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妊娠が難しい時 第6回 「卵子提供による不妊治療について よくある質問」

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ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん

Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP

Nadeshiko Women’s Clinic
15935 NE 8th Street, A-104, Bellevue, WA 98033
【メール】 info@nadeshikoclinic.com
【公式サイト】 www.nadeshikoclinic.com
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実際に普通に行われている治療なのでしょうか?

卵子提供による不妊治療と聞くと、非常に稀で特殊な治療だと思っている人が多いのですが、アメリカでは卵子提供による妊娠は、もうそれほど珍しいことではありません。現在、私の所属する助産師グループのアメリカ人の患者さんたちの中にも、卵子提供を受けて妊娠した人が100人に1人ぐらいの割合でいます。日本でも、卵子提供を受けて子供を産んだ50歳の政治家が話題になりました。表に出ないだけで、アメリカに来てこの治療を受けて妊娠する人はかなりの数に上るものと推測されます。ひとつのクリニックだけで、毎年50人は日本から治療に来ている、というデータもあります。

法的にはどう扱われるのでしょうか?

男性の精子の数が少なかったり、まったく無かったりする場合に他人の精液を使うという方法は100年以上も前から行われています。ただ、人工授精と違い、卵子をもらうためには体外受精の技術を使わなければならないため、1980年代まで技術的に不可能でした。日本では、精子を提供してもらうことについては昔から行われていたことなので、普通に社会に認められ、何も法的な問題がないのに、卵子を提供してもらうと実子とは認識できないのではないかという偏見もあって、この治療がなかなか受けられません。一方、アメリカでは、卵子提供を受けて生まれた子供もまったく問題なく実子として出生届を出すことができます。こちらで卵子提供を受けて妊娠して日本に帰った人たちも、その事実を誰にも公表せず、普通の妊娠として妊娠・出産・育児をしている人がほとんどです。

どんな場合にこの治療法を使うのでしょうか?

病気のために卵巣を摘出したり、20~30歳代で閉経が起こって排卵しなくなってしまったり、あるいは45歳を超えてから妊娠しようとしたらすでに妊娠できる卵巣機能がなくなっていた場合など、なんらかの理由で自分の卵巣から排卵されない時に使われる治療法です。すでに何回も体外受精を繰り返し、どうしても自分の卵子では妊娠できないという状況で、この方法を選択する人もいます。まれに、遺伝病があるために自分の卵子を使った子供は作りたくないという理由で、この方法を使う人もいます。

そこまでしなくても養子をもらえば良いと思うのですが、卵子提供と養子はどこが違うのですか?

卵子提供による不妊治療と養子をもらうのとでは、大きく異なる点が2つあります。1つは、血のつながりです。アメリカでは、養子の場合にはまったく血のつながりのない子をもらってくることがほとんどですが、卵子提供を受ける場合は夫の精子を使うため、夫婦の少なくとも半分は遺伝的につながりがあります。また、もう1つの大きな違いは、その子を自分の子宮で育て、自分のお腹を痛めて出産する、ということです。愛する人の子を自分のお腹で育てるという経験は、養子縁組では得られないものです。  

どのような手順で治療が行われるのでしょうか?

まず、卵子提供者を探します。条件に会う提供者が見つかって契約が済むと、まず、提供者が排卵促進剤の薬を使って複数の卵子を作ります。同時に、妊娠を希望する側もホルモン剤を使って子宮内膜の状態を整えます。提供者の排卵準備ができたところで、麻酔をして超音波で見ながら卵子の採取をします。採取された卵子は、妊娠したい人の配偶者の精子(まれに、精子バンクからの凍結精子)を使って受精させます。3日ほど試験管の中で育て、健康に育った受精卵(胚芽と呼びます)を妊娠したい人の子宮内に植えつけます。10日から14日待って、無事に着床して妊娠が継続していれば、あとは、普通の妊娠と同じです。

卵子提供者はどのような人でしょう?

「卵子を提供したい」という人は、妊娠出産に適した年齢で、健康であることが第一です。病歴・家族歴などを詳しく調べ、遺伝的な病気がないかどうか確認します。次に、心理学者やカウンセラーのインタビューを受け、心理的問題がないかどうかを確認します。卵子を提供することで、今後こだわりや後悔を残さないよう、自分がこれからすることの意味にきちんと納得が行くという場合に限って、卵子提供が許されます。無事に卵子を採取することができれば、およそ5,000ドルの謝礼が支払われます。「以前に卵子提供をして、その結果、元気な赤ちゃんが産まれた」という実績があると、謝礼額が一割ほどあがるようです。

なお、これは、卵子を売る、ということではなく、提供者が何回もクリニックに通い、ホルモン注射を毎日して、卵子採取のための手術を受けるという行為に対しての謝礼です。もともとは、お金が必要だから、という理由で応募する人が多いのですが、不妊症で苦労している人たちの悲しみや、その人たちが妊娠した時の喜びを知れば知るほど、その人たちを助けてあげたい、という思いが強くなる傾向があるようです。

費用はどのくらいかかるのでしょうか?

卵子提供を受けて妊娠する、ということは、体外受精の治療を受ける、ということです。体外受精にかかる費用は通常、15,000ドルから 20,000ドルぐらいまで、とクリニックや不妊症の理由によっても差があります。卵子提供を受ける、ということは、それに加えて、次の2つの料金がかかります。まず、提供者に支払う5,000ドル、それから、卵子提供者を探して法的・医学的・心理学的な審査をしてくれるエージェンシーに支払うお金が2,000ドルから2,500ドルぐらいです。医療保険でこうした費用を支払ってくれる会社はごく少数で、ほとんどのカップルは自分の貯金を使ったり、あるいは借金をして治療にあたっています。

人の子を産んでも所詮は人の子ではないでしょうか?

普通の妊娠の場合も、その子の DNA の半分は父親からのものです。しかも、その DNA は、父親とまったく同じではありません。父親の持つ遺伝子のさまざまな可能性の組み合わせの中から、たった一つの組み合わせの半数が受け継がれます。子供に受け継がせる自分の DNA についても同じです。あなたが卵子の提供を受けるということになれば、自分と少し違う DNA の組み合わせを受け取る、ということです。すでに、子供の遺伝子の半分は自分由来ではなく、配偶者のものです。あと半分も他の人から受けるということです。その DNA の設計図を使って、赤ちゃんの身体や心を作りあげるのは、自分です。胎児はあなたの血液のヘモグロビンを使って酸素を受け取り、あなたの食べた食品の栄養素を使って骨や筋肉を作り、あなたの一喜一憂のたびに、あなたのホルモン変化にさらされ、あなたの子として育つのです。

この方法についてもっと知りたいのですが、どこに相談したら良いでしょうか?

不妊症治療の専門家(Fertility Specialist)のところなら、どこでもこの治療を行うことができます。どこの不妊症クリニックに行っても、必要なら日本語の通訳をリクエストすることができます。

(2011年2月)

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