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スピーチ・セラピー 第12回 聴覚処理障害(Auditory Processing Disorder: APD)

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呼んでも振り向かないことがある。
「え?」「なんて言ったの?」と聞き返すことが多い。
授業中、先生の話やクラスメートの発言が聞こえていないように感じることがある。
新しい単語を聞いても、なかなか覚えられない。
授業のノートを取るのが苦手。

今回は、このような問題の原因の一つとして考えられる「聴覚処理障害(Auditory Processing Disorder: APD)」についてお話ししたいと思います。

私たちが耳にする言語音や環境音は、まず耳(外耳、中耳、内耳)で音の大きさや高さに関する情報処理が行われ、その後いくつかの経過点を経て、大脳の聴覚野で処理が行われます。この内耳~聴覚野で行われるべき処理がうまく行われない場合を聴覚処理障害と言い、聴覚処理障害を持つ子どもたちは、「聞こえているが、わからない」状態にあると言えます。もう少し具体的に見ていきましょう。

  1. 聞くべき音に注意を向けたり、音がどこから聞こえてくるのかを認識できない。 (具体例1)授業中、廊下や隣のクラスから聞こえてくる音が気になり、先生の話に集中できない。
    (具体例2)道を歩いていて、犬が吠えている声が聞こえたが、どちらから聞こえてくるのかがわからない。
  2. 音の違い、言語音の違いがわからない。 (具体例3)「○○ちゃんのおウチのお庭はとてもヒロい(広い)よ。」という言葉を聞き間違い、「えっ、そんなにヒドい(酷い)の?お庭の手入れをしてないんじゃない?」と答えてしまう。
  3. 音声言語のみで指示されると理解が難しい。 (具体例4)「キッチンに行ってフォークとお皿を取ってきて」といったような口頭指示を聞き、スプーンを持ってきてしまう。
  4. お話を聞き、その内容を記憶したり要約したりすることが困難。 (具体例5)クラスで 『おおきなかぶ』 を読んだあと、お話に出てきた人物や動物、場面などについて質問をしても答えられない。

こうした問題がある場合、学校や家庭における環境調整を図るとともに、子ども自身の聴覚処理能力を改善する取り組みが必要になってきます。具体例をいくつかご紹介します。

環境調整

  • 授業中、先生(あるいは話し手)の近くに座る。
  • テレビをつけっぱなしにしないなど、できるだけ雑音が少ない環境を作る。

取り組み

  • 散歩などをしながら、犬や猫の声、バイクの音など、環境音が聞こえてきたら、「何の声かな?」「どこにいるのかな?」など聞き、音源を認知する練習をする。
  • 一緒に料理や工作をしながら、「まず○○して」「次に○○して」等、作業の順番を口頭で伝え、その順番を記憶し、実践する練習をする。
  • 「お父さんに○○って言ってきて」など、メッセージを正しく伝える練習をする。
  • お話を読んだ後、「誰」「どこ」「何」「いつ」「どうして」「どうやって」といった質問に答える練習をする。

これらの症状は、聴覚処理障害の他にも、聴覚障害や注意欠陥(多動)障害(Attention Deficit Disorder: ADD、Attention Deficit Hyperactivity Disorder: ADHD)、言語障害、知的障害などさまざまな障害が原因となっていることがあります。また、今回お話した聴覚処理障害は、理解されづらい障害であるため、本人が「聞こう」と努力しているにもかかわらず、「人の話を聞こうとしない」など、態度の問題と捉えられて本人のストレスの原因となってしまい、結果として問題行動につながってしまうことがあります。

そのような二次的障害を防ぐためにも、上記のようなことが気になった時には、早めに専門機関(アメリカでは通常、聴覚士:Audiologist を中心とするチームで診断を行います)に相談し、問題の原因を明らかにすると同時に、問題解決をはかることをおすすめいたします。

情報提供:言語聴覚士 鈴木 美佐子さん

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