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第10回 : いざ、お産!


お産の始まり方は人によって随分違います。本によると、それまでなんともなかったのに突然10分間隔の陣痛が始まっておしるしがあり、陣痛の間隔がどんどん短くなって入院、そしてどんどん強い陣痛が起こり、破水して、一生懸命いきんだ末に、赤ちゃんが産まれるといった順序になっていますが、お産というのは母体と胎児の条件がさまざまな形で関わっているため、そういう経過にならないこともとてもよくあります。


子宮の頚管

頚管とは、子宮の一番下の端にある膣の奥に突き出た部分のこと。大切な胎児を子宮の中に留めておくため、妊娠の始まりから予定日が近くなるまで、固く閉まっています。頚管は普通4センチほどの長さで鼻の頭ほどの固さですが、お産が近づき妊娠36週を過ぎたころから次第に柔らかくなり、短くなってきます。また、短くなるだけでなく、開いてくる場合もあります。初産の人は陣痛が始まるまで開かないことが多いのですが、以前子供を産んだ経験のある人は36週ぐらいから2〜3センチ開いていることもめずらしくありません。子宮口が開いていく際、膣の奥の方にチクチクした痛みを感じる人も多いようです。

妊娠中はバイキンが子宮の中に入らないよう、頚管の内側は水気のなくなった粘液でふさがれています。しかし、お産が近づいて頚管が短くなりはじめると、その粘液がはずれます。これは、2〜3センチぐらいのぬるっとした塊で、少し血液が混じっていることが多く、日本ではおしるしといいます(英語では "Mucous Plug" と呼ばれます)。おしるしがあっても、1週間以上も陣痛が始まらないこともあれば、陣痛が始まってからおしるしがあることもあります。

しかし、いくら子宮が収縮しても、頚管が柔らかくなっていないと赤ちゃんは出て来ることができません。体質や遺伝によって頚管の柔らかくなりやすい人とそうでない人がありますが、頚管を柔らかくするために、自分でできることもいくつかあります。まず、妊娠中、よく歩くこと。胎児の頭が頚管を押し、あまり動かなかった人と比べて頚管が早めに柔らかくなる傾向があります。さらに、頚管が刺激されるとプロスタグランディンというホルモンが出て、頚管が柔らかくなります。また、精液にはプロスタグランディンが大量に含まれていることから、妊娠後期のセックスも効果があります。このプロスタグランディンは、単に頚管を柔らかくするだけでなく、子宮の収縮も刺激することもわかっています。


子宮の収縮

子宮の収縮は、オキシトシンというホルモンによって起こります。このホルモンは妊娠の中期ごろから血液中に循環し、子宮はそれに反応して1日に何度か収縮を繰り返します。さわると硬くなっているのがわかります。予定日が近づくにつれてこのオキシトシンの量は次第に増え、また、子宮の自然な収縮も回数が増えてきます。これを前駆陣痛(Braxton Hicks Contractions)と呼びます。まだ予定日に程遠い時期でも、疲れたり食事を抜かしたりして少し脱水症になった場合には、循環しているオキシトシンの濃度が相対的に濃くなり、頻回に前駆陣痛が起こってしまいます。そうした場合には、まず水をたくさん飲み、ぬるいお風呂にゆっくりつかると循環血液量が増え、相対的にオキシトシンの濃度が薄くなり、陣痛がおさまります。しかし、それでもおさまらなかったり、次第に強くなったりする時は早産の危険性があるので、夜中でも担当の医師や助産婦に連絡しましょう。

予定日が近くなると、オキシトシンの濃度が濃くなるだけでなく、子宮の感受性も急に強くなります。これは、子宮の筋肉の繊維と繊維の間にギャップ・ジャンクションと呼ばれる信号の通り道が作られるためで、同じ量のオキシトシンがあっても、それまではそれほど反応しなかったにも関わらず、準備が整った子宮全体が強く収縮し始めます。

本当の陣痛を、生理痛の強いものと表現する人もあれば、腰痛が前の方にまわってくるような感じと表現する人もあり、単に硬くなるだけの前駆陣痛とは少し違う感覚があります。お産の時の陣痛は時間がたつにつれて次第に長く、強くなり、間隔は短くなる傾向があります。ただし、人によっては陣痛が少しずつ強くなったり弱くなったりすることを繰り返しながら、前駆陣痛とも、本当の陣痛ともつかないような状態が長く続き、何日にもわたって子宮口がゆっくり開いていくこともあります。これはこちらでは "Prodromal Labor" と呼ばれ、体力を消耗するため、母親にとっては大変です。こういう場合には栄養や水分の補給に気をつけ、少しづつでも睡眠を取るように心がけながら、陣痛がもっと強くなるのを待ちます。しかし、あまりにも長く続いて体力が限界に来たような場合には、治療として一旦陣痛を止めることもあります。子宮弛緩剤の注射をし、麻薬や睡眠薬を使って一晩ゆっくり眠ってもらうと、また体力が回復して今度はもっと順調に陣痛が来ることもあります。


破水

胎児を包んでいる卵膜が破れると、自然破水が起こります。破水は陣痛がまったくないうちに起こってしまう場合(前期破水とよびます)もあれば、生まれるまで破れず、赤ちゃんが卵膜にくるまったままで産まれてくることもあります。いっぺんにバケツの水を逆さにしたように大量に破水することもあれば、チョロチョロと少しずつもれることもあります。一番多いのは、8センチから10センチぐらい子宮口が開いたころに、陣痛の波の頂点でポンと音をたてるようにして破れることです。羊水は原則として透明で、胎脂という赤ちゃんの皮膚についているラノリンのような白い物質が中に浮いていることもあります。少しむっとするような生臭いような、酸っぱいような匂いがありますが、尿の匂いとは明らかに異なります。

家で破水した時に気をつけなければならないのは、非常にまれなことですが、ガバッと破水した時にへその緒が一緒に外へ飛びだしてしまうことです。大量の破水と同時に胎児が急に暴れだしたら要注意。胸を床につけ、お尻を天井にむけるようにして臍の緒にかかる圧を減らし、緊急に担当の医師や助産婦に連絡しましょう。また、羊水の色も大切な情報です。緑色・黒茶色のような液体が出てきたら、胎児が子宮内で便をしたために羊水に混濁があるということです。羊水に混濁がある時には、まれに胎児の状態が悪いこともあるので報告しましょう。破水をすると、直接胎児と外界がつながってしまうので、感染の危険性が出てきます。羊水がほとんど出てしまうと、水のクッションがなくなり、臍の緒に圧迫がかかりやすくなります。そのため、破水したら、すぐ入院しなければいけない方針の病院もあります。破水しても感染症の徴候がなければ陣痛が来るまで待ってくれる方針のところもあります。

羊水は決まった量だけが子宮の中に入っているわけではなく、毎日新しく作られています。妊娠後期の羊水は大部分が胎児の尿です。通常、胎児は胎盤を通して母親の血液から水分をもらい、さらに子宮の中にある羊水を飲み、腸から水分を吸収し、腎臓から尿を作ります。破水してしまうと、子宮内で循環していた羊水が極端に減ってしまうので、たくさん水を飲み、胎盤を通して胎児に水分補給をしましょう。胎児は、便をしてしまっても、それを自分で飲み込み、きれいな尿を排泄することで、羊水を浄化する能力を持っています。破水して胎児が水不足になると、混濁した羊水も浄化されません。このような場合には、羊水と同じような役目を果たす生理食塩水を外から人工的に注入してもらうこともあります。

(2002年2月)
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