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第7回: 差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合

これまでは、特に日本人の視点からみて厳しいと思われる雇用機会平等法の側面を中心に説明してきました。今回から数回にわたり、差別訴訟を未然に防ぐ具体的人事対策を紹介します。
対策自体は企業の規模の大小に関わらず適用しますが、今回はあえて中小企業へのアドバイスを加えます。

訴訟社会アメリカ

先日、インターネットで某雇用法サイトの掲示板を見ていたところ、次のような内容の投稿がされていました。「私は遅刻や欠席が多いという理由により解雇の憂き目にあいました。これは私がヒスパニック系だということで差別にあたるとして会社を訴えるつもりです。」これに対して、弁護士がこう書いていました。「遅刻や欠席が多い? それなら私だってあなたを解雇にしますよ。たまたまヒスパニックだからといって差別訴訟に勝つなどとは思わないで下さい。」この簡略なやりとりだけから解雇の合法性を判断するのは無理な話ですが、訴訟社会アメリカの一面を反映しているという見方もできます。

在米日本企業を対象にした雇用差別訴訟をめぐる公聴会が90年代に5回にわたって行われました(コラム第1回参照)。この公聴会では、差別への厳しい批判がなされた一方で、「日本企業だけが目立って差別をしているという訳ではない」というアメリカ政府関係者の証言も出ました。公聴会の内容を分析した専門家の間でも、「あえて日本企業のみを対象に差別を追求すること自体、日本叩きにつながるのではないか」といった解釈が一部でなされているのは事実です。しかし、そんな専門家の間でも、「日本企業はとやかく差別訴訟に巻き込まれやすい傾向にある。したがって訴訟を未然に防ぐ努力が不可欠である」という点では意見が一致しています。採用や昇進を拒否されたり、解雇になったりした従業員が "たまたま" 非日本人であるということからクレームにつながりやすいという面もあります。

訴訟という言葉から法廷での争いをイメージとして思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし訴訟社会アメリカにおいても、実際に裁判まで進むケースはパーセンテージとして見ると非常に限られた数にとどまるのが現状です。逆に見れば、言いがかり的なクレームの占める割合が大きいという解釈ができます。しかし、言いがかりであっても企業側としては法的処理に手をわずらわせる破目になりますから、あらかじめ訴訟の可能性を考慮した上での予防法務が欠かせません。まして資源が限られた中小企業だとその必要性は高まります。


中小企業の注意点

訴訟に巻き込まれた在米日本企業の中でも、アメリカのメディアの関心を集めやすいのは言うまでもなく大企業です。例をあげると、住友商事に対する訴訟は最高裁で争われる結果となりましたし、三菱を巻き込んだセクシャルハラスメントの集団訴訟は "史上最大" とまで形容されました。上記の公聴会でやり玉に挙げられたのも世界に名だたる一流企業が大半を占めています。企業のイメージを重視し、法務部を設置して国際人事に取り組むだけの経済的余裕に恵まれた大企業でさえ次々に訴訟の対象にされているという事実は特筆に値するでしょう。

中小企業だと人事に割く費用と時間が限定され、特に小規模の会社だと同じ人物が人事のみならず企画や営業など多様な分野を抱えている場合も多いですから、訴訟対策はおざなりになりがちという事情もあるかと思います。まして、「アメリカは差別に厳しい国である」といった意識は常識のある経営者なら誰もが持ち合わせていますから、わざわざ弁護士や人事コンサルタントを雇って差別対策を練る必要はないと決めつける場合も少なくないでしょう。しかし、これまでのコラムでご紹介したように、アメリカの雇用機会平等法は一筋縄では理解できない面があります。アメリカで事業を行う以上、雇用法の基礎知識は不可欠であり、専門家の指示を仰ぐことをお薦めします。

アメリカの雇用平等法でも最も重要とされるタイトルセブン(連邦法)は従業員が15人以上の雇用者に適用します。しかし、「うちの会社にはそれ以下の従業員しかいないから」といった理由から早急に訴訟対策は必要ないという結論には達しません。アメリカでは(分野にもよりますが)一般に連邦法と州法の2本立てで法律を見ていく必要があります。雇用法ではさらに市や郡の条例 (Seattle Fair Employment Practices Ordinances, The City of Tacoma Law Against Discrimination など)も加わりますから、3本立てで見ていくことになります。ちなみにワシントン州の雇用差別禁止法(Washington's Law Against Discrimination)は8人以上の従業員を抱える雇用者に適用します。市や郡の法律ではたった1人の従業員しかいなくても適用する場合があります。州法やローカル法が連邦法より従業員にとってさらに有利なものになっている場合が一般的なので、注意する必要があります。

(2004年12月)


= お断り =
このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
第17回 セクシャル・ハラスメント
第16回 雇用訴訟ケース・スタディ(2)
第15回 雇用訴訟ケース・スタディ(1)
第14回 差別訴訟を防ぐ人事対策(8):職場でのコミュニケーション
第13回 差別訴訟を防ぐ人事対策(7):採用における注意点
第12回 差別訴訟を防ぐ人事対策(6):採用面接 (2)
第11回 差別訴訟を防ぐ人事対策(5):採用面接 (1)
第10回 差別訴訟を防ぐ人事対策(4):履歴書と求人広告
第9回 差別訴訟を防ぐ人事対策(3): 人事ファイル
第8回 差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
第7回 差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合
第6回 差別的な効果 "Disparate Impact"
第5回 宗教を理由とした差別(2): "Reasonable Accommodation"
第4回 宗教を理由とした差別(1): 概要
第3回 性差別と「顧客の要望」
第2回 言葉の壁がもたらす差別
第1回 雇用平等法とその重要性
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