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第96回 弁護士料の見積もりが取りづらい理由

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第50回のコラムでは、弁護士は弁護士協会の職業倫理規定(Rules of Professional Conduct)に沿ってクライアントと業務契約を交わし、弁護士料の支払方法を決定し、通常、1)時間単位、2)均一(定額)料金、3)成功報酬、のいずれかで業務を行うということを簡単にご説明しました。今回は、日本人の方からよくある弁護士料の見積もりの提出という依頼に応じることが難しい理由をご説明します。

上記の弁護士報酬体系のうち、ほとんどの案件が時間単位で業務が行われるということは第50回のコラムでも触れましたが、当然、均一料金での業務契約であれば、最終的に支払う弁護士料金は明確です。米国でも移民法関係の弁護士のほとんどが、均一料金で業務を行っています。その大きな理由は、移民法業務はビザ等の申請作業が主な業務となり、相手側やその弁護士またはクライアントの要望、裁判所の手続きによって作業量がそれほど変更しないからです。

また、人身傷害事件や被雇用者の雇用者に対する訴訟のほとんどは成功報酬で業務が行われています。その主な理由は、人身傷害事件の告訴人は傷害に対する法的正当性と受けた傷害に対する賠償金を要求するために裁判所に告訴内容を申請するため、案件を受ける弁護士は告訴人の主張に正当性があることを確かめてから業務を行い、その際、告訴人から弁護士料を直接請求するのではなく、保険会社や被告人から支払われた賠償金から何割かを報酬として受け取るからです。成功報酬の場合は、勝訴しなければ弁護士料は支払われないため、弁護士は案件を請け負う前に勝訴の確率を検討します。被雇用者の雇用者に対する訴訟も同様です。通常、成功報酬はリスクを伴うだけではなく、弁護士費用が前もって支払われないため、最終的な弁護士料金の支払いを時間料金に換算すると、たいていの場合、相当高額な報酬となります。

その他の業務はほとんど時間単位での料金となります。例えば、訴訟に関連しない取引専門の弁護士は企業の契約書やレターの作成、 政府関連書類作成、取引の交渉などが業務となり、一般的に時間単位料金となります。これらの作業は、相手との交渉/論争やクライアントとの確認や同意を必要とし、その間に相手やクライアントから要求や変更が常にあり、その都度、弁護士は書類確認をして専門家として責任のあるアドバイスと変更の承認及び政府期間や裁判所への書類提出をするため、弁護士側で必要時間の見積もりが正確に立てられないのが実情です。また、ビジネス関係の問題から発生する事業主間の訴訟や雇用主を含む被告人側の弁護等、訴訟一般業務はほとんどが時間単位の料金となります。時間単位にする主な理由は、弁護士の進め方や申請書の裁判所提出の数によって作業量に変化があるため、弁護士の作業時間に見通しが立てにくいからです。

さらに、家族法のような案件は、成功報酬での業務が禁止され、単純な資料作成のみの仕事であるため均一料金で業務がなされる以外は、時間単位での料金体系に限られています。たとえば、離婚訴訟の結果はお互いの勝ち負けで判断されるべきものでなく、あくまでも離婚が正当かつ法的に正しくなされているかの判断に依存するからです。しかしながら実情としては、離婚する夫婦間の問題はお互いの異論や感情的な罵倒が多く、解決に時間がかかることが多いので、予想以上の弁護士料(特に一家庭で2名の弁護士をつけることから)の支払いをせざるをえないことがあります。

日本での弁護士料の料金体系はこれに比べて予想がしやすく、また、見積もりに従って均一料金での請求が多く見られるようですが、米国での弁護士の料金体系はこれらの点と性質の相違により、料金体系も相違するのです。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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