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第112回 差別に関する訴訟に必要な証拠

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社員候補の選抜、従業員の管理・評価、または社員の解雇において、雇用法に基づいて公平な評価に基づいて決定することは、雇用者が最も気をつけなければならない法的要素です。

米国の多くの企業は、理由の有無やその内容に関わらず、社員を解雇できる権利を有しています。これを、Employment at Will といいます。しかし、社員の選抜、評価、解雇の際に、人種・国籍・性別・年齢・身体障害・妊娠・宗教などによる差別を理由に解雇を決定してはなりません。なぜなら、もし社員が「差別によって自分の仕事がなくなった、または採用されなかった」と判断した場合、その主観的な認識に基づいて雇用者を訴えることがあるからです。

雇用者としては、こうした主観的な解釈を避けるため、下記のような客観的な証拠を残しておく必要があります。

  1. 面接の際、複数の社員に同席させ、書面にその内容を記録する。
  2. 採用後、雇用契約書はもちろん、職務成績に関する評価を定期的に記録する。
  3. 企業のルールや方針を明確にする。
  4. 差別待遇と間違えられることがないよう、社員の直属の上司を教育する。
  5. 解雇する際、企業の組織内での従業員の位置付けを確認した上で法的に分析し、解雇を決定する。特に、解雇の際の法的分析においては、弁護士のアドバイスを受けることは重要です。

それでも社員(社員候補者/元社員)が差別待遇をされたと主張して雇用者を訴えた場合、雇用者は訴訟を受けざるをえませんが、その際に上記の書面での証拠があれば、社員または社員の弁護士に対して勝訴の見込みがないと判断する動機になり、早いうちに解決となることがあります。しかし、勝訴の可能性がないにも関わらず、とりあえず訴えれば和解金がもらえるという狙いで訴える従業員もいます。

証拠の提示に関しては、訴訟開始後、ディスカバリーという証拠開示の作業があり、相手に質問状を送り、その返答とさらに証拠書類(Request for Production)を要求します。また、相手側から同じような質問状があれば、それに回答します。さらに、必要に応じて証人への尋問も行います。

証拠がすべて揃った段階で、訴訟の動きと予測される結果を分析します。その際、元社員/社員候補者個人の意見や見解、想像を証拠として提出したり、証人が噂や自分の意見に基づいて証言したりすることは、裁判所で採用が許されない証拠と見なされます。

例えば、上司と言い合いになり、その結果、辞めさせられたり、上司の態度が差別しているように感じたなどということは、判決を下すための証拠としては一般的に受け入れられません。判決に必要な証拠とは、独自の客観的な証拠でなければなりません。例えば、就業中に電子メールで上司に「あなたは年だから能力がない」と言われた直後に解雇された場合や、社員が医者の診断書を出してさらに怪我の状態に応じた対応を依頼したにも関わらず、「あなたは怪我をして歩けないので退職しなさい」と通達された場合、妊娠したことを上司に伝えた途端、雇用者が新しい社員を採用し、妊娠した従業員のポジションがなくなったなどの場合です。ただしどの場合も、業務成績が良いのに解雇されたということがことが前提です。

雇用者側として必要なことは、客観的な証拠ですので、社員の職務の評価が悪かったことを証明する書類や社員の怠慢や権利乱用などを証明する書類が必要です。仮に、妊娠中で保護を受ける立場の社員でも、職務成績が悪ければ、雇用し続ける義務は必ずしもないということです。

従って、本来ならば、理由の有無に関わらず解雇できる立場である雇用者も、このような厄介な訴訟を避けるために、解雇の理由を証明できる書類を保管しておくことが重要です。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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