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第2回 マーケティングとダイバーシティの意外な関係

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このところ日本でも言われ始めたダイバーシティ(diversity/多様性)。でも、日本には少しポイントがズレた伝わり方をしているようです。まず、アメリカの企業内で言われているダイバーシティとは実際には何を指すのかを考えてみます。

もくじ

アメリカでいうダイバーシティとは

アメリカはもともと移民で成り立っている国です。もちろん最初は先住民がいたところに欧米からの入植者がやって来て国家を作ったわけですが、先住民との衝突後、世界各地から難民や移民を受け入れ続け、その人たちが子孫を作ることを繰り返しながら成り立っています。

それゆえに、寛容な会社であればあるほど、さまざまな人種の従業員がいます。そしてその中にも、移民1世や2世、3世や4世、複数の異なる人種の混血の人などがいます。それに加えて、男性、女性、生まれた時とは異なる性別に変更した人や、ADHDなどに代表される精神構造が特別な方なども。ダイバーシティは、こうした人たちすべての考え方、感じ方を尊重しましょうという流れが根源になっています。

実際にシアトルのさまざまな会社で働いたり訪問したりすると、ヨーロッパ・中東・アフリカ・アジアなど、世界のあらゆる地域の文化背景を持った人たちに多く出会いますし、同性愛者の方も同性結婚の方も多いです。こうした中で管理職として働いていると、日本では学べないことによく出会います。例えば、中東に関わりのある経歴の部下2人がいつもいがみ合っているように思えた時、よく考えてみたらその2人は中東の別々の国の出身で、双方の国が当時衝突していたという背景がありました。また、宗教などを理由に同性愛反対を強く主張する人と同性愛者が同じチームで働いていたりすると、衝突が生まれたりします。

こうした体験は、日本ではまだとても少ないわけですが、これからのビジネスを考えた場合、今の日本の環境ではどのような影響が出るのでしょうか。

ダイバーシティの基本は、それぞれの立場や見方を尊重すること

まず、管理職や会社経営側は、こうした「違い」から来る問題を種にした訴訟などが起こらないよう、事前に対処することが求められるかもしれないことを知っておく必要があります。

現時点で対処している企業は、ニュートラルな立場を取ることを明確にし、職場内で起きる差別やハラスメントに対する対処法や罰則などを社員手引きに明記し、社員教育などのトレーニングに組み込んだり、面接の際に入社希望者のそうしたことに対する考えや意見を確認したりします。

このニュートラルな文化を創り出す最も大切な価値観は、個人ベースでの「リスペクト(尊重)」です。言葉では簡単に聞こえてしまいますが、ひとくちに「尊重」と言っても、実行にはかなりの困難を伴います。

先の例で言うと、中東諸国で衝突が起きていた際、彼らと会議やランチをしていると、他の社員の興味もあって、話題がそれに近づくことがありました。その場合、リスペクトを示す最適な方法は、そのトピックに触れないようにすること。当人が持ち出してきた時は、できる限り言葉少なに、自分の意見は心にしまって、「それぞれの見方があるからね」と、ニュートラルなこと以外は口にしない、態度に出さないというのが基本です。「物の見方、とらえ方というのは多様で、立場によって、感じ方、見え方は違うね」という表現を社会の中で貫き通す、それがアメリカで言われるダイバーシティを大切にするという文化の基本なのです。

とはいえ、常にニュートラルであるわけではなく、気心の知れた仲間や家族では自分の意見をよりはっきりと伝え、もっと踏み込んだ会話をしているのが、アメリカに住む人の実態だと思います。

企業やその製品・サービスへの影響

では、こうした状況が企業やその製品やサービスにどう影響していくのかを考えてみます。

これだけ価値観が多様化している中で、なぜ製品やサービスを作ったり売ったりできるのかということなのですが、実は、これがマーケティングという領域が学問にまでなった理由なのです。

人の感じ方や見方が十人十色であるからこそ、自分たちが世に送り出すものを好んでくれる人たちを探し当てる必要があります。そうした可能性のあるお客様を見つけ出す努力がマーケティングの本当の姿です。

売るという部分では、ダイバーシティを重んじたマーケティングでその中からお客様を探し当て、掘り起こすという作業をする訳ですが、日本のマーケティングというのは、「流行を創り出す」ことに傾倒していることが多く見られます。日本は多様性が少ないということが理由かもしれませんが、それは逆に言えば、日本で作られ、売られるものが、日本で売れているからと言って世界で売れる訳ではないと証明していることにもなります。

私がMicrosoft本社でWindowsの開発に携わっていた時、あるWindowsのベータ版(出荷前のもの)のサンプル画像の中に、鬼瓦を見つけました。どう見ても日本の鬼瓦なのですが、その鬼瓦に刻まれた御紋が菊の御紋、天皇家の御紋だったのです。一見、日本らしい写真で、日本をよく知らない人には、クールな感じに見えたのでしょう。私は日本人なので、その写真を見て、ダイバーシティを考えた時、Microsoftという会社が天皇家の御紋の写真を入れて出荷することで、社会からの反応や見方における公平性に少なからずリスクが生じると判断しました。そして、この写真は出荷してはならないとすぐに意見し、周りを説得したのです。

このようなことは、日々の業務の中でたびたび起こります。しかし、アメリカで製品開発やサービス開発をしている人たちは、こうした事例に直面するたび、ダイバーシティの関連からひとつのものをお客様がどう見るかを想像し、できる限り公平なものを世の中へ送り出そうと努力しているのです。そのため、ダイバーシティを意識した製品開発とマーケティングをすることは、実は、世界に通じるもの、多くの人が受け入れやすいものを作ることにつながるのです。

アメリカ発の製品やサービスが次々と世界を席巻していく背景には、こうした理由があります。日本の製品やサービスが世界に進出するのが難しいケースには、実はこのダイバーシティの考え方に由来することが多いということを、日本企業はこれから肝に銘じる必要があるでしょう。

執筆:鷹松弘章(たかまつ・ひろあき)
1998年にMicrosoft Corporation 日本支社に入社し、2001年から米国本社にて技術職の主幹マネジャーとして Windows などの製品開発の傍ら、採用、給与・等級の決定やレイオフに携わる。2017年にデータ解析大手の米国 Tableau Software(タブロー)入社。スターティアホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。個人でもエグゼクティブコーチングやコンサルタントとして活動。日本国内の大学・高校・企業などで講演活動も行っている。詳しくは hiroakitakamatsu.com で。

このエッセイの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

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