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第3回 職場でのいじめとそれにかかわる法律と対処法

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もくじ

アメリカの職場でのいじめの現状

アメリカでは、職場での人間関係の問題としていじめが増えてきており、いじめの行為や企業の対処の仕方、および結果によっては、法律上影響を及ぼすほどまでに発展するケースが見られるようになりました。

2007年のある職場のいじめに関する統計によると、49%の社員が職場でいじめを受け、42%の社員、および雇用者が職場で怒鳴ったり不適切な言動をしたりしていると認めています。こうした問題は数十年前から続いているのでしょうが、時代の変化に伴って多様な人種が同じ職場で長時間過ごす傾向が強くなったこと、また女性や少数派の権利の向上によってそれらの人たちが権利を公に主張するようになってきたことが、案件の増加の理由として考えられます。1日のうち、働いている時間と家族と過ごす時間のどちらが長いかを考えただけでも、職場での人間関係の問題についての深刻さが想像できるかと思います。

一般的ないじめと違法行為を伴ういじめの違い

いじめの典型的な例としては、上司から怒鳴られたり、他の社員の問題に関して濡れ衣を着させられたり、他の社員とは異なる待遇を受けたりしているということが挙げられます。また、その時の管理者の気分によって、他の社員が無差別にいやがらせ(harassment)を受ける場合もあります。しかし、ほとんどのケースは法的効力がなく、社員それぞれがそのいじめをうまく交わすか、人事労務課など(Human Resources Department)に相談をしたうえで対処するかという選択しかありません。

では、どういう状況であれば法的な手段をもって対処できるかというと、いじめが組織化し、職場全体に悪い影響を与えた場合(hostile environment)、セクハラ や人種差別(discrimination)、および身体的暴力(tort)など行為そのものが違法である場合、企業が対処をせずに職場のいじめを悪化させた結果、いじめの対象になった社員が会社を辞めざるを得なくなった場合(constructive discharge)および辞めさせられた場合などが挙げられます。

いずれにしても社員が辞めざるを得ない状況に追い込まれるケースに関しては、いじめの度合いが目に余るほど(intolerable)で、一般の社員の目から見ても耐えられる程度ではない職場環境でなければ、法律的効果を持ちません。そのうちの例として、身体的暴力(tort)があった場合はもちろん、違法行為を伴ったいじめを受けた社員が、会社を辞めないと精神病になりかねない、あるいは会社を辞めざるを得ない状況に追い込まれた場合が挙げられます。

いじめに対する企業の対応

企業として一番重要なことは、企業を管理する上での方法として、まずは差別やいじめなどの人間関係によって生ずる問題の対処法や社員に対する罰則制度などを社員手引きに規定しておくことです。

実際にいじめが生じた場合、いじめの性質や内容に関わらず、人事/法務/労務課を通して十分な職場調査を行い、いじめを防ぐよう対処する必要があります。その過程で、いじめをする社員とも話し合い、今後の言動に対する措置について理解させなければなりません。もちろん、いじめを受けた社員にとっては、企業に助けを求めたために、後にさらなるいじめを受ける心配も生じるため、企業が対策を練る段階でこうした副次的影響があることも念頭において、問題になっている職場を注意深く監督していく必要があります。

ただし、いじめを受けた社員の中には家庭の事情などで過剰に反応してしまう精神状態の社員もいるので、必ずしもいじめをする側のみに非があるわけではないことも考慮に入れる必要があります。さらに、もしいじめが違法行為を伴う性質のものだと判断された場合はもちろん、これを正すのが企業の責任であり、その責任を企業が回避したせいでいじめを受けた社員が精神的ダメージを受けた場合は、企業が法的責任を負うことになります。

いじめの被害にあった社員の対応の仕方

前述のように、一般的ないじめと違法行為を伴ういじめとは事態の深刻さの度合いが異なります。違法行為を伴ういじめであると判断される場合は特に、まず企業にそれを報告し、企業がそれでも対処しない場合は弁護士と相談するのが通常の手順です。

いじめの被害者が考えなければいけないのは、他の社員が同じような被害にあった場合、自分と同じような反応をするかということです(reasonable person’s standard)。被害者が多少神経質になり、事態を現実よりも大きく解釈しているケースも少なくありません。いじめの起きた日時とその状況などを詳しく記録し、やはりいじめが現実であり深刻であると判断した場合、企業の人事課を通して対応を求めるのが効果的です。その際、前述の記録を証拠書類として提出します。特に、いじめが原因で職場の生産力が落ちるようなことになればなおさら、こうした訴えは企業にとっても結果的に有益になるので、ためらう必要はありません。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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