ワシントン州北西部、コースト・サリッシュのスノホミッシュ族(Snohomish people)が古来から住んでいたスノホミッシュ・リバー・バレー(Snohomish River Valley)。この地域は肥沃な土壌と温暖な海洋性気候を活かして農業が盛んで、エベレット(Everett)、マカティオ(Mukilteo)、スノホミッシュ(Snohomish)といった都市が沿岸・川沿いに発展しています。特にカスケード・ループ(Cascade Loop)の旅行者にとって、これらの都市は北部起点(または終点)として便利な拠点です。
スノホミッシュ・リバー・バレーの主な都市
都市 | 推定人口 |
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Everett(エベレット) | 約114,800人 |
Mukilteo(マカティオ) | 約21,600人 |
Snohomish(スノホミッシュ市) | 約10,500人 |
主要都市の特徴と歴史
Everett(エベレット)
シアトルの北約25マイル(約40km)に位置するエベレットは、スノホミッシュ郡の郡庁所在地であり、ワシントン州では7番目に大きな都市です。
ネイティブ・アメリカンのスノホミッシュ族がこの地に古くから住み、スノホミッシュ・リバー(Snohomish River)などの水系・海岸線が彼らの暮らしと文化に深く関わっていました。
19世紀後半に製材業と港湾開発によって発展し、当時は「ミルタウン(Milltown)」とも呼ばれるほど多くの製材所やシングル工場が並んでいました。1902年にはウェアハウザー社が製材工場を設立し、木材産業の拠点として栄えました。戦後にはボーイング社の航空機組立工場が建設され、航空宇宙産業が市の経済の柱となっています。
現在も港湾、製造業、小売・サービス業が主要産業で、ウォーターフロントの再開発プロジェクトも進行中です。ダウンタウンには1904年に建てられたエベレット・カーネギー図書館やヒストリック・エベレット劇場など、歴史的建築物や文化施設が残され、街の歴史と文化を感じながら散策できます。シアトルからは高速道路I-5や通勤列車でアクセス可能で、エベレット駅を拠点に鉄道やバスの接続も整っています。
観光ではボーイング工場見学が人気。詳細は下記の記事でご覧ください。
Mukilteo(マカティオ)
シアトルの約25マイル(約40km)北にあるマカティオ市は、ワシントン州フェリーの発着所(マカティオ〜クリントン航路)とマカティオ・ライトハウスという灯台で知られています。1906年に設置されたこの灯台は、アメリカ北西部で現存する数少ない木造灯台の一つで、現在も第4等フレネルレンズを使用して点灯しています。1979年に自動化され、現在は米国沿岸警備隊(U.S. Coast Guard)が遠隔で管理しています。
1792年にはこの辺りを探検していたイギリスのジョージ・バンクーバー艦長が停泊したことを伝える記念碑があり(Historylink.org)、20世紀初頭にはクラウン・ランバー・カンパニー(Crown Lumber Company)が労働力不足のため日本人労働者を積極的に採用しました(Historylink.org)。1930年頃には最大約200人の日本人・日系人が暮らしていたとされますが、彼らは製材所近くの谷間にある会社所有住宅で生活し、この一帯は「Japanese Gulch(ジャパニーズ・ガルチ)」と呼ばれていました(gulch は「狭く深い谷、谷間の集落」の意)。大恐慌で製材所が閉鎖されると多くが移住しましたが、コミュニティの記憶は現在も受け継がれています。
第二次世界大戦中は防衛目的で使用され、1960年代にはボーイング社が活用。2007年には企業による工業団地化計画が持ち上がりましたが、住民の反対により2014年に市が買収し、公共地として保全されました。2000年には日本文化遺産と人種間調和の象徴として記念碑が設置され、現在は人気のハイキングトレイルとなっています。
また、エドモンズ・カレッジの人類学者アシュリー・ピカード氏とアリシア・ヴァレンティーノ氏は2010年から発掘調査を継続しており、学生と共に考古学フィールドスクールを通じて出土品の解析や地域史の再構築に取り組んでいます。
「マカティオ」とは発音に近いカタカナ書きとして使っています。スペルは “Mukilteo” で、これをカタカナ読みで「ムキルテオ」と読んでも通じません。そもそも Mukilteo はスノホミッシュ族などの先住民の言葉(Lushootseed語)で “良いキャンプ場(good camping ground)” を意味するとされています。ピュージェット・サウンド沿岸のこの地は、かつて先住民たちが集まり、交易や漁を行う拠点でした。
Snohomish(スノホミッシュ市)
スノホミッシュ市は、エベレットの南東に位置するスノホミッシュ・リバー沿いの歴史ある町。1859年に町が設立された当初はケイディビル(Cadyville)と呼ばれ、1871年に現在の名称となりました。
1897年までスノホミッシュ郡の郡庁所在地であり、蒸気船の港や材木業で発展。現在もビクトリア様式やアーツ・アンド・クラフツ様式の住宅や商業建築が多数残っており、1973年に歴史地区に指定され、1974年には全米歴史登録財(National Register of Historic Places)に登録されました。
ダウンタウンにはアンティークショップやカフェが立ち並び、「ノースウエストのアンティークのメッカ」として知られています。川沿いの遊歩道や公園も整備され、ブラックマン・ハウス・ミュージアムでは19世紀の生活を知ることができます。歴史的建物を活かした街並みとイベントが観光客に人気で、住民にとっても地域コミュニティを感じられる場となっています。