米国移民法では、1882年以降「Public Chargeとなる可能性のある外国人」は、ビザの取得、アメリカへの入国または永住が禁止されています。
Public Charge とは公的扶助のことで、米政府から経済的な援助を受ける可能性のことを意味します。
しかし、移民法では、その範囲や定義がはっきり決まっているわけではありません。そのため、Public Charge になる可能性があるかどうかの審査は、その時代によって変わって来ました。
2019年のトランプ政権による Public Charge Rule の改正
2019年にトランプ政権が Public Charge Rule を改正するまでは、1996年に制定された Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act(IIRAIRA)と呼ばれる法律が適用されていました。
それは、主に家族関係に基づく申請時に、移住する外国人のスポンサーが提出する Affidavit of Support(扶養宣誓書)に法的強制力を持たせた点で、それ以前のルールに比べてより徹底した策が取られているものでした。
2019年にトランプ政権が改正した法律(以下、2019 Public Charge Rule)は、2020年2月からスタートしましたが、このルールでは、アジャストメント(永住権)申請者は、将来的に Public Charge にはならないことを証明するため、Declaration of Self-Sufficiency と呼ばれる申請書の提出が必要となりました。
例えば、結婚ベースのアジャストメント申請では、従来、Affidavit of Support というスポンサーが署名する扶養宣誓書を提出していますが、Affidavit of Support に加えて、Declaration of Self-Sufficiency が必要となりました。
Declaration of Self-Sufficiency は、グリーンカード申請者が経済的に自立しているかどうかを判断するための書類で、移民局は、申請者の年齢、健康状態、学歴、職歴、資産、収入、養育費の支払い義務、同居人の経済力、クレジット・スコアなど、さまざまな要素・条件を考慮して、総合的に審査ができるようになりました。
総合的な審査においては、特に今までにはなかった申請者側の要素・条件の審査に移民局の大幅な裁量権が与えられ、移民局はネガティブ・ファクター/ポジティブ・ファクターを考慮し、申請者が Public Charge となる可能性があるかどうかを判断することになっていました。
ただし、審査の基準が曖昧なことから、施行当時から混乱が広がり、かなりの批判が集まった上、訴訟も起きていました。
バイデン政権による 2019 Public Charge Rule の無効化
しかし、2021年1月20日に政権が交代し、2021年3月9日に米国政府が控訴を取り下げることにより、2019 Public Charge Rule が直ちに無効となりました。
よって、3月9日以降の Public Charge の審査は、1996年に制定された Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act(IIRAIRA)と呼ばれる法律に戻りました。
これを受けて、移民局は、現在審査中のアジャストメント申請に対して、2019年ルールを適用しないことを発表しました。
また、3月9日以降に提出するアジャストメント申請には、Declaration of Self-Sufficiency および、証拠書類の提出が必要なくなったことを発表しました。さらに、すでに提出済みの申請で、まだ裁定がなされていない申請に関しては、Declaration of Self-Sufficiency も証拠書類も審査の対象にはなりません。
また、すでに2019年ルールに関して追加資料の要求(Request for Further Evidence)や却下予定通知(Notice of Intent to Deny)を受け取っていて、回答期日が3月9日またはそれ以降に定められている申請は、要求されている情報や資料の提出は必要ありません。しかし、これらの通知に、2019 Public Charge Rule 以外の事項が含まれている場合、それらに関しては、回答しなければなりません。
なお、移民局は、3月10日に Affidavit of Support(I-864)を改正版を出版しました。4月19日以降は、この新しいフォームを使用しなければなりません。
繰り返しになりますが、今回無効になったのは、2019年トランプ政権下が改正した Public Charge に関する規定で、それにより、3月9日以降の Public Charge の審査は、トランプ政権が改正する前のルールに戻ったことになります。
グリーンカードの申請から Public Charge の審査や Public Charge となる可能性のある外国人の入国拒否がなくなったわけではありません。
コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。また、移民法は頻繁に改正があります。提供している情報は、掲載時に有効な情報です。読者個人の具体的な状況に関しては、米国移民法の弁護士にご相談ください。