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第27回 国際調停 (International Arbitrations) について

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第22回のコラムで国際企業紛争解決の手段について一般的にご紹介しましたが、今回は裁判外国際商業紛争解決(alternative dispute resolution for international business transactions)の手段としてよく選択される国際調停(International Arbitrations)についてご説明します。

訴訟ではなく調停を選ぶ理由:

  1. 当事者が調停人を選抜できるため、特定の裁判所で指名された裁判官の偏見による裁定の可能性が少ない。
  2. 調停人による裁定が最終である。
  3. 裁判所を通すと情報が公になることがしばしばあるが、調停の場合は秘密契約(Confidentiality Agreement)

さえ当事者同士で結んでいれば情報が漏れる心配がない。

  1. 調停の場合、証拠開示に関する規定が緩和されているため、提出書類の量と範囲を狭めることによって、それにかかる費用と時間を抑えることができる。
  2. 裁判所では多くの申請手続き回数を踏み、正式な証拠開示を求められ、さらに宣誓証言や陪審裁判を求められる可能性があるが、調停はそのような形式によって運営されていないので、問題解決は比較的速く、費用も安く済む。

調停を紛争解決として選択する方法:

  1. 契約書で調停が拘束力のある裁定として規定されていること。もし特定の商業契約書によって調停が紛争解決策として指定されていなくても、当事者同士で調停を選択することができる。
  2. 調停が指定の調停地の法令によって認知されていること。

調停機関の種類・特徴と、調停機関を通さない調停:

調停機関を通す場合、それぞれの機関の規則・規定に基づいて運営されますが、機関を通さない場合(Ad Hoc)は当事者同士で調停の進め方や方法を選択できます。ただし、米国と日本間の調停に関しては調停機関を通した調停をお勧めします。機関を通さない調停は費用も安く時間も短時間で進行されることで知られますが、過去の経験から、契約書上で詳細の手続き方法を明記していない限り、組織を通さない調停の場合は米国側に有利に進行される傾向があるからです。主な調停機関は下記のとおりです。なお、契約書に挿入されるべき条項として、各機関では特定の表現を推奨しています。

  1. ICC – International Chamber of Commerce
  2. UNCITRAL – United Nations Commission on International Trader Law
  3. AAA – American Arbitration Association

調停条項の内容に関する注意:
上記でも述べたように、各調停機関で調停条項について特定の表現を推奨していますが、その標準的条項に加えて考慮しなければならないのが、1)調停地 2)契約を統制する法律 3)調停を通した紛争解決の範囲です。

  1. 調停地
    一般的に契約終結時まではお互いの共同事業の趣旨と力関係が明確なため、調停地や法律の選択に関してはほとんど交渉の余地がありません。しかし一般的には利益を相手に与える立場にある企業・経済力のある企業の位置する国・州・土地が調停地となります。例えば、ある日本企業がマイクロソフト社にライセンス契約を求め、その契約までこぎつけた場合、調停地は通常、ワシントン州になります。
  2. 契約を統制する法律
    法律の選択に関しては通常、調停地と抱き合わせにして考慮されます。調停地がワシントン州であれば、適用される法律もワシントン州となるのが普通です。なお、米国内での調停の場合は州によって規定が若干異なるので、専門家にアドバイスを求めるのが得策です。第22回のコラムでも触れたように、ほとんどの州ではどの州のライセンスを持っている弁護士でも調停地にかかわらず調停ができることを認めていますが、カリフォルニア州では調停の際の規定が複雑かつ制限的に構成されているため、最近ではカリフォルニア州での調停を避ける傾向にあります。
  3. 調停を通した紛争解決の範囲
    契約書の範囲内から起こる問題であれば契約書内の調停条項に従いますが、もし当事者間・企業間で契約書内容と関連しない問題が調停に持ち出された場合は通常、その問題を調停の対象として扱いません。例えば、ある外資企業が5年前に相手企業に通知しないまま契約を解除したとします。今年になってその相手企業がこれを契約違反と見て契約書に規定されているとおり調停を通しての紛争解決をしようとして、時効が成立 (時効が4年と仮定)していることを理由に外資企業がその要求を却下したとします。しかし、最近の判例法から、時効成立は裁判所への申し立ての場合に該当するもので、調停での紛争解決の際は申し立てを却下された企業が調停を強要できることもあります。このように、調停を通した紛争解決の範囲の決定は一概に制限されているとは言えませんが、いったん調停が進行すると、たいがいの調停機関では争点を絞った対応を行います。

なお、前回のコラムで「裁判所での問題解決の場合は、その州においてライセンスを持っている弁護士のみしか出頭できない」とご説明しましたが、まれなケースで他州の弁護士協会および裁判所から臨時出頭(Pro Hac Vice)の権利を得るは可能であることを追記させていただきます。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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