委任状における権限には大きく分けて2種類あり、1つは財産関係、もう1つは身体関係です。財産関係の委任状(一般的にFinancial Durable Power of Attorney)と身体関係の委任状(Durable Power of Attorney for Health Care)はそれぞれ個別な書類として作られることもありますが、シンプルにするため両方をまとめて1つの書類として作られることもしばしばです。
身体関係の委任状は、作成者の健康からその他の体に関わること全般においての権限を委ねるものです。ですから、作成者の主治医やその他の医療機関の職員と作成者の健康について話し合ったり、手術などの合意書に署名したりする権利を代理人に与えることになります。また、この委任状の一環として生命維持に関する意思表示をすることもできます(これは一般的にHealth Care Directiveまたは Living Willと呼ばれるものです)。
なぜこのような書類が必要なのか、とよく聞かれます。「私の父が意識不明になったら娘の私に当然、父に代わって行動する権利があるのではないか」と聞く方も少なくありません。以前にも少し書きましたが、アメリカは他の国と比べルールにとても細かい国で、委任状のようにはっきりと代理人の法的権利を示した書類が無いと、代理人と話もしてくれない機関が多いのです。実際のところ、家族同士で財産の争いも多く、1人の子供が兄弟姉妹に隠れて親の財産を盗むというようなことも数多くあるため、このようなルールがあることはプラスの面も多いのは事実です。いずれにしろ、アメリカはこういう国であることを理解し、それに応じたプランを立てておくのが最善でしょう。特に医療機関に関しては2003年から施行された "Health Insurance Portability and Accountability Act"(HIPPA)という連邦法律のため、患者のプライバシーを守るために患者以外の人間に対して(家族も含めて)情報公開が非常に狭められていますので、それに対応した内容の委任状を用意しておくことをお勧めします。
委任状を作らないまま長期の判断不能状態になってしまった場合はどうなるかというと、代理として行動したい人(家族や友人)は裁判所に申請して後見人(Guardian)として指名してもらわなければなりません。後見人の指名には裁判所への申請や証拠書類の提出が必要です。また、申請者が代理人となることが判断不能人にとって本当に最善であるかどうかを見極めるために裁判所が中立の第三者を "Guardian Ad Litem" として指名して調査させ、その報告書や申請者の弁論、また反対する人がいればそれらの人の弁論を聴いた上で判決が下されることになります。これらの手続きは通常弁護士を通じて行われ、時間も費用もかかります。また、知能障害の場合、本人に判断能力があるかないかがはっきりしない場合が多いので、その点について争いになったりすると家族関係がこじれたり、証言が必要になって辛い思いをしたりすることがありえます。これを防ぐためには、元気なうちに委任状を作っておくことが最適です。
注1
厳密には「委任状」というのは一般的に "Power of Attorney" を指し、そのうち "Durable Power of Attorney" というのは委任状を作成後に作成者が意思表示不能に陥った(例えば昏睡状態になったためなど)後も法的効果が持続するものを指します。エステート・プランの一環としての委任状は後者でないと意味がありませんので、このコラムでは"Durable Power of Attorney" を指して「委任状」とよびます。