サイトアイコン junglecity.com

ワシントン州の広い空の下で | 学校教育の現場から見えてきたこと 大野奈々恵先生(2)

Smiling woman posing with a large yellow mascot at an indoor event.

兵庫県のマスコット『はばタン』と兵庫県PR活動

ワシントン州の姉妹都市である兵庫県から、派遣教員としてワシントン州に来て、University Place 学区の Curtis Senior High School(CHS)と Curtis Junior High School(CJH)で勤務しています。日米それぞれが大切にする教育の観点について考えながら、アメリカの高校生との関わりや、帯同する家族の生活から見えてくる文化や習慣の違いを感じて、かけがえのない時間を過ごしています。

『個』を大切にする

アメリカでは「個」を、日本では「集団」を大切にすると言われます。先日、日本語34(JuniorとSeniorのクラス)の授業で、漢字の「林」(small forest=woods)、「森」(forest)を教えている時、ある生徒が「木が4つ(big forest)の漢字は?」と質問しました。「残念ながら、その漢字はありません」と答えると、別の生徒が「Not yet(まだありません)」と言いました。こんなふうに、アメリカでは生徒がよく授業中に手を挙げて質問し、発言するので、アメリカの授業の楽しさを実感します。

また、生徒たちは自分の疑問や困っていることをその場で解決しようとします。授業内容とは関係ないことについての質問もよくありますが、他の生徒がそれをネガティブに捉える様子は見かけません。生徒の発言が日本の文化や習慣を紹介するきっかけになることもよくあるので、言語を学ぶ豊かさに繋がっています。アメリカでは個人が自分の意見を自由に伝えることで、授業の広がりを生み出します。

日本では、授業はみんなで作るものだという考えのもと、流れをさえぎるような質問はめったにありません。集団として周りの生徒との協調性を大切にして、助け合うことで理解を促すのが日本の教育の特徴です。

この違いは、社会全体にも当てはまる場合があります。分業化と効率化が進むアメリカ社会では、個人に権限と責任が委ねられています。一方、日本では、集団の中で自分の役割を考えながらチームとして動くことが求められます。

子どもの頃からの教育が大人になる土台であり、その土台となる教育が異なるからこそ、文化や社会のあり方にも「違い」が生まれます。そのことに面白さを感じています。

学校行事 『Multicultural Assembly』

CHSMulticultural Assembly

さまざまな文化やルーツを持ち、多様性を感じられるCHSには、学校行事「Multicultural Assembly」があります。今年度は日本、ハワイ、サモア、タヒチ、ギリシャ、ベトナム、メキシコ、韓国、アフリカンアメリカンの生徒たちが、伝統的なダンスや歌を披露しました。

それぞれのパフォーマンスに大きな拍手と歓声があがり、パフォーマーの生徒たちの誇らしい様子は、豊かな多民族・多文化の国であるアメリカを象徴していました。

日本のパフォーマンスでは、私が担当しているジャパニーズクラブの生徒を中心に、日系人と日本文化に興味のある14名の生徒が「炭坑節」の踊りを練習して披露しました。日本文化への誇りやアメリカで日本文化を継承していることの素晴らしさ、ルーツが日系でなくても日本文化に興味を持ってくれることは、とても嬉しいです。

州や地域ごとに人種、民族、言語の割合が大きく異なるアメリカは、一言では言い表せない「多様性」を持つ国なのだと感じます。

文化交流を通じて

授業の様子

日本文化を紹介するイベントで、兵庫県ワシントン州事務所のブースのスタッフとしてボランティアをしたり、地域の多文化交流イベントで子ども向けに日本文化を紹介する機会があります。

イベントでは和食、温泉、折り紙、アニメ、シティポップ、といった日本文化に興味を持っているたくさんの人と出会いました。日本通の方々と話していると、自分が日本文化について知らないことも多く、来客の方々から教えてもらうことがたくさんあります。

あるイベントで、JETプログラムでALT(Assistant Language Teacher)として日本で働いていたという方がいらっしゃいました。子どもの頃からアニメ『ドラゴンボール』が大好きで、それをきっかけに高校で日本語の授業を取り、文化とともに言葉への関心も高まったそうです。その後、日本を旅行してローカルな楽しさを満喫し、日本で働いてみたいと思うようになったそうです。

文化を好きになることは、その国を好きになること、その国を好きになることは、そこの人を好きになることです。SNSやテクノロジーが発達して手軽に情報を得られるようになって、ますます文化が豊かな人間関係を育むのに果たす役割は大きいと感じます。

CHSやCJHの授業でも、日本の祝日や行事について特別授業をすることがあります。「ひな祭り」の授業をした後、日系の生徒の保護者から「これまでひな祭りには興味がなかった子どもが、授業でひな祭りについて教わったり雛人形を作ったりしたことで、今年は家でも話題になって、子どもが日本語への関心が高くなった」というメッセージをいただきました。

日系人の中には、日常では日本語を使わなくても、日本の風習や文化を継承している家庭が多くあります。文化を通じて日本を感じることで、たくさんの点が線のように繋がって、アイデンティティの形成につながります。生徒たちが授業を通して日本をもっと好きになってくれることが、私の派遣教員としての大きな役割なのだと実感しました。

アメリカと日本の小学校

帯同する7歳の娘は Grade 1(日本では現在小学2年生)で、現地公立校に通っています。5、6人の少人数グループで音読をする Reading Group の授業が大好きで、友人に恵まれ学校生活を楽しんでいます。保護者として見るアメリカの小学校は、日本と違う多くの点があります。

例えば、小学校の PTSA(日本の PTA)活動はとても盛んで、さまざまなイベントが開催されます。イベントごとにボランティアが募集され、用意、片付け、警備、ドネーションなど、自分が参加できる時間帯や役割を選びます。1人の負担が大きくなりすぎることなく、多くの保護者が子どもたちのために自分にできることをする、という姿勢で参加しています。日本よりも共働き世帯が多いアメリカで、これほどPTSAが盛んなのは、多くの人がチャリティーやボランティア活動をするアメリカならではです。自分たちのコミュニティは自分たちで作る、という考えを強く感じます。小学校だけではなく、夫が通うESL(英語学習)や地域のイベントには多くのボランティアがいます。

また、アメリカの学校もクラス担任制ではあるものの、日本と違って音楽、体育、給食、休み時間などは、別の先生が担当されています。授業担当の先生は直接保護者と連絡をとります。我が家でも娘が内容が理解できない時は、担当の先生に連絡をとって教材を用意してもらい、家でフォローしたり予習します。それぞれ先生方の役割がはっきりと分かれていて、日本の担任制とは大きく異なります。子どもたちも困った時にその場で誰を頼るべきかをよく理解しているようです。

娘は「週末は学校がない」と嘆くように、学校生活が大好きです。時には友だちと言い争うこともあるようですが、たくましく成長していく姿を見守りながら、残りのワシントン州での滞在期間を大切に過ごしたいと思います。

執筆:大野奈々恵(おおの・ななえ)
2025年度(令和7年度)ワシントン州ー兵庫県派遣教員。姉妹都市であるワシントン州と兵庫県の派遣教員として、2025年8月からワシントン州ユニバーシティ・プレース学区で勤務。日本では、2007年から約18年間にわたり、4校の県立高校で英語教諭として勤務。

 

 

モバイルバージョンを終了