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「アメリカの高校は、日本と比べて少数派生徒への対応が進んでいる」日本語教師 岡本拓さん

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学業のレベルがグンと上がり、アイデンティティ形成の上でも重要な高校時代。日本とはシステムが異なるアメリカの高校では、どんな教育が行われ、どんな経験ができるのでしょうか。このシリーズでは、全米でも比較的教育熱心なシアトル地域の高校に通う日本人留学生や教育関係者に、それぞれの体験を語っていただきました。

マイクロソフト本社があるレドモンド市は、世界各国から優秀なブレインが集まっており、全米屈指の教育熱心な土地。レドモンド高校(Redmond High School)は、そんな環境にあって、公立にも関わらず学業のレベルの高さと音楽や演劇などの芸術指導に定評がある高校です。岡本拓先生の指導した日本語クラスでは、100人強の生徒が4つのレベルに分かれて学んでいました。

岡本 拓
1984年大阪生まれ。立命館大学法学部法学科(国際法務専攻)卒業。大手レストランチェーン会社で、サービス、海外開発、香港店立ち上げに従事した後、日本語教師になるべく退社。日本語教師養成講座420時間を終了し、国際交流基金より米国若手日本語教員(J-LEAP)として2年間レドモンド高校に派遣された。現在は、インディアナ州パデュー大学の大学院で日本語教授法の研究中。

レドモンド高校の印象は?

第一印象は、ただただ「広いな」と。勉強する姿勢ができている生徒が多いとも思いました。公立高校ですが、95%以上は何らかの高等教育機関に進学しています。成績を重視する生徒も多く、「この課題は成績に入るのですか、ならやります」みたいなコメントに、戸惑うこともありました。

2年間の仕事内容は?

一日5時間行われる日本語クラスで、アシスタントをしました。本教師のカイパー先生が僕に求めたことは、授業の教材作成です。現在授業で使われている PowerPoint 教材は、すべて僕が作りました。

赴任直後は授業を見学し、授業の流れを理解してからは PowerPoint で教材を作って授業を行い、カイパー先生がフィードバックをするという流れを1年間続けました。2年目に、僕が作った教材を使ってカイパー先生が教え、必要部分を改良しました。ここでの勤務は僕にとって初めての教育現場だったので、かなりの長時間労働でした。一度カイパー先生がおもしろがって計算してみると、時給は$1.70でした。

日米の高校生の違いは? 

日本は「同じことを長く続ける」のを良しとしますが、アメリカは「その時やりたいことをやる」のが良しとされているようです。「テニスをして、クロスカントリーもして、ピアノも弾けて、バイオリンもできる」と言う生徒に、「何でもできるんだ」と感心したのですが、よくよく聞いたら始めたばかりのものもあり、結局「何もできない」とも言えます。でも、それも良しとして、「いつからでも始められるし、いつ止めてもいい」んです。

学校システムの違いは?

「アメリカの学校は、人種や性的マイノリティなど、社会的弱者となる生徒への対応が素晴らしい」と思いました。学習障害や自閉症の生徒に教育的配慮があり、テストの時に追加時間をあげたり、テスト自体を変更するという仕組みもできています。そのような特例制度に関して、新年度の最初に教師向けの綿密な説明がありました。

また、生徒自身も他者との違いを受け止められるという意味で、精神的に成熟していると思います。日本語クラスで家族名称を教えたとき、僕は教科書の例文を念頭において授業準備をしていたんですが、実際のクラスでは「お母さんが2人います」「ステップファーザーを何と言うのか?」「バイオロジカル・マザーは?」など、予期しなかったコメントや質問が飛び交いました。僕自身も母子家庭に育って、行儀が悪いとか言われないよう母親が気を使っているのを子ども心に感じていたので、複雑な家庭事情を授業中にごく自然に話すアメリカの生徒に、感心しました。

では、マイナス面は?

「足並みをそろえる」とか「和を保つ」とか「調和」というコンセプトがないと思いました。先生が話していても他の生徒が発言している時でも、平気でしゃべりだしたりします。

僕の所属する日本語クラスでは、本教師のカイパー先生がとても厳しくしつけをされていました。授業の始まりはきちんと立って挨拶をさせる、教室外でも先生に会ったらお辞儀をさせるというような指導を徹底するんです。僕はあまり人に厳しくできない性格なので、一人でクラスを受け持ったら、どうなるんだろうと思います。

印象に残った出来事は?

二つあります。一つは、AP(大学レベルの特別)クラスまで進んだウィスリーという生徒が、自分の人生に影響を与えた3人に、僕の名前を入れてくれたことです。彼は一度日本に遊びに行って開眼し、本当に日本語が上達しました。2015年のシアトル日本語スピーチコンテストでも2位に入賞しました。大学では科学か工学を専攻したいと言っていましたが、最近は教育、しかも言語教育に興味があるようです。

もう一つは、ベーグルというあだ名を持つ学生がいて、そのクラスではパンのベーグルが神格化されているという背景があるんですが、ある日別の生徒が、「先生、『ベーグル』 の漢字を作りました」と言うんです。こんな漢字(下図)です。「この部分はサンライズを示し、ここはベーグルの形を表し、ここは心なんです」と説明してくれます。すると、また他の生徒が「心をこうしたら、こげ過ぎという意味になりますね」と。

Redmond High School

僕は授業でパーツの意味を含め丁寧に漢字を説明していたんですが、このベーグルという漢字から、生徒が漢字のコンセプトをちゃんと理解してくれ、僕が教えたことがちゃんと伝わったことが実感できました。

取材・文:渡辺菜穂子

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