日本をはじめ、さまざまな国のメディアが毎月初めに米国雇用統計のニュースを報道しており、これらのデータが株価や為替相場など国際経済に影響することは、皆さんもご存じだと思います。
この統計を発表しているのは、米国労働統計局(Bureau of Labor Statistics/以下BLS)という政府機関で、労働経済および統計分野における米国政府の中核的な調査機関として、米国労働省(DOL)の傘下にあります。日本の「総務省統計局」と「厚生労働省の労働統計部門」の機能をあわせ持つ組織と考えていただくとわかりやすいです。また、多くの企業人事や経営層が利用している消費者物価指数(CPI)や、全米、州別、地域別、職種別、規模別などの詳細な平均賃金データを調査・発表しているのもBLSです。
米国労働統計にあまり縁のない方も、8月1日に発表された統計で、過去2か月間の新規雇用者数が大幅に下方修正されたことから、トランプ大統領の逆鱗に触れ局長の更迭へと発展し、ニュースで大きく取り上げられたことはご存じかもしれません。
この発端となった5月の新規雇用者数は、144,000人から19,000人に、6月の合計は147,000人から14,000人へと下方修正され、実に当初の報告より合計258,000人も減少しました。
新規雇用者数が改訂される理由
実は新規雇用者数の修正は、8月に限らず毎月実施されています。これはBLSが毎月初めに初期の雇用主調査に基づく暫定的な雇用統計を発表していることに起因しており、より完全なデータが利用可能になると、これらの数字は通常2回改訂されます。これは労働市場をより正確に理解するために有効とされていますが、7月のように極めて大きな改訂は珍しいです。
「5月の雇用は予想より鈍化した」。これは6月に発表された米国雇用統計を受けたウォールストリートジャーナルの見出しですが、もし実際の数値発表後であれば、もっとセンセーショナルな見出しが躍っていたに違いありません。
8月の主要統計データ
9月5日(金)に発表された8月度の主要な雇用統計データは以下のとおりです。
- 全米失業率:4.3%(前月比+0.1%)
- 失業者数:740万人
- 非農業部門新規雇用者数:22,000人
- 業界別新規雇用者数:ヘルスケア+31,000人、ソーシャルアシスタンス+16,000人、個人・家族サービス+16,000人、連邦政府-15,000人、卸売業-12,000人、製造業-12,000人、輸送機器-15,000人、鉱業と石油-6,000人
- 27週以上の長期失業者数:190万人(前年同月比+385,000人)
メディアがあまり取り上げないデータ
毎月初めに各メディアが必ずトップで取り上げるのが失業率です。この数字は全米平均のみですが、実はBLSは約3週間遅れで、50州にワシントンD.C.を加えた州別データも発表しています。下記は8月19日に発表された2025年7月の州別失業率データで、地域によって失業率に差があることがわかります。
7月は最も低いサウスダコタ州で1.9%、最も高いワシントンD.C.で6.0%と、4%以上の差が生じています。ワシントンD.C.の失業率が高いのは、イーロン・マスク氏によって一躍有名になった政府効率化省(DOGE)によって多くの連邦職員が解雇されたことに起因すると考えられます。
採用方針にも影響する年代別失業率
州別以外でもあまり取り上げられないデータに、年代別失業率があります。下記は最新の2025年8月の年代別失業率から、一般企業で雇用の中心となる年代層のデータを1年前と比較したものです。
年代 | 2024年8月 | 2025年8月 |
---|---|---|
20〜24歳 | 7.9% | 9.2% |
25〜34歳 | 4.5% | 4.4% |
35〜44歳 | 3.4% | 3.5% |
45〜54歳 | 2.7% | 2.9% |
55歳以上 | 3.0% | 2.9% |
このデータから、アメリカでは若年層、特に短大や大学の新卒者が含まれる20〜24歳の失業率が極めて高いことがわかります。これは35歳以上と比較すると3倍近い数字です。
この数字を裏付けるように、米国人事マネジメント協会(SHRM)のシニア労働エコノミストであるラドナー氏は、「22歳から24歳の大学新卒者は、AIにより初級レベルの職種が減少したことで就職に苦戦している」と述べています。これは、アメリカで若年層の失業率が低かった過去の傾向を逆転させており、長く売り手市場が続いている日本の新卒採用市場とは大きく異なる様子を示しています。
今回はスペースの都合で一部しか紹介できませんでしたが、BLSは非常に幅広い雇用関連データを発表しています。
※特に記述がない場合、データの出所はすべてUS Bureau of Labor Statistics/BLSです。
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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