「生徒が教師と交渉するのが当たり前」日本語アシスタント教師・納土知樹先生

学業のレベルがグンと上がり、アイデンティティ形成の上でも重要な高校時代。日本とはシステムが異なるアメリカの高校では、どんな教育が行われ、どんな経験ができるのでしょうか。全米でも比較的教育熱心なシアトル地域の高校に通う日本人留学生や教育関係者に、それぞれの体験を語っていただきます。

Chief Sealth International High School

ジョシュア先生と納土先生

ウエスト・シアトルの南端にある公立高校、チーフ・セルス・インターナショナル高校(Chief Sealth International High School)には、さまざまな文化背景を持つ生徒たちが通っています。その日本語クラスで、2年間にわたりアシスタントを務めた納土知樹(のうど ともき)先生と、本教師のジョシュア・ハンセル先生のお二人に、チーフ・セルス高校の特徴とアメリカの高校生について、聞いてみました。

チーフ・セルス・インターナショナル高校
日本語教師 ジョシュア・ハンセル先生

まずは、ジョシュア先生に質問です。チーフ・セルスは、どんな高校?

多様性があり、黒人・白人・アジア人・ラテン系の生徒が、4分の1ぐらいずついます。それぞれ違う文化でありながらもマジョリティとなる人種がおらず、いじめのような問題がほとんどないと思います。また、貧しい家族の割合が多く、ランチ補助(低所得家庭のための無料&減額ランチ補助)を受けている生徒の割合は60%以上。生徒たちはいろいろな問題を抱えており、勉強する環境が整っていないケースも多いのですが、大変さに慣れているためか他人に対して優しいです。

日本語クラスの授業方針は?

生徒たちに日本と日本の文化に興味を持ってもらうのが、一番の目標です。そのため、他の学校の基準では上のレベルに上がれない生徒でも、生徒の情熱や興味を尊重し、上のレベルに上げることもあります。チーフ・セルスでは、学力の基準が厳しすぎると、多くの生徒が諦めてしまうのです。

日本語は英語話者には難しい言語です。ランチ補助が6割以上というシアトルの公立学校で、日本語を教えている学校はここだけです。それで、「生徒の興味を尊重し、挫折しないようなクラス」というのが、僕の授業哲学になりました。ただ、現在は、授業のレベルを次の段階に進めたいと、もがいている部分もあります。

Chief Sealth International High School

では、日本人アシスタント教師を導入したのは、「次の段階に進む」ため?

そうです。チーム・ティーチングというのは、素晴らしいです。

一人でやるより時間がかかり、仕事が増える面もあるのですが、それ以上の価値があります。納土先生が来る前に比べたら、僕の授業は格段に良くなり、日本語を選択する生徒の数も増えています。二人で教壇に立つことは、多くのメリットがありますが、何より二人で考えることでアイデアが倍増するのが大きいです。

Chief Sealth International High School

ありがとうございました。

チーフ・セルス・インターナショナル高校
日本語アシスタント教師・納土 知樹(のうど・ともき)先生

次に、納土先生にお聞きします。ご自身が最近まで学生だったため生徒の気持ちによく沿うことができるのではと思いますが、日本とアメリカの高校生の違いは?

アメリカの高校生は、一人一人が個性を表現するのがうまく、生徒同士に上下関係がないと思いました。

自分が高校生の時は、周りの目を気にして、みんなと似たような格好をし、似たような性格を装っていたのですが、チーフ・セルス高校では、生徒それぞれが個性を発揮しています。また、おとなしそうな生徒もやんちゃそうな生徒も対等に付き合い、生徒同士は、違いを尊重するというより、気にも留めず自然に受け入れているようです。また、できる生徒ができない生徒のスピードに合わせた授業にイライラすることもないし、できる生徒が遠慮なく授業を止め、自分しか理解できないような質問をしたりしています。

Chief Sealth International High School

先生に対する態度は?

教師と生徒も対等だと思います。生徒が教師と交渉するのも当たり前。宿題ができていない時は、事情があったとか、宿題の量が多すぎるとか、言い訳をして締め切り延長の交渉をします。おかげで、教師として、まず生徒の言い分を聞くという習慣と、説明する力がつきました。

あと、チーフ・セルス高校では教師である僕の英語力が低くても、生徒から蔑まれることがなかったです。最近、生徒に「英語うまくなったね」と言われます。上から目線ですよね(笑)。

日本では先生は上の存在だったので、たまに先生が間違えると、生徒は鬼の首を取ったかのように反応しがちです。

教えていて、大変だと思う点は?

全員がまとまることがないです。他の生徒全員が理解をしていても、一人がわからなければ、「わからない」と主張します。日本だったら、全体のことを考えて後で質問をしようとしたり、周りも「わかれよ」という雰囲気になる気がします。「気分が悪い」とか、「やる気が出ない」などと訴え、授業に参加しない生徒に、「みんながやっているからしよう」という理論が通用しないです。

2年間の体験で、嬉しかったことは?

二つあります。一つは、昨年の終わりに一つのクラスが全員で自分にサッカーボールを、ジョシュア先生に木刀を買って、寄せ書きをしてプレゼントしてくれました。「まとまる」という感覚のない生徒たちが、全員で一緒にやってくれたことに、より感激しました。

もう一つは、(たぶん日本にも日本語にも興味がなくて)2学期の半ばになっても、ひらがなも読めないような生徒が、校内で日本語を使って話しかけてくれたことです。教室内では滅多に日本語を使わなかったのに。ジョシュア先生の方針である「(日本語ができなくても)生徒たちの心に少しでも日本文化の片鱗が残ってくれたらいい」ということに僕も貢献できたかもと感じました。

Chief Sealth International High School

最後に、伝えたいことは?

僕自身は学生時代に英語ができなくて悩んでいたことがあるので、チーフ・セルス高校の生徒たちが「間違えを恐れない」というか、「間違いに関してネガティブな気持ちを持たない」ことに、感心しました。

アメリカの日本語学習者と比べたら、日本で僕らのしている英語の間違いは大したことじゃないと思います。僕は英語の教員免許も持っているのですが、いつか日本で英語を教える機会があったら、こちらの生徒の(堂々たる)間違いを、日本で英語を勉強している人たちに紹介したいです。微々たる間違いを気にしなかったら、もっと楽しく英語が学べるのではないかと思います。

日本の英語教育は良くないと言われることもありますが、僕が日本で勉強した英語には、こちらの高校生でも知らないような高度な単語もあります。日本でがんばって英語を勉強している生徒たちに、自分たちの英語力の高さを自覚してもらいたいです。

Chief Sealth International High School

納土 知樹(のうど・ともき)
1991年生まれ。大阪府立枚方高校(国際教養科)、関西外国語大学(英米語学科)卒業。国際交流基金より米国若手日本語教員(J-LEAP)として、2014年7月から2年間、チーフ・セルス高校に派遣。現在は英会話学校で英語を教えており、2017年3月から日本語教師としてブルガリアに2年間派遣されることが決まっている。J-LEAPの活動を紹介するブログも運営している。

取材:2016年6月 掲載:2016年10月 取材・文:渡辺菜穂子

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