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第49回 有限会社・合名会社経営者の解散・解離・紛争について

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第16回のコラム「ワシントン州での事業所設置について-なぜワシントン州でビジネスをすると有利なのか?」では事業体の種類、第29回のコラム「C-Corporation(C株式会社)と LLC(有限会社)の利点と欠点」では C-Corporation と LLC の相違について簡単にご説明しましたが、今回は、それらの事業体のうち、最近急増する有限会社(LLC)や合名会社(Partnership)の設立後に頻繁に起こる問題と企業解散について、法的な視点からご説明します。

LLC や Partnership は、Corporation に比べ、政府に提出する書類も少なく、事業経営や企業所有権に関して比較的融通が利くので、数人で事業を始めようとするスタートアップ(新規企業設立者)によく選択される事業体です。経営者同士で契約書を結び、その契約書に従って企業運営がなされ、その契約書には、それぞれの経営者の経営権の割合、投資額、運営権、投票権、損益の分割(配当)の仕方、企業解体の条件等が記されているのが通常です。経営者同士で企業解散を決定した場合は、解散契約書、1人の経営者が企業経営をやめる場合は脱退契約書を結び、損益の計算と配当をしたうえで、解散または脱退の手続きをします。その後、企業解体の場合は税金・会計等の処理を完了した後、州政府に解体の申告を出せば完了します。(RCW 25.10.571)

企業運営が契約書どおりになされ、経営者同士が運営方法に同意した状態で経営されていれば問題ありませんが、意見の食い違いを経営者間で解決できない場合は、上記の契約における企業解散の際の手続き方法と同様に、主に1)企業体の解散、 2)1人の経営者が企業を辞める、3)他の事業体との吸収合併をして組織構造と経営者を変更するなどの選択があります。

ワシントン州法では、経営者同士の紛争と意見不一致によって裁判所が介入することによって LLC をたたむ場合の条件として、(1)企業の契約書にのっとって運営をすることが実質的に無理があった場合(It is not reasonably practicable to carry on the business in conformity with a limited liability company agreement)、または (2) 企業解散に値する環境があった場合(other circumstances render dissolution equitable)という標準を設けています。(RCW 25.15.275) (1)の条件は多数の LLC が設立されているデラウェア州をはじめ、米国のほとんどの州で共通の条件ですが、(2)の条件については、ワシントン州特有の項目で、解釈が非常にあいまいであるため、多くの場合は他の州の判例法や合名会社(Partnership)の法律に依存した判決が下されることになります。

(1)の条件の例として、たとえば50%の所有権(投票権)を持つある経営者が、もう一人の50%の所有権(投票権)に対して反対意見を述べ、双方の意見が相違するため企業の経営に関する決定が不可能になることを行き詰まり(Deadlock)といい、裁判所が介入することによって企業解散の場合もあります。さらに、企業設立後、企業運営がその目的や契約書に沿って運営されていなかったり、企業自体が税金上も機能していなかった場合も、(1)の条件に該当するものとして、裁判所を通して企業解体になることがあります。

また、(1)の条件に加え、(2)の条件の例としては、一人の企業経営者が使い込みをしたり、企業契約違反や違法経営・行為をしたり、他の経営者に対して一方的な要求をしたり、健全な経営に支障を与えたり、残りの経営者の運営の邪魔をすることによって企業利益に支障を与えたり、ある経営者が他の経営者をだましたりした場合です。これらの一経営者の行為は、委託者義務違反(Breach of Fiduciary Duty)として、被害を受けた経営者側が裁判所に告訴し、委託義務違反をした経営者がもたらした損害に対する賠償を求めることもあります。(Derivative Action) さらに、この経営上の不正行為を理由に、被害を被った経営者が企業の解体・解散を要求することもよくありますが、一方で、被害をもたらした経営者が他の経営者の脱退(Dissociation)を認めるだけで、企業解散には至らないこともあります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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