第8回: 差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
従業員とのコミュニケーションの手段として文書を十分に活用することは、訴訟を未然に防ぐ対策として不可欠です。 (宗教を理由とした差別をご説明した際に、その点について触れてありますので,
コラム第5回をご参照下さい。)今回から2回にわたり、雇用一般における文書化の重要性を、具体的な例を挙げながらご紹介します。
■ 雇用ハンドブック: その意義と内容
たとえ中小企業であっても、雇用全般における規則やポリシーを記載したハンドブックを作成し従業員に配布することをお薦めします。最大の利点は、全従業員に画一的に適用される労働条件を明文化することにより、公平かつ公正な職場であるという認識を広めることです。更に、企業側としては、ハンドブック作成を契機として人事対策を細部まで検討し、ひいてはアメリカ雇用法の理解を深めることにも繋ります。
内容としては、企業の歴史、理念、事業内容、組織制度といった一般的情報や各種就業規則 (賃金、勤務時間、解雇、福利厚生、災害補償、育児介護休業などを含む)に加え、従業員からの苦情があった場合に備えて、その処理を行う機関、あるいは過程などを記載しておくべきです。また雇用機会均等の精神を明記する上で、「当社はEqual
Opportunity Employerである」という文章とともに、「人種、出身国、性別、障害などによる差別を許さない」ということを付け加えておくのも効果的です。
近年になり特に重要性が増してきた事柄として、セクシャルハラスメントやAIDS、インターネットにまつわるプライバシーなどに関する問題がありますが、それらについて職場でどう取り扱うかということも記しておきましょう。また、アメリカならではと言える点ですが、従業員が裁判の陪審員を務めることを余儀なくされた場合(jury
duty)に企業はどう対応するか(例:有給休暇が与えられるか否か)といったことも加える必要があります。
ハンドブックの書き方によっては、訴訟対策になるどころか、逆に企業が自らの首を絞めてしまうような結果になることもありますので、細心の注意が必要です。例えば、解雇の事由として具体的な例を記載している場合、それに当てはまらない原因により解雇処分となった従業員が「解雇は不当である」として訴える可能性がありえます。ですから企業としては、なるべく解雇の事由を限定しない包括的な書き方をする方が賢明です。「ここに記した事由はあくまでも一例に過ぎない」といった一文を添えた方が企業にとって有利となるのは言うまでもありません。また、アメリカの職場では終身雇用制はとらず、特別な制限を設けない限りは雇用関係解消は自由となっています("employment
at will")。ですから、後に責任を問われないように、"This handbook is provided
for guidance only. It in no way implies or guarantees a contract of
employment" といった断り書きを加えておきましょう。
ハンドブックを新採用の従業員に配布する際には、それを「受け取り、読んで理解しました」という内容のacknowledgment form
を署名入りで一定の期間内(受領後10日以内など)に提出させるようにします。
最後に、いったんハンドブックを作成したからといって安心するのではなく、定期的に見直しと変更をすることが必要です。したがって、「変更の可能性もある」ということを明記しておくようにしましょう。
(2005年1月)
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お断り = このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
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