MENU

第107回 大統領令13780号(13769号の改正版)が憲法違反となる理由

  • URLをコピーしました!

第106回のコラムで、2017年2月3日にワシントン州の連邦地方裁判所によって大統領令 13769号に対する暫定的指し止め命令の判決が下され、その命令が連邦第9巡回上訴裁判所により地方裁判所の命令が2月9日に承認されたことをご説明しました。

しかし、その後、3月6日に、前回と同様の目的、すなわち、米国をテロリストから守るための措置として、新たな大統領令13780号が発行されました。

大統領令13780号に関しては、執行を3月16日とし、告知期間を与えていましたが、ハワイ州の連邦地方裁判所によって3月15日(執行前)に暫定的指し止め命令の判決が下されました。

これは、政府側が上訴しない限り、米国全土で有効とされます。

そこで、今回は、新たな大統領令13780号の骨子と憲法違反の理由について簡単にご説明します。

大統領令13780号

大統領令13780号の主な内容は、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの計6カ国の国民で1月27日の時点でビザを入手してなかった者、または現在ビザを持っていない者は、90日間米国入国禁止とし、対象外となる主な者は、永住権を持つ者、3月16日以降米国入国の許可を得ている者、外交官、米国入国をすでに許可されている難民などです。

内容は以前ほど過酷な結果をもたらすものではないものの、ハワイ州側の暫定的指し止め命令の申請が承認され、今回の大統領令13780号も却下されました。

該当する法律は、2月9日の指し止め命令承認の際に適用された法律と同じですが、却下の理由は大統領令13769号却下の理由と分析方法が多少異なりますので、下記に簡単にまとめました。

  1. ハワイ州の当事者資格 米国憲法第3条により、ハワイ州は当事者資格があることを証明する必要があります。その証明として、1)上記6カ国からハワイ州立大学に通う予定の学生や教授が予測されているが、その機会と収益を失う、2)観光客によって経済が支えられている州であるため、観光客が減ることによって州の収益を失う、3)大統領令が執行されることによってこのような被害は十分想定される、4)大統領令が執行されなければ損益・被害がない、という理由と証拠を挙げたことにより、ハワイ州の当事者資格が認められました。 なお、今回の告訴状・申請書には、エジプト出身で米国市民となった Elshikh 氏も告訴人のひとりとなっていますが、政府側は、Elshikh 氏の被害は実際に起きていないため該当しないと議論しましたが、裁判官はすでに被害は起こっており、もし大統領令が執行されたら被害が大きくなるのみであるとし、政府側の意見を却下しました。
  2. 暫定的指し止め命令の目的と適用の基準 申請者は、1)暫定的指し止め命令がなければ相当な被害がある、2)それによって暫定的指し止め命令が承認される確立が高い、3)当事者と被告人の正当的理由の均衡により当事者の正当性が高い、4)暫定的指し止め命令は公共が求めている結果である、ということを証明することが必要です。
    裁判所は、この要素に関しては議論の余地がなく、当事者側に勝訴の余地があると判断しました。
  3. 米国憲法修正第1条における権利 米国憲法修正第1条の国教条項は、宗教の自由を保障しています。政府・大統領令が宗教自由権利に抵触していないことを確証するためには、大統領令の目的が、1)非宗教的であること、2)ある宗教信仰を禁止するような効果がないこと、3)宗教に対する政治的紛糾がないことを証明しなければなりません。

この点に関して、裁判所は、今回の大統領命令が1の段階で十分であると判断し、2と3については分析する必要がないとしました。その証拠のひとつとして、トランプ大統領が選挙活動中に、イスラム教を一掃するということを約束した発言をしたことが挙げられました。

仮に大統領になって別の理由を繕っても、その理由は法的に有効にするために必要な理由を作っただけで、実の理由はイスラム教を一掃することで、大統領の本来の意図とそれに基づく大統領令は明らかに米国憲法修正第1条に違反するとしました。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ