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関税インフレ時代の米国リコマース革命

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今回の Seattle Watch では、米国で広がる消費行動として、リコマース(中古品の再流通)とレンタル経済の最新動向を取り上げます。これまでこうした動きは「環境意識の高いミレニアル・Z世代のライフスタイル」として語られることが多くありました。しかしこの半年で状況は変わりつつあります。関税によるインフレ圧力が、リコマースを「意識の高い選択」から「家計を守るための現実的な防衛策」へと変質させています。

米国の消費者物価は、この半年で明確に悪化しています。2026年5月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比4.1%上昇と、3年以上ぶりの高い伸びを記録しました。デロイトが発表した2026年6〜7月の消費者動向調査でも、回答者の約4人に3人がガソリン価格の上昇を、74%が食料品価格の上昇を予想しており、家計の先行き不安は根強く残っています。

米国の個人消費支出(PCE)価格指数: 米国の家計が購入した財やサービスの価格変動を集計した物価指標。米商務省が毎月発表し、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策の判断において重視するインフレ指標。

こうした物価高の一因となっているのが、輸入品にかかる関税です。関税によって新品の輸入品価格が押し上げられる一方、中古品の値付けは関税前の価格を基準にするため、両者の価格差(リコマースを選ぶことで得られるお得感)が構造的に拡大してきています。オンラインでの再販プラットフォームを運営するThredUpの2025年のレポートによれば、消費者の59%が関税による値上げへの防衛策として、中古アパレル品への切り替えを検討すると回答しており、実際にアパレル製品の新品の価格は最大17%上昇したと報告されています。

リコマース:re(再生/再利用)とcommerce(商業/取引)を組み合わせた言葉で、中古品を取り扱うビジネス全般。

この結果、リコマース各社は軒並み過去最高水準レベルの顧客獲得数を記録しています。ThredUpのCEOであるJames Reinhart氏は、関税が消費者心理に浸透しつつあると指摘したうえで、2025年第1四半期の新規購入者数が前年比95%増、第2四半期も約75%増となり、同社史上最高の顧客獲得ペースを記録したと述べています。ThredUpに加え、競合のDepop、OfferUp、Goodwillなども同様に、記録的なユーザー増加や販売急増を報告しています。

インフレ・物価高というマクロ経済の変化のなかで、米国では具体的にどのような企業・サービスが支持を広げているのでしょうか。ここでは4つの切り口から紹介します。

1. 「所有」から「アクセス」へ

企業が売るのは商品そのものではなく「使う権利」であるという発想は、キャンプ用品からカメラ、パーティー用品まで幅広く広がっています。アウトドア用品のP2P(個人間)レンタルでは、テントや自転車、スタンドアップパドルボード(サップ)などを近隣住民同士でマッチングする GeerGarage のようなプラットフォームが、レンタル業として持続可能で低コスト運営のモデルを模索しています。同社は在庫を自社で保有・保管することをせず、個人間の取引によるマッチングに徹することで、倉庫や配送コストを抱えずに事業を推進しています。

また、ロンドン発の保険付きP2Pレンタルマーケットプレイス、Fat Llama は、カメラやドローン、工具、キャンプ用品などを個人間でレンタルできるサービスとして拡大してきましたが、2022年にスウェーデンの競合 Hygglo に4,150万ドル(約60億円)で買収され、両社は統合を通じて「世界最大級のP2Pレンタルプラットフォーム」を形成しています。

2. ブランド公認リコマース

中古市場は、フリマアプリのようなC2C(個人間取引)による保証のない市場から、ブランド自身が品質を保証する「信頼市場」へと移行しています。

全米最大のアウトドア生協REI Co-opは、2018年からオンラインでの中古品リコマース事業「Re/Supply」を展開し、2022年には年間100万点以上の中古品を販売して、成功事例として知られてきました。しかし、2025年10月、REIはオンラインのRe/Supplyストアを閉鎖し、現在は実店舗内でのみ中古品を購入できる形に事業を縮小しています(トレードイン(下取り)の申込自体はオンラインで継続中)。この閉鎖の原因は、中古品リコマースをオンラインで展開する場合のコストと手間(例:中古品の検品・査定、配送料の負担)にあったと考えられます。

一方で、こうしたブランド公認リコマースの裏側を支えるインフラ企業は着実に拡大を続けています。Troveは、REIやPatagonia、Arc’teryx、Lululemon、Levi’sなど700店舗以上に導入されているリコマース運営基盤(Recommerce Operating System)をホワイトレーベルで提供するB2B企業で、ブランドの真贋判定・ロジスティクス・販売システムを一手に引き受けています。REIは2021年、店頭でのトレードインが前年比86%成長したと発表しており、この成長を裏方として支えたのもTroveの技術基盤として知られています。

3. 手放す前提の購買行動の広がり

購入した瞬間から「将来どう手放すか」までを見据える消費行動が広がっています。Z世代に圧倒的な支持を得ているソーシャルコマース、Depopは、Instagramに似た画面デザインや機能を持つ、SNS型ファッションフリマアプリです。商品売買だけでなく、投稿への「いいね」やフォロー、チャットを通じてユーザー同士が交流できるのが特徴です。同社は2021年にEtsy傘下となった後、2026年2月にeBayがEtsyから買収することで合意したことを発表しています。EMARKETERの報道によれば、この買収は「Etsyがコア事業に集中する一方、eBayがZ世代の顧客基盤を強化する」動きとして位置づけられていると発表しています。

また、大型家具や家電に特化したリセールプラットフォーム企業の FloorFound は、Joybird、Floyd、Burrowなどの家具ブランドメーカーと提携し、返品された商品や軽微な傷のある高級家具を再流通させることで、耐久消費財を流動性の高い資産に変える事業を展開しています。同社はAIを活用した査定・価格設定システムにより、2021年のローンチ以降、四半期ごとにリコマース売上を倍増させる成長を続けています。

4. 「参加すること」自体を商品にする

モノが溢れ、単純な価格競争が限界を迎えるなかで、企業は製品そのものではなく、消費者を巻き込む体験やコミュニティを提供する方向に進んでいます。この動きは、ゲームプラットフォームにも広がり始めています。チャリティ団体の Salvation Army は、2026年2月19日、Z世代・Gen Alpha(12歳以下を中心とする世代)を主なターゲットに、ゲームプラットフォームRoblox内に「Thrift Score」というデジタル古着店を開設しました。プレイヤーは実店舗を模したバーチャル空間内で、他プレイヤーからの寄付品や、実店舗商品のデジタルレプリカ、人気クリエイターとのコラボアイテムなどをアバター用に購入できます。なお、売上は実際のSalvation Armyの地域支援プログラムや、更生や回復(生活困窮者や依存症に悩む人々の自立支援プログラムに活用)に充てられるとしています。

こうした動きが示しているのは、消費者の間で「所有を前提としない消費スタイル」が、単なる一時的なトレンドではなく、関税による物価上昇という構造的な圧力のもとで、より現実的な経済行動として定着しつつあるということです。 一方で、日本ではメルカリ等の普及により「売る前提の購入」という発想こそ定着しているものの、海外と比較して根強い「新品志向」が存在します。これは単なる嗜好や文化の問題ではありません。

表面的には「綺麗なものが好き」「中古は不安」といった感覚に見えますが、その裏側には、新品を売ることで経済を回してきた戦後日本の「消費資本主義」の仕組みが存在します。つまり、「新品を持つこと=ステータスや豊かさ」という認識が、戦後レガシーとして人々の価値観に深く刻み込まれてきた結果と言えます。

しかし、日本企業がこれから向き合うべき主戦場は、人口減少が続く国内市場だけではありません。人口増加と所得向上が見込まれる新興国市場では、価格感覚や所有意識、サステナビリティに対する価値観が急速に変化しています。日本市場の「新品前提」という常識にとらわれず、こうした海外の動向を捉えてビジネスモデルを柔軟に進化させることが不可欠です。

さらに重要なのは、この変化を「中古市場の拡大」という単なる個別の現象として捉えないことです。世界では、所有から利用へ、販売から循環へ、一度売って終わりからライフサイクル全体で価値を提供するモデルへと、消費の前提そのものが変わり始めています。これから企業に求められる競争力は、優れた製品を作ることだけではありません。グローバルで進行する「消費の構造変化」をいち早く捉え、それを自社の事業モデルや顧客体験へと反映できるかどうかが、将来の成長を左右する決定的な分かれ道となるでしょう。

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提供

Webrain Think Tank
メール:contact@webrainthinktank.com
公式サイト:https://ja.webrainthinktank.com/

田中秀弥:Webrain Think Tank社プロジェクトマネージャー。最先端のテクノロジーやビジネストレンドの調査を担当するとともに、新規事業創出の支援を目的としたBoot Camp Serviceや、グローバル人材の輩出を目的としたExecutive Retreat Serviceのプロジェクトマネジメントを行っている。著書に『図解ポケット 次世代インターネット Web3がよくわかる本』と『図解ポケット 画像生成AIがよくわかる本』(秀和システム)がある。

岩崎マサ:Webrain Think Tank 社 共同創業者。1999年にシアトルで創業。北米のテックトレンドや新しい市場動向調査、グローバル人材のトレーニングのほか、北米市場の調査、進出支援、マーケティング支援、PMI支援などを提供している。

企業のグローバル人材トレーニングや北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。

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