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第62回 訴訟の際に必要な証拠と手続きについて

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第53回のコラムで、訴訟の際の証拠開示が複雑かつ時間のかかる作業であるということを簡単にご説明しました。今回は、訴訟の際にどのような証拠が必要とされるかの例をご紹介し、どのような証拠が決定的なものになるか(smoking gun)をご説明します。

証拠の種類としては、日時が明確な写真、専門家の評価、電子メールや銀行明細、契約書などのコピー、政府機関に提出されている書類のコピー、領収書(レシート)、ビデオ、ボイスメール、テキストメッセージのコピー、警察官のレポート、納税書類、小切手のコピー、メモ、証人の宣誓供述書等があります。

いずれにしても、訴訟の際に提出する証拠はすべて書面になっている必要があり、証人の宣誓供述書等の提出も求められます。例えば、原告側が「被告が暴力をふるった」といっても、その直後に警察官を呼んでレポートをもらうか、その暴力の様子をビデオで映写しておかなければ、裁判所では証拠不十分として受け入れません。もし建築・改造等に欠陥があった場合も、それらの欠陥を示した写真のみでなく、専門家としての第三者の意見を宣誓供述書(Declaration)として裁判所に提出する必要があります。さらに、契約違反等で原告側に被害があった場合は、その被害を示すさまざまな書類や企業秘密の提示も求められることがあります。中でもおそらく最も証拠提示が困難なのは、雇用関係、特に差別から発生する証拠の提示には 相当の時間と労力を要します。これは、もし被雇用者が差別で訴えても、訴訟を起こす頃には被雇用者は解雇されていて、それまでにはたいがいの方は 企業の電子メールへのアクセスできない上、雇用契約上、退職時に企業に属する資料はすべて企業に返還しなければいということになっているからです。さらに、企業訴訟の場合は、一般的に証拠開示が電子メールの開示によって行われることが多く、この作業には相当の時間がかかります。

しかも厄介なのは、仮に案件の勝訴が早い段階で証拠提示によって確証できていても、被告側が非を認めないこともよくあります。被告側が素直に非を認めれば、告訴状を提出する直前か直後に 和解による解決をすることは可能ですが、第53回のコラムでも触れているように、被告側が 答弁をせず、欠席判決が 裁判所から出ても相変わらず無視をし続けるなどということもよくあります。原告側としては、 欠席判決後の手続きとして、その後 裁判所を通して債権差し押さえ手続きをしなければなりません。それにより、債務者が利用する銀行口座から直接債務者を通さずに請求額相当の金額を引き出すことができます。さらに、債務者の雇用者に直接連絡し、債務者の給与から直接請求金額相当の額を差し引くこともできますが、これらの過程には相当の時間と作業量を要します。

このように、訴訟を通して勝訴し、さらに債権回収と判決を被告側に執行させるのには相当な時間と労力(弁護士料)を必要とします。ですから、少なくとも訴訟を避けるため、取引や業務をする際には、必ず書面での契約書を交わし、どのような会話もできる限り電子メール等で行い、領収書等は保管し、口約束を避けることをお勧めします。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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