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第8回 妊娠中の体重管理

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ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん

Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP

Nadeshiko Women’s Clinic

【メール】 info@nadeshikoclinic.com
【公式サイト】 www.nadeshikoclinic.com
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アメリカでは妊婦は25ポンドから40ポンド(11.3kgから18.1kg)まで体重を増やすよう薦められます。これは1990年に出された 『Institute of Medicine』 という政府の勧告に基づいたものです。この勧告では、 『Body Mass Index(BMI カウプ指数とも呼ばれる)』 という方法に従い、やせた人・普通の人・太った人の3種類に分けて理想体重増加量を決めています。計算式は下記の通り。

BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割る

体重/身長2

例えば、体重50kg、身長165cmの人は、50/(1.65×1.65) = 18.36になります。やせた人(BMI19.8 以下)は28ポンドから40ポンド(12.7-18.2kg)、普通の人(BMI 19.8-26)は25-35ポンド(11.3-15.9kg)、太り気味の人(BMI26.1-29)は15-25ポンド(6.8-11.3kg)、肥満の人(BMI 29以上)は15ポンド(6.8kg)ぐらい体重増加があると、未熟児出産などの問題が少なくなるとされています。

日本では妊娠中の体重管理がうるさく、7kgから8kgぐらいが理想とされており、それより増加すると検診の時に叱られるということもあるようです。ですから、日本から来た妊婦さんは体重を測る時に上着や靴を脱ぎ、検診の日には薄着をして、できるだけ低い値が出るよう努力している様子がうかがわれます。日本では上記のカウプ指数を使い、妊娠初期は24以上、妊娠中期は26以上、妊娠後期は28以上は妊婦肥満という診断名がつけられるようです。

比べてみるとわかるように、妊娠中の体重増加に関する考え方には日米でかなりの差があります。アメリカの基準を用いると、日本人の女性は大概やせていることになるので、アメリカ人の妊婦検診に慣れた人のところに行くと、もっと増やせ、もっと太れと言われることになります。

日本人の体重増加と合併症との関係をきちんと調べた文献が見つかりませんでしたので、はっきりした結論は出せないのですが、私の個人的な経験によると、日本人の妊婦さんは体重増加を10kg(22ポンド)程度にしておくと、身体もあまりつらくないようです。ただし、これは個人差が大きく、15kgも増えて本当に大変だったという人もあれば、20kgも増えたのにとても安産で、産後もすぐに体重がもとに戻ったという人もあります。一般的な傾向としては、日本人はつわりの時期に少し体重が減り、中期になって増え出して、最後の1ヶ月はほとんど増えないというパターンが多いようです。

妊娠中の体重増加は赤ちゃんの体重以外は全部脂肪だと思いがちですが、そうではありません。子宮や胎盤に余分に栄養や酸素を運ぶために循環血液量の増加(1kg-1.5kg)や、赤ちゃんに栄養や酸素を送る胎盤の重さ(約500から750g)、そして羊水の重さ(800gから900g)があります。また、子宮の筋肉そのものも大きくなり(予定日ごろには1kgから1.5kgぐらいの重さになります)、母乳栄養に備えて、お乳が大きくなります(500g-1kg)。母乳を出すためにはある程度、体内に脂肪を蓄積することが必要です。こういった脂肪は主に腰周りや大腿部につくようです。それに加えて赤ちゃんの重さが3kg程度加わります。

妊娠中は胎児のためにさまざまな栄養素を摂取する努力をしないといけませんが、あれも必要これも大切と言っていると、ついカロリー量が多くなりがちです。口に入れるものをすべてカロリーと栄養素に分けて考え、できるだけ少ないカロリーでいろいろな栄養素を取るように心がけてみましょう。たとえば、甘い砂糖菓子などはカロリーばかり高くて、ビタミンも鉄分もカルシウムも入っていません。ほうれん草のお浸しにしらすぼしをかけたものなどは、少ないカロリーのなかにビタミン・蛋白質・カルシウム・鉄分が含まれています。鶏肉の例ではケンタッキーフライドチキンと水炊きにしたものを比べると、蛋白質の量は同じでも、カロリーの量が大分違います。体重の増えすぎが気になりだしたら、甘い物は一切やめ、ご飯の量を控え、果物よりも野菜を多く食べ、肉類のかわりに豆腐や大豆を食べましょう。また、揚げ物は一切止め、ジュースやコーラなどの炭酸飲料水も止めましょう。

妊娠すると代謝が変わり、少し食べてもすぐ太るという人もいれば、妊娠してからいくら食べても太らないという人もいます。体重増加のパターンを見ながら、カロリーを減らしたり増やしたりするだけでなく、運動量も調節しましょう。赤ちゃんの育ちすぎを防ぐには、食後30分ぐらいの時に20分ほど運動をするのが良いです。ペットボトルの水をダンベルのようにしてリズムに乗って上・横・下に動かすような運動はテレビを見ながらでも簡単にできます。また、体重を押さえ、妊婦糖尿病を防ぐためには1週間に3回以上、少し汗ばんで息が少し切れるかなというくらいの運動を30分以上行いましょう。ウォーキング・スイミングなどは関節が弱くなっている妊婦にも無理なくできる良い運動です。もっとカロリーを消費する必要のある人は、妊婦用のエアロビクスのクラスを探し、週に3回以上運動するとだいぶ身体の調子が良くなります。

掲載:2001年10月

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