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第58回 株式会社経営者の法的責任

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第16回のコラムで株式会社登録のために必要な書類と手続きの仕方、第29回のコラムで株式会社(C-Corporation)の組織上の利点と欠点についてご説明しました。今回は、株式会社 (C-Corporation、S-Corporation)経営者の法的責任についてご説明します。

ワシントン州法(Chapter 23B)では、株主(Shareholder)、取締役(Director)、役員(Officer)の企業内での法的責任・役割・権利と義務に関して規定しています。株主は投資をする対価として投票権や監査権を得、経営に参加することが主な役割ですが、取締役や役員は会社経営に直接携わり、会社の経営方針や資金繰り等の管理、社員の採用等、幅広い法的責任があることが、大きな違いです。

大企業・上場企業では、定款・社員規定・株券・株主契約書等の書類が整理され、企業内の書類を通して株主・取締役・役員の役割と責任が明確に規定されていますが、中小企業やスタートアップ企業は、上記のような書類が揃っていない場合が多くあります。特にスタートアップ企業の場合は、経営者が株主・取締役・役員の掛け持ちをする場合が多くあります。従って、スタートアップや中小企業の経営者の法的責任は大手企業の経営者の法的責任よりも複雑かつ重いと言ってよいでしょう。

一例として、数人で企業を立ち上げ、そのうちの一人(A)が、株主・取締役・役員の掛け持ちをしたとしましょう。そして、A さんが、企業への投資、企業の資金繰り、企業登録や認可等の更新手続きや組織改革、外部の業者との交渉と契約、社員採用と管理(給料の支払いを含む)、営業活動を掛け持ちしていたとします。ところがこの A さんは他の株主に企業利益等の報告もせず、株主総会も定期的に開かず、企業立ち上げをしたもう一人の仲間(B)と食事をした折に思いついたまま経営に関する決定をし、企業の資金繰りをしてしまいました。その場に居合わせなかった株主(C)にはその情報は伝えられず、その決定内容に不満を持った C さんは A さんに不平を申し立てました。このような場合、C さんは A さんをワシントン州法上の受託者義務違反として訴えることが可能になります。 さらに、C さんが申し立てた不平の内容が A と B の不利になるという理由から、A と B が企業経営者として C を追い出そうとすれば、その行為も法的問題になります。最近、不平を申し立てた株主を追い出す手段として、その株主の職権乱用や管理ミス等あらゆる理由を使って、株券買収をせず、株券徴収を要求したケースがありました。このような行為は、企業法違反になるだけではなく、恐喝(civil extortion)として扱われることがあります。

このように、取締役と役員の法的責任はかなり重く、それらが株主であれば、さらに問題を複雑化する傾向があります。そうした責任を軽減するため、取締役や役員の賠償責任を限定することを望むのであれば、企業定款にそのことを明記する必要があります。もし定款や企業内の契約書に取締役や役員の法的責任を規定する項目が欠けている場合は、ワシントン州法の規定がそのまま該当し、法的責任が最大限に適用されます。もちろん、法律に違反する行為や法律上矛盾する定款については無効となる可能性は十分あるので、専門家に書類の作成を依頼することが望まれます。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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