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第3回: 性差別と「顧客の要望」
日本の女性誌で次のような広告を目にしたことがあります。「通訳ガイドには優しさや気配りが求められるので女性ガイドを希望する人が多く、旅行会社からの需要がひっきりなしにあります。」 では、旅行会社が「女性ガイドを好む」というクライアント側の要望を反映して男性ガイドの採用を拒否した場合、アメリカの法律において性差別のクレームは成り立つでしょうか?
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社会的背景
その質問に答える前に、まずはアメリカ社会での性差別について見てみましょう。アメリカは男女差別に対しての規制が厳しい国だというイメージが日本人の間では強いかもしれません。確かにタイトルセブンは性別による差別を採用・昇進・解雇など雇用の全過程において禁止しています(セクシャルハラスメントと妊娠による差別も性差別のカテゴリに加えられています)。しかし公民権法が誕生した1960年代は黒人差別が深刻な問題として社会を揺るがしたのに比べ、性差別への関心は低いものでした。実際、タイトルセブンの原案に性別による差別は含まれていなかったのです。ところが公民権法に反対した議員が法の施行を阻止する目的であえて性別を条項に加え混乱を招こうと試みたことから、「偶然の産物」として性差別が違法行為になったという皮肉なエピソードがあります。
現代のアメリカ社会においても、差別という言葉を聞くと即座に人種差別を連想する人が多いという状況には大差ありません。一方、性差別の方は、「男女に違いがあるのは当然。その違いを考慮した上で人事対策に踏み切るのは経営者としてやむを得ない」という一見もっともらしい考えがあるため、差別をしながらも「業務上の正当性」があると雇用者側が主張しがちです。
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タイトルセブンのアプローチ
性差別のクレームに対して、企業側は差別の意図を否定し、顧客の要望(customer preference)に応じただけだと業務上の正当性を主張するかもしれません。「柔和で人あたりのよい女性の方が顧客の受けがよい」といった理由から接客業に女性を配属するといった例です。「利益を追求する企業としては顧客の好みを優先せざるを得ない」という議論は一理あるようにも聞こえます。しかしタイトルセブンは顧客の要望を理由として一定の職に女性(または男性)を割り当てることを禁じています。「雇用者が顧客の主観に左右されることによって雇用機会平等の精神をくつがえすことは許されるべきではない」という一貫したポリシーがあるからです。某航空会社は顧客が「女性ならではの特性」を好むという理由からフライト・アテンダントに女性のみを採用していましたが、裁判所はその言い分を退け、違法としました。また別の判決では、「顧客が女性のマッサージ・セラピストを好む」という理由を挙げ、男性のセラピストの採用を拒否したホテルに対して、裁判所はやはりその行為を違法としました。 この判決の流れを見ると、最初に述べた「女性ガイドのみを雇う旅行会社」は違法行為を行っていることになります。
経営者の視点からすれば、これはタイトルセブンの厳しい一面と言えるかもしれません。ただし判決を分析してみると、厳しそうに見えるかも知れないアメリカの雇用平等法においても差別の観念は定規杓子なものでなく、状況によっては臨機応変な対応をとる必要があることを示しています。具体的には、顧客の要望により採用や昇進を決定する行為自体は原則として違法になりますが、このルールは絶対的なものではなく、狭い範囲ながら例外が認められています。
例えば顧客のプライバシーが問題となる場合です。ある判決では、老人ホームで高齢女性の世話をする仕事に応募した男性が男であるゆえに採用を拒否され逆差別を訴えました。法廷で老人ホーム側は、「女性のホーム居住者は男性の手による身体的な世話をプライバシー侵害として嫌がる」と主張しました。法廷はこの言い分を業務上の正当性があると認め、女性のみ採用のポリシーは合法であるという決断を下しました。 また別の判決では、病院が女性の看護師のみを出産担当として配置することは患者のプライバシーを守るという意味があるのでやはり合法であるとされました。
プライバシーという概念自体は曖昧にとらえられがちですが、タイトルセブンにおいて認められるのは身体上のプライバシー(bodily privacy)という極めて狭い範囲であることに留意する必要があります。 つまり、老人ホームの例のように「女性が男性職員の手によって着替えや入浴などをさせられる」といったレベルに達すればプライバシー侵害という議論が成り立つことになります。ただし、裁判で認められるためには文字通りに議論のみではなく、それを裏付けるだけの十分な証拠を提出することが課されます。
プライバシーと並んで差別が正当なものとして認められる例は、"authenticity" や "genuineness"、すなわち劇で女役を演じる俳優に女性を雇うといった場合です。冗談のように聞こえてしまうかもしれませんが、「トップレス・ダンサーやプレイボーイ・クラブのバニーガールに女性を限定して雇うのは正当なものとして認められる」という表現が有名な判決文に出てきます。「そんなのは当たり前」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、言い換えればアメリカの雇用平等法において差別の正当性を認められるのはそれ程までに限られた範囲内でしかないということです。
結論としてはこういうことが言えるでしょう。アメリカでも社会的には性別による固定観念は根強く残っているものの、少なくとも法律に目を向けると、「偏見は容赦しない」という厳しさ、それと同時に「平等を追求するがゆえにプライバシーという基本的人権を奪ってはならない」という柔軟さの二つの面が反映されています。
(2004年8月)
= お断り =
このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
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第17回
セクシャル・ハラスメント
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第16回
雇用訴訟ケース・スタディ(2)
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第15回
雇用訴訟ケース・スタディ(1)
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第14回
差別訴訟を防ぐ人事対策(8):職場でのコミュニケーション
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第13回
差別訴訟を防ぐ人事対策(7):採用における注意点
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第12回
差別訴訟を防ぐ人事対策(6):採用面接 (2)
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第11回
差別訴訟を防ぐ人事対策(5):採用面接 (1)
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第10回
差別訴訟を防ぐ人事対策(4):履歴書と求人広告
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第9回
差別訴訟を防ぐ人事対策(3): 人事ファイル
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第8回
差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
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第7回
差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合
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第6回
差別的な効果 "Disparate Impact"
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第5回
宗教を理由とした差別(2): "Reasonable Accommodation"
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第4回
宗教を理由とした差別(1): 概要
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第3回
性差別と「顧客の要望」
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第2回
言葉の壁がもたらす差別
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第1回
雇用平等法とその重要性
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