学業のレベルがグンと上がり、アイデンティティ形成の上でも重要な高校時代。日本とはシステムが異なるアメリカの高校では、どんな教育が行われ、どんな経験ができるのでしょうか。全米でも比較的教育熱心なシアトル地域の高校に通う日本人留学生や教育関係者に、それぞれの体験を語っていただきます。
チーフ・セルス・インターナショナル高校 香川早希さん & 竹村晴さん
ウエスト・シアトルの南端にあるチーフ・セルス・インターナショナル高校(Chief Sealth International High School)が所在するエリアは、アフリカや東南アジアからの移民が多く、さまざまな文化背景をもつ生徒たちが通っています。2007年から世界共通の基準を満たす International Baccalaureate(IB)クラスを設置し、学力レベルの向上を図っている同校で、早希(さき)さんと晴(はる)さんは、2014年の夏から1年間、ホームステイをしながら留学生活を送りました。
香川早希(左)さんと竹村晴(右)さん。
香川早希さんと竹村晴さんは、東京都教育委員会が都立の中学生と高校生がを対象に行っている次世代リーダー育成道場の留学プログラムを通して高校留学を実現。同プログラムは毎年200人の生徒をアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各都市に留学させています。
チーフ・セルス高校の第一印象は?
晴:校舎が新しくてきれいだなと思いました。
早:クラスメートの人種がさまざまで、しかも好き勝手なことをやっていて、「怖い」と思いました。授業中に携帯をいじっていたり、お菓子を食べていたり、ヘッドフォンで音楽聴いていたり。先生の質問にも生返事なんです。
晴:IB(国際基準を満たした特別クラス)クラス以外は、そうかもしれませんね。頭のいい子や真面目な生徒はみんなIBクラスを取っているので、普通クラスとは生徒層にかなりの違いがあります。
早:日本のような高校受験がないので、いろいろなレベルの生徒が混ざっていますね。
晴:想像していたよりアジア人が多いなとも思いました。
早:私もです。アメリカの高校は、白人ばかりだと思っていたので。
チーフ・セルス・インターナショナル高校(Chief Sealth International High School)
日本の高校と比べていい点は?
晴:授業の制度が好きです。自分で好きな科目が選べるし、レベルが合わない場合は変更もできます。私が一番好きだったのはIB美術クラスで、とても厳しく課題も多かったのですが、作品を見せて批評しあったり、自分の作品で表現したいことをプレゼンテーションしたり、与えられたテーマに関して自分でリサーチしたりと、本格的に学ぶことができました。
早:私は、大学受験の方法がいろいろあるのがいいと思いました。日本はセンター試験で高得点を取るために猛勉強しなければならないけど、アメリカでは部活やボランティア活動なども吟味されるし、宿題をちゃんと出せば比較的楽にいい成績がとれて、エッセイや先生の推薦で大学が決まったりします。
晴:日本の推薦入学が全員に適応されるような感じです。SAT(Scholastic Assessment Test: 大学進学適性試験)はありますが、センター試験と違って、何回でも受けられ、そのうちの一番いい点数を大学に送るという仕組みも、いいですね。
では、よくない点は?
早:授業中に携帯使いすぎ!「先生の話聞けよ」と思います。学校を抜け出す生徒もいるし。
晴:本当? そんな人、見たことないよ。
早:晴の周りに、いないだけだよ。
晴:日本と違って、みんな受けているクラスが違うから、サボりやすいのかもしれません。
留学生活で大変だったことは?
早:最初の頃は、毎日泣いていました。クラスの雰囲気が日本とは全然違うし、先生が何言っているのかもわからない。学校に行きたくなかったけど、出会ったばかりのホストファミリーにそれを訴えることもできない。「一年間やっていけるのかな」「友達できるかな」という不安でいっぱいでした。でも、その時参加していた部活動の水泳が厳しく、そっちに気を取られているうちに友達ができてきました。友達ができたら交友関係が広がり、だんだん楽しくなってきました。部活は大事ですね。入っておくといいです。
チーフ・セルス・インターナショナル高校(Chief Sealth International High School)
大変だった授業は?
晴:英語のクラスです。
早:辛かったな。エッセイとか。「来週まで? 嘘でしょう?」って。でも今は、コツをつかみました。
晴:最初はわからないことや難しい単語がいっぱいあったけど、よく出てくる単語を覚え、それから流し方を覚えました。
早:ずっと集中していなくても、聞き流せるところは多いんです。
晴:慣れるのに3ヶ月半ぐらいかかりました。
早:私は半年ぐらいかな。
今後の目標は? 留学中の一年間で変わったことと今後の夢は?
晴:私は中学生の頃から、武蔵野美術大学を志望しています。卒業後は文房具や雑貨などを作る企業に就職して、モノがどうやって作られるかを学びたいです。留学中に、文化や人種の差を考え比較することに興味を持ち、それを美術で表現したいと思うようになりました。
早:私は皆が知っている名前の大学に行きたい。学習院、明治、青山、中央、法政、上智、早稲田、その辺です。私、お金が好きなんです。社会の中でのお金の役割に興味があります。将来は、金融の世界で各国を飛び回るような仕事をしたいです。