熊本県からアメリカ・シアトルへ。高校時代から大学卒業までバスケットボールを中心に過ごしてきた佐々木瞭さん。アメリカ留学を決意した背景には、シアトルでのバスケットボールキャンプで体験した「自分で考える」スタイルの指導との出会いがありました。
今年6月、シアトル・パシフィック大学(Seattle Pacific University)を卒業。9年にわたる学生生活の中では、思い通りにいかない場面や悔しい経験もありましたが、それでも「自分で選んだ道」として、次のステップを模索し続けています。
アメリカ式バスケとの出会いが転機に
2歳上の兄の影響でバスケットボールを始め、一緒にやっていたら好きになりました。そもそも体を動かすことが好きで、楽しかったからです。
そして、中学生の頃、クラブチーム「熊本レッドベアーズ」に所属し、アメリカ式のやり方を体験しました。選手を自由にさせて、自分の強みを伸ばしていくやり方で、さらに日米のバスケットボールの違いを体感するため、シアトルで開催されるバスケキャンプに複数回参加しました。そこで、「自分で考え、発言し、判断する」選手主体のアメリカ式トレーニングに衝撃を受け、「アメリカでバスケがしたい」と強く思うようになりました。
アメリカでは、選手は自分の考えを持っていて、コーチに「こういう時はこうすればいいと思う」「これはこうしたほうがいいんじゃないか」と意見を言ったりしていました。そして、コーチ側も「これをしろ」と言うのではなく、「こことここが重要だから、これはしっかりやるように。あとは自分で考えて」と、選手がちゃんと考えられる環境を作っているようなイメージでした。
それまで経験してきた日本の部活とは正反対で、新しくて困惑しながら楽しくもあるという感じでした。
留学のきっかけと高校生活
高校留学の道は、キャンプで出会った先輩の存在が後押しとなりました。中学生の頃から「高校からアメリカに行きたい」と言っていたので、両親は最初は真剣だとは思わなかったそうですが、「本当に行きたいなら応援する」と言ってくれました。
当初は別の高校を志望していましたが、英語力の課題や入学取り消しなどのハプニングもあり、最終的に縁があってシアトル・クリスチャン高校へ進学しました。そこでは日本人は自分一人で、言葉も文化も異なる中での生活が始まりました。
高校ではヴァーシティでバスケットボールをプレーし、自分から話しかけて友達を作りました。そうしないと友達はできない。そして、マイノリティであるという経験が、自発性やコミュニケーション力を磨いてくれたと思います。そもそも日本にいた時はコミュニケーションが苦手だったのに、今は人と話す力はついたと思います。
英語力向上のために、ホストファミリーや友人と話したり、映画『Mr.インクレディブル』の英語版を繰り返し視聴するなど、自分なりの方法を模索しました。英語の字幕と音声を照らし合わせながら反復することで、文法も耳も鍛えられましたね。
Seattle Pacific University(SPU)での挑戦
大学は、バスケットボールが続けられそうなこと、スカラシップが充実していたこと、小規模なクラスでの学びが可能だったことから、Seattle Pacific University(シアトル・パシフィック大学)を選択。専攻はファイナンス。実際に入学してみて、やはりクラスのサイズが平均して20〜30人と少人数で、教授とのコミュニケーションが取りやすくて、学生同士の仲間意識が強いのがとてもよかったです。ビジネス戦略やマーケティング、予算管理、投資など幅広い知識を学び、将来的にはNBAの本社やチームで、戦略・運営に携わる仕事がしたいと思っています。
コロナ禍と進路の模索
大学入学直後にパンデミック宣言があり、授業はほぼオンライン、バスケチームのトライアウトも機会を逃してしまいました。Division Iの大学のスポーツチームはそもそもリクルートされた選手がほとんどですが、SPUはDivision IIなのでトライアウトで入れる可能性があると聞き、コーチと連絡を取り合っていました。
それにも関わらず、トライアウトについて連絡がなく、最初の年に機会を逃してしまい、2年目にはトライアウトがなく、結局、大学のチームでバスケをするという夢は叶いませんでした。とても悔しいですが、いい経験だったかなと思います。そこで、大学のバスケ部では学生マネジャーをして、学校外でローカルのプロアマのバスケットボールリーグでプレーしました。
大学生活では、自分も中学生の時に参加していた日本からのバスケのユースキャンプにボランティアとして参加しました。自分が助けてもらった経験を、今度は他の人のサポートに活かしたい。そんな気持ちがビジネス専攻を選んだ理由でもあります。
大学卒業を前に、ロサンゼルスで開催されたキャリアフォーラムにも参加。どんな場でも、自分の強みや考えをオーセンティックに伝えること。これは高校留学からの経験で身についたスキルです。アメリカでの就職先候補もいくつかあり、現在はOPT(Optional Practical Training)での勤務と就労ビザのサポートの可否を確認中です。
知らない人から『その服いいね』と声をかけられる──そんなアメリカ文化に驚いたのが最初の思い出です。小さな違いに戸惑いながらも、自分で選んだ道を歩んできたことは、今の自分の軸になっています。そして、たくさんの良い人たちに囲まれていることに感謝しています。
シアトルに来て約9年。スポーツを軸に、語学力や異文化理解、ビジネススキルを地道に積み重ね、”次の世代に道を拓く存在になれたら嬉しい” と語る佐々木さん。バスケットボールと共に歩んだ経験がどのような展開につながるのか楽しみです。
聞き手:オオノタクミ