シアトルから南へ車で約45分、ワシントン州第3の都市タコマは、美術館・博物館、動物園・水族館、原生林の広がる大公園がそろった街です。
かつては港町・工業都市として知られたタコマですが、1990年代に始まった再開発でダウンタウンは大きく生まれ変わりました。パシフィック・アベニューからフォス水路にかけては、ガラス美術館、ワシントン州歴史博物館、タコマ美術館、ルメイ・アメリカ自動車博物館が徒歩圏内に集まる「ミュージアム地区」となっています。世界的なガラス・アーティスト、デール・チフーリ氏の故郷でもあり、街のあちこちで彼の作品に出会えます。
ダウンタウンの北西には、広大なポイント・デファイアンス・パークと、太平洋北西部で唯一の動物園・水族館一体型施設であるポイント・デファイアンス動物園・水族館があります。この記事では、タコマで訪れたい主な見どころをエリアごとに紹介します。
ダウンタウンのミュージアム地区
主要な4館は徒歩や路面電車「Tライン」で移動できる範囲にあり、一日でまとめて回ることも可能です。
Museum of Glass ガラス美術館
タコマ出身のガラス・アーティスト、デール・チフーリ氏と、ピュージェット・サウンド大学の学長だったフィル・フィブス博士の構想から生まれた、現代ガラスアートの美術館です。2002年7月の開館以来、タコマを代表する観光スポットとなっています。
見どころは、円錐形の建物内にある工房「ホットショップ(Hot Shop)」です。米国西海岸で最大級のガラス工房で、職人が吹きガラス作品を仕上げていく様子を間近で見学できます。
ダウンタウンと美術館を結ぶ歩道橋「チフーリ・ブリッジ・オブ・グラス」は、ワシントン州歴史博物館も手がけたアーサー・アンダーソン氏の設計です。橋の天井や壁面にはチフーリ氏の作品が並び、無料で楽しめます。
同館は2026年4月、開館以来初となる大規模改修に着手しました。照明や展示ケースを一新し、イタリアの巨匠リノ・タリアピエトラ氏の作品を常設する新ギャラリーも設けられる予定です。工事中も通常どおり開館しています。
Washington State History Museum ワシントン州歴史博物館
ワシントン州の歴史を学ぶなら、まず訪れたい博物館です。建築家のチャールズ・ムーア氏とアーサー・アンダーソン氏が設計し、隣接する歴史的な駅舎ユニオン・ステーションと調和するアーチ型の外観が特徴です。
人形や音声、映像を使った展示で州の歩みをたどる「Great Hall of Washington History」は必見です。コロンビア・リバー沿いの岩面印刻(ペトログリフ)をモチーフにしたシアターではネイティブ・アメリカンの文化と伝統を、「Hard Times and Homefront」の展示では日系人強制収容など第2次世界大戦中の出来事を学べます。特別展やサマーキャンプ、イベントも開催されています。
隣のユニオン・ステーションは現在、連邦裁判所として使われています。ドーム内部にはチフーリ氏の大型作品が展示され、平日は無料で見学できます(入館時にセキュリティチェックがあります)。
Tacoma Art Museum タコマ美術館
1935年の開館以来、地元はもちろん、世界各地のアーティストによる作品を収集し、一般に公開してきたタコマ美術館。タコマ出身のデール・チフーリ氏によるガラス作品は常設展として展示され、3,200点を超える19世紀ヨーロッパの作品や20世紀アメリカの作品を所蔵し、随時公開展示しています。
タコマ美術館をデザインしたのは、ニューメキシコ州アルバカーキを拠点に世界各地で活躍する建築家アントワーヌ・プレドック。同美術館の公式サイトによると、周囲の環境に溶け込むようなデザインが最適と考えたプレドックは、米国北西部の柔らかな自然光を利用し、周辺の産業施設やワシントン州の最高峰でタコマ市の名前の由来となったマウント・レーニア(ネイティブ・アメリカンはタホマと呼んでいました)、そして今ではダウンタウン・タコマの中心となっている博物館や美術館をその外壁に映し出すようなデザインを創り出しました。
プレドックの創意工夫は外観だけにとどまらず、内部にはこの美術館を取り囲む自然からインスピレーションを受けたギャラリーが広がります。米国建築家教会(AIA)はプレドリックの一連の重要作品が建築の理論と実践に持続的な影響を与えているとして、2006年に最高の栄誉である金メダルを授与しました。
LeMay – America’s Car Museum ルメイ・アメリカ自動車博物館
タコマ・ドームの隣にある、北米最大級の自動車博物館です。2012年6月に開館した4階建ての館内には、クラシックカーからマッスルカー、レース車両まで、テーマ別の展示が並びます。
地元の実業家ハロルド・ルメイ氏は妻のナンシーさんとともに3,000台を超える車両を収集し、個人コレクションとして世界最大とギネス世界記録に認定されました。その一部に加え、各地のコレクターから借り受けた車両も展示され、展示内容は定期的に入れ替わります。レーシングシミュレーターなど、子どもも楽しめる体験型の展示もあります。
Children’s Museum of Tacoma タコマこどもミュージアム
幼い子ども連れの家族におすすめなのが、パシフィック・アベニュー沿いにあるこどもミュージアムです。子どもの遊びと学びを支援する非営利団体グリーントライク(Greentrike)が運営しています。
入館料は金額を各自が決める「ペイ・アズ・ユー・ウィル(Pay as You Will)」方式で、気軽に立ち寄れるのも魅力です。音や光を抑えた感覚に配慮した時間帯も設けられています。
館内は自然をモチーフにした遊びの空間で、乳幼児から小学生くらいまでの子どもなら保護者と一緒に自由に体を動かして遊べます。
開館は曜日が限られており、午前と午後の入れ替え制で運営されています。お出かけ前に公式サイトで開館日と時間をご確認ください。
ポイント・デファイアンス・パーク
1888年に開設された約760エーカー(約308ヘクタール)の広大な公園で、タコマ市民の憩いの場です。ピュージェット・サウンドに突き出した半島の先端に位置し、年間300万人以上が訪れます。
公園の約半分にあたる約400エーカーは原生林で、シカやハクトウワシ、海岸ではゼニガタアザラシに出会うこともあります。市街地からすぐの場所で、太平洋北西部らしい深い森を歩けるのが魅力です。
ファイブマイル・ドライブ(Five Mile Drive)
公園をぐるりと一周する約5マイルの周回路で、1913年に開通しました。途中の展望スポットからは、タコマ・ナローズ・ブリッジ、ヴァション・アイランド、ギグハーバー、マウント・レーニアを見ることができます。外周部分は2022年から車両通行が止められ、徒歩や自転車、ランニングで楽しむ道となっています。
オーウェン・ビーチ(Owen Beach)
公園内で最も人気のあるビーチです。マリーナから約0.75マイルの海沿いの遊歩道でつながっており、ピクニックや海辺の散策、季節によってはカヤックのレンタルも楽しめます。対岸にヴァション・アイランドを望む景色は、写真スポットとしても人気です。
フォート・ニスクワリー 生きた歴史博物館
1833年にハドソン・ベイ会社が現在のデュポン付近に開いた交易拠点を、公園内に移築・復元した施設です。時代衣装をまとったスタッフが19世紀半ばの暮らしや手仕事を再現しており、アメリカ北西部の開拓史を体感できます。
日本庭園とパゴダ(Pagoda)
日本人にとって気になるのが、和風の屋根をもつレンガ造りの建物「パゴダ」です。1914年に路面電車の駅として建てられ、電車廃止後はバスの駅として1962年まで使われました。その後、地元のガーデンクラブが集会所として活用し、隣に日本庭園をつくりました。2011年に放火で被害を受けましたが、修復を経て現在も公園のシンボルとなっています。
周辺にはローズガーデン、ダリアの試験庭園、シャクナゲ庭園、北西部の在来植物を集めた庭園などもあり、春から秋にかけて季節ごとの花を楽しめます。
デューン半島(Dune Peninsula)
©︎Weekend Sherpa Courtesy of State of Washington Tourism
公園の東端、フェリー乗り場の東側にある約11エーカーのエリアで、2019年7月にオープンしました。名前は、タコマ出身のSF作家フランク・ハーバート氏の代表作『Dune(デューン)』にちなんでいます。
この場所はもともと、アサーコ(ASARCO)社の銅製錬所から出たスラグ(鋼滓)でできた半島でしたが、汚染された土地を土と防水シートで覆って公園として再生したことから、環境と再生を描いた『デューン』の名を冠するのにふさわしいと考えられています。
半島を一周する遊歩道「フランク・ハーバート・トレイル」には、ハーバート氏や『デューン』からの引用を刻んだメダルが埋め込まれています。マウント・レーニアやピュージェット・サウンドを見渡せる広場は、夕焼けを眺めるスポットとしても人気です。
半島とラストン・ウェイの海岸通りは、全長605フィート(約184メートル)、高さ50フィート(約15メートル)の歩行者・自転車専用橋「ウィルソン・ウェイ橋」で結ばれています。橋の東端には下の駐車場へ滑り降りられる6本の滑り台があり、子どもたちに大人気。橋を渡った先のポイント・ラストンにはレストランやカフェが並び、散歩と食事を楽しむのにおすすめです。
Point Defiance Zoo & Aquarium ポイント・デファイアンス動物園・水族館
ポイント・デファイアンス・パーク内にある、太平洋北西部で唯一の動物園と水族館が一体となった施設です。430種を超える動物が暮らし、園内からはマウント・レーニアやピュージェット湾を望めます。
水族館は2つあります。「パシフィック・シーズ水族館」では地元ピュージェット湾や太平洋の生き物を、「トロピカル・リーフ水族館」では熱帯のサンゴ礁の世界を観察できます。どちらにも生き物にそっと触れられるタッチプールがあり、子どもに人気です。
動物園エリアでは、ワシントン州では唯一のゾウやホッキョクグマが飼育されています。ヤギとふれあえるコーナーや、飼育員による毎日のプレゼンテーションも楽しめます。ホリデーシーズンには、園内を無数の光で飾るイルミネーション「ズーライツ(Zoolights)」が開催されます。地元で長く親しまれているイベントです。
開園時間は季節によって変わり、冬季は閉園が早まるほか休園日もあります。チケットは公式サイトでの事前購入がおすすめ。駐車場は無料。料金や最新の営業時間は、お出かけ前に公式サイトでご確認ください。
そのほかの見どころ
Courtesy of Visit Tacoma Pierce County
- タコマ・ドーム(Tacoma Dome):木造ドームとしては世界最大級の多目的アリーナです。コンサートやイベント会場として使われ、ルメイ・アメリカ自動車博物館のすぐ隣にあります。
- タコマ・ナローズ・ブリッジ(Tacoma Narrows Bridge):1940年に強風で崩落した初代の橋は、「ギャロッピング・ガーティー」の愛称で工学史に名を残しています。現在は2本の吊り橋が並んでおり、ポイント・デファイアンス・パークからも眺められます。
- チャンバーズベイ・ゴルフコース(Chambers Bay):タコマの南西、ユニバーシティ・プレイスにあるリンクスコースで、2015年の全米オープンの会場となりました。コースの外周には一般の人も歩ける散策路があり、ピュージェット湾に沈む夕日の名所です。
- 北九州市とのつながり:タコマ市は1959年から北九州市と姉妹都市関係にあります。港町同士として長く交流を続けており、日本にゆかりのある街といえます。
アクセスと回り方のヒント
シアトルからは、高速道路 I-5(アイファイブ)を南へ約45分です。公共交通機関なら、サウンド・トランジットの通勤列車「サウンダー」や急行バスでタコマ・ドーム駅まで行き、路面電車Tラインに乗り換えるとミュージアム地区にアクセスできます。サウンダーは主に平日の運行なので、事前に時刻表をご確認ください。
ポイント・デファイアンス・パークはダウンタウンから北西へ車で約15分のところにあります。公園と動物園をじっくり楽しむなら、車での移動が便利です。公園内にはヴァション・アイランドへのワシントン州フェリー乗り場もあります。
日帰りで回るなら、午前中にミュージアム地区で2館ほどを見学し、午後にポイント・デファイアンスへ移動して動物園や公園を散策するプランがおすすめです。各施設の開館日や開館時間は曜日や季節によって異なるため、お出かけ前に各公式サイトでご確認ください。
