「ブルベ」という言葉を耳にしたことがありますか?サイクリングが好きな方なら、すでに地元や外国で参加したことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ブルベ(Brevet)は、タイムや順位を競うレースではなく、規定のコースを制限時間内に完走することで「認定」を受ける、長距離耐久サイクリングのイベントです。19世紀のフランスで始まったとされ、現在は世界50か国以上で開催されています。日本でも各地で盛んに行われており、「ブルベ」はすでに多くのサイクリストに親しまれた言葉です。
この記事では、ブルベの基本的な仕組み、参加方法、そして最高峰とされるパリ・ブレスト・パリへの道のりをご紹介します。アメリカ在住の方はもちろん、日本でブルベを楽しんでいる方、世界各地のブルベに興味がある方も、ぜひご一読ください。
ブルベとは:レースとは違う、もうひとつのサイクリングの世界
ブルベの最大の特徴は、「競争しない」という点です。参加者全員が同じスタートラインに立ちますが、タイムや着順は関係ありません。規定の距離を、定められた制限時間内に完走することだけが求められます。
チェックポイント(コントロール:control)を通過しながらコースを走り、制限時間内にゴールすれば「認定」を受けられます。この認定の積み重ねが、ブルベの醍醐味であり、次の目標へとつながっていきます。
サポートカーはありません。コース上で体調不良や自転車の故障が起きても、基本的に自分で対処します。食事や補給も自分で調達します。この「セルフサポート」がブルベの前提であり、そこに参加者それぞれの工夫と判断が生まれます。
参加する人は、男性を “Randonneur”(ランドヌール)、女性を “Randonneuse”(ランドヌーズ)と呼びます。サイクリングが好きな人たちが、それぞれのペースで世界中の道を走るコミュニティ。それがブルベです。
世界をつなぐ仕組み:ACP・RM・各国のクラブ
ブルベは、フランスのパリに本部を置くサイクリングクラブ、オダックス・クラブ・パリジャン(ACP: Audax Club Parisien)が定めた世界共通のルールにもとづいて開催されます。ACPは1904年に創立された非営利団体で、ブルベの国際的な基準を定め、認定を管理しています。
ACPを中心に、Les Randonneurs Mondiaux(LRM:ランドヌール・モンディオ)という国際団体が組織されており、世界各国・各地域の代表団体がここに加盟しています。それぞれの国で、ACPの国際ルールに従いながら、地元のサイクリングクラブがボランティアでブルベを主催しています。
代表的な団体をご紹介します。
- フランス(本部):Audax Club Parisien(ACP)
- アメリカ:Randonneurs USA(RUSA) シアトル地域は Seattle International Randonneurs(SIR)
- 日本:Audax Japan(オダックス・ジャパン)
ブルベに参加するには、これらの団体に加盟しているいずれかのサイクリングクラブの会員になることが条件です。ただし、会員になったクラブのイベントだけに限定されるわけではありません。世界中のACP認定ブルベに参加申し込みができます。
たとえば、シアトルの SIR の会員が、南北アメリカ大陸、オセアニア、日本や東南アジア、ヨーロッパなどのイベントへ遠征することも、日本のオダックス・ジャパンの会員が、南北アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアやオセアニアのイベントへ遠征することも可能です。コースはそれぞれのクラブが独自に設定して発表するため、世界各地で異なるルート、異なる景色のブルベが楽しめます。
距離と制限時間
ブルベには、距離ごとに決まった制限時間が設けられています。
- 200km:13時間30分
- 300km:20時間
- 400km:27時間
- 600km:40時間
- 1000km:75時間
- 1200km:90時間
- 1300km 以上:イベントによって変更
最初の一歩は200kmです。距離のスケール感として、東京~大阪が約500km、東京~札幌・東京~福岡が約1200kmに相当します。シアトルからバンクーバーBCまでが約143km、シアトルからポートランドまでが約173kmです。
【よくある誤解】制限時間のカウントは「ノンストップ」
制限時間は、実際に自転車で走っている時間だけがカウントされるわけではありません。 スタートした瞬間からゴールするまで、途中の食事、ホテルや仮眠所での睡眠、パンク修理などのトラブル対応の時間も含めて、「時計がノンストップで進む時間」を指しています。
ブルベには主催者が決めた「1日あたりのスケジュール」はありません。90時間という枠の中で、「どこで食事をとり、どこでどれくらい睡眠をとるか」は、その日の天候や自身の体力、事前の準備に応じて、参加者がそれぞれ自由に計画を立てます。ただ走るだけでなく、この「時間と体力のマネジメント」の手腕が試される点が、ブルベの大きな特徴です。
完走のための厳格なルール:指定コースとチェックポイント
ブルベは自由なルートを走るロングライドではなく、定められたルールに従って走る「認定イベント」です。
- コースは完全固定: 主催者が事前に発表する「キューシート(指示書)」やGPSデータに従い、指定されたコースを寸分違わぬように走る必要があります。
- コントロール(チェックポイント)の通過: コースを正確に走破しているかを証明するため、途中のチェックポイントを通過する必要があります。指定された店舗のレシートを取得したり、専用のブルベカードにスタンプを押したりします。
- シークレット・コントールの存在: 不正を防ぐため、事前に場所が知らされていないチェックポイントが設置されていることもあります。ここを通過しなければ、どんなに早くゴールしても失格となります。
- セルフサポート: レースのような伴走車や、主催するボランティアによる救護・メカニックサービスはありません。機材のトラブル(パンクなど)はすべて自己負担で修理し、体調不良によるリタイアの際も自力で帰宅方法を手配する「自己完結」が原則です。家族などによる私的な補給サポートも禁止されています。
他者に依存せず、己の力と事前の準備、そして当日の判断だけで見知らぬ土地を走り抜く。この自立のルールがあるからこそ、完走した際の達成感は格別なものになります。
ブルベが繋ぐコミュニティ:共通の達成感
ここからワシントン州のカスケード山脈を600kmを走行した
新しい国に移り住むということは、新しいコミュニティへ飛び込むことと同義でもあります。言語も文化も異なる環境において、同じ趣味を持つ仲間と出会える場所は、想像以上に心強い存在となるはずです。
ブルベのコミュニティの根底にあるのは、勝ち負けではなく「全員での完走」という共通の目的。主催者はボランティアで運営に関わっており、そこには「サイクリングが好き」という純粋な情熱だけが存在します。たとえ言葉が完璧に通じ合わなくても、共に過酷な道を走る姿勢や、ゴールした瞬間の達成感は世界共通ではないでしょうか。
アメリカでは、Randonneurs USA(RUSA)に所属する各地のサイクリングクラブがブルベを主催しています。アメリカ在住でブルベに参加するには、RUSAのいずれかの加盟クラブの会員になることが条件です。ブルベ経験者は、その認定実績をそのまま活かして、世界各地のイベントに参加することが可能です。
もしシアトル周辺にお住まいなら、地元のサイクリングクラブ Seattle International Randonneurs(SIR)をチェックしてみてください。まずは参加費が無料の「ポピュレール(100km)」に参加して、現地の温かいコミュニティに触れてみるのはいかがでしょうか。
