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スピーチ・セラピー 第17回「吃音」

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1月末のある日、朝日新聞デジタルに『伝えられぬ苦しみ「吃音」就職4ヶ月、命絶った34歳』というとても悲しい事件が掲載されました。

看護師として働き始めた男性は、幼い頃からあった吃音について、自己紹介の用紙にその症状と対処方法を書くなど、周囲の理解を求める努力をしていました。にも関わらず、職場の人々の理解が得られず苦しんでいたのだそうです。

このような悲しい事件が再び起こることのないよう、一人ひとりが「吃音」についての正しい知識をもつことが必要です。少しでもそのお手伝いができればと思い、今回は、「吃音」についてのコラムを書くことにいたしました。

吃音には大きく分けて3つの症状があります。「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは・・・」「ぼくぼくぼく・・・は」のように、単語の一部あるいは単語を繰り返す症状(繰り返し)、「ぼ―――くは・・・」のように、音を伸ばす症状(引き伸ばし)、そして、「・・・・!ぼくは」のように、最初の音や言葉がつまって出てこなくなる症状(ブロック)がそれに含まれます。さらに、言葉が出にくいときに手足を動かしたり瞬きをするなどの動作が出てしまう随伴運動や、「あのー」「えっとー」など言葉を挿入することで次に続く言葉をスムーズに出そうとする行動、あるいは、言いづらい言葉を別の言葉に置き換えて言うことで吃を回避しようとする行動など、二次的な症状が現れることもあります。

こうした症状も、電話や大勢の人の前で話をするときなどある特定の場面でのみ起こる場合と、様々な場面にわたって起こるケースがあります。また、その時の感情や聞き手の反応などによって、吃症状が出たり出なかったりすることもあります。自身の吃症状に対する周囲の反応が気になり、言いたいことがあっても忘れたふりをしたり、話すこと自体を避けるなど、その症状によって社会参加が制限されてしまうこともあります。

こうした吃症状は、通常、2歳半から4歳の間に出現し、その75%は自然治癒すると言われています。しかし、成人してからも症状が続くこともあるので、子供の吃症状に気付いたら、一過性のものか、あるいは慢性化する可能性があるのかを早期に見極め、適切な対応を取ることが望まれます。慢性化していく危険因子としては、(1)家族に吃音の人がいる・いた(遺伝的要因)、(2)吃症状が6か月以上続いている、(3)その他のスピーチあるいは言語に関する障害やつまずきがある、(4)吃症状があるという自覚があり、吃に対する恐れや不安が出てきているといったことがあり、これらの要因が絡み合って影響を及ぼしています。

では、会話している相手の吃症状に気づいた場合、どう反応したらよいのでしょうか。話者が言葉につまってしまった場合、その人から目をそらしたり、あるいは、その人が言おうとしていることを代弁してあげようとしてしまうことは、よい対応とは言えません。また、吃症状がある人にとって、スムーズに話すことはとても困難なことであるため、「ゆっくり言って」「リラックスして」などのアドバイスをすることが、かえって、本人の気持ちを傷つけてしまうこともあります。むしろ、話者が心理的プレッシャーを感じないよう、言いたいことを言えるまで待ってあげる姿勢が大切です。また、吃症状がある人自身もさまざまで、誰かと話をするのが平気な人もいれば、そうでない人もいます。そういった意味では、家族あるいは学校・職場等では、どう反応するのが一番よいのかを本人に尋ねてみるとよい場合もあります。聞き手としては、その人が「どのように話しているか」ではなく、「何を伝えようとしているのか」に注目することが大切なのです。

吃音は、手足の怪我などとは異なり「見えない」症状です。だからこそ周囲の人に理解されにくく、日々、心を痛め、生き難さを感じている方々は多くいらっしゃいます。そういった思いを共有しお互いに助け合うことを目的にした自助グループが日本にもアメリカにもあります。日本では言友会という自助グループは長い歴史があり、日本全国に支部があります。その他にも、当事者が中心の自助グループ、当事者およびその家族と言語聴覚士や臨床心理士等の専門家たちで構成されている支援グループ等が各地にあります。アメリカでも、National Stuttering Association や The Stuttering Foundation をはじめとする自助グループや支援グループが各地で活動しています。

しかし、こうしたグループに参加する当事者やその家族だけでなく、私たち一人ひとりが、吃音に対する正しい知識を持ち、適切な支援を行っていくことが大切だということを、ここでお伝えできればと思います。

情報提供:言語聴覚士 鈴木 美佐子さん

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