合うというのも頷けます。また、「浦霞 本醸造 原酒」は、通常の本醸造よりも濃厚で力強い味わい。今回提供された揚げ焼売や焼き餃子と味わってみたところ、揚げ物や味付けの濃い料理とも好相性というのに納得。贈答にも喜ばれる一本です。
このテイスティングイベントは、約20名の参加者限定で行われ、各酒蔵の代表者や輸出担当者が、参加者一人ひとりに丁寧に説明を行い、酒の造り方や特徴、ペアリングの提案なども交えながら交流を深めていました。酒蔵の方と直接話しながら飲んだお酒は、特別な記憶として残ります。「次にお店やレストランで日本酒を選ぶ時は、顔を合わせて話をし、気に入った味わいの一本を選ぶ」といった声も聞かれ、体験型の日本酒プロモーションとして大きな効果を感じさせました。
また、シアトルの人気日本酒バー「Sake Nomi」でも今回の来米酒蔵を迎えたイベントが行われ、シアトルの飲食業界関係者や日本酒ファンの間でも話題に。今後もこうした少人数イベントを通じて、シアトルの日本酒文化がさらに広がっていくことが期待されます。
今回提供された日本酒は、宇和島屋や日本酒バー『般若湯』『Sake Nomi』などでも入荷される予定です。
文:オオノタクミ