第2回:
言葉の壁がもたらす差別
言語能力による雇用差別は在米日本企業と日本人従業員の双方にとって直面しやすい問題です。例えば企業側は、職務に日本語力が必要という理由から手っ取り早く日本人を採用したり、あるいは便宜を図る目的で会議を日本語のみで行ったりすることにより、結果的に非日本人を排除することになるかも知れません。またアメリカ企業への日本人応募者が英語に訛りがあることを理由に採用を拒否されたり、従業員が英語でのコミュニケーション能力不足のために昇進の機会を逃したりといったこともあり得るでしょう。個々の具体的な状況に左右はされますが、これらの行為は違法になる可能性があります。
■ 出身国による差別
前回のコラムで概要を紹介したタイトルセブン(公民権法弟7編:15人以上の従業員を抱える雇用者に適用する雇用機会均等法)では、人種・肌の色・性別・宗教とともに出身国
(national origin)による差別を禁止しています。言語能力による差別は出身国による差別として扱われます。ただし「出身国」というのは本人の出身国(birthplace)だけではなく、先祖の国
(ancestry)をも含みます。更に「出身国」が必ずしも「国籍」とは一致しない点にも要注意です。日本とは状況が大きく異なる移民の国アメリカにおいて、アメリカ国籍自体は取得していても生まれ育ちは外国というケースは非常に多いからです(ちなみに国籍による差別は改正移民法
Immigration Reform and Control Act of 1986 によって禁止されています)。
言語能力による差別以外としては、次のようなことを理由に採用や昇進を拒否したり解雇したりすれば出身国による差別としてタイトルセブンの違法となり得ます。
特定の出身国に属する人と交流したり結婚したりすること
特定の出身国と関連する服装や髪型をすること
特定の出身国と関連する学校や教会、寺院などに通うこと
特定の出身国を連想させる名字を有すること
今や10人に1人は外国生まれと言われるアメリカの職場において、出身国による差別は深刻な問題に発展したと雇用機会均等委員会(EEOC)は述べています。更に2001年9月11日の同時テロ事件とそれ以降の社会的背景もこの傾向に拍車をかけたと言えるでしょう。在米日本企業をめぐる雇用差別訴訟においても多くの非日本人の原告が出身国による差別を訴えています。
■ 雇用平等委員会のガイドライン
出身国による差別を説明するガイドラインにおいて、言語能力による差別は2種類に大別されています。ひとつは "English-only
rule" と呼ばれ、従業員が職場で英語のみを話すことを義務とするものです(1996年以来の調査によると、そういったルールを導入する企業が著しく増加しています)。もうひとつは英語の訛りによる差別です(委員会のガイドラインでは英語を例として用いていますが、同様の差別概念は日本語にも通用します)。
"English-only rule" は、職務の遂行そのものが英語を必要とする場合(例: 英語しか理解しないクライアントと話す場合)には正当な職業要件として限られた範囲内で認められますが、そうではない場合は出身国による差別とみなされるでしょう。最近では勤務時間以外に休憩時間や昼休み中の同僚との会話においても英語の使用を強要する企業が増加してきましたが、そういった包括的なルールは違法とされる可能性が強くなります。また業務上の必要性がある場合でも,
「英語のみを話すルールは具体的にどのような場合において適用されるのか」「ルールを守らなかった場合、企業は従業員に対してどのような対応をとるのか」という内容を事前に従業員に明確に知らせておくことが不可欠です。
訛り(あるいは話し方)による差別においても業務関連があるかどうかが問題になります。例えば企業が「英語を流暢に話せること」を採用の条件にすることによって特定の出身国の応募者を排除し、職務上の正当性が認められない場合には違法とされる可能性があります。逆の見方をするなら、応募者の英語の訛りが職務を果たす上で支障をきたすという証明ができれば、企業は差別のクレームを食い止めることが可能になるわけです。「訛りがあまりにも強過ぎるために同僚やクライアントが理解に苦しんで混乱を招き、事業に悪影響をもたらす」といったレベルなら裁判官も正当性を認めるでしょう。しかし「訛りがあるために時には聞き返さねばならないこともある」といった程度にとどまり、仕事そのものには支障を来たさないのであれば、不当とされる可能性があります。また訛りが強くても仕事に英語でのコミュニケーションが必要とされない場合も同様です。
言語能力による雇用差別訴訟においては、南米出身の移民の増加を反映し、スペイン語をめぐるケースが数多くなっていますが、日本企業に対する訴訟においてもみられます。アメリカの雇用平等法の根底を流れるのは、従業員を個人の業務能力によって判断することである、と前回のコラムに書きましたが、言語を操る能力は裏をかえせば差別の口実(pretext)として用いられている場合が少なくありません。特に日本語の場合は、高度のレベルを理解し読み書きにも不自由しないという人は非日本人には数が限られているという事情もあり、「流暢な日本語を話す人」を雇うことによって非日本人の排除をする結果になる可能性があります。差別のクレームを防ぐ上で大切なのは、実際に職務がどれだけの言語能力を必要としているか(例:日常会話だけで十分か、基礎的な読み書きが必要か、会議で討論したり難解な資料を理解したりできるネイティブ並みの高度な力が必要か)を明白にし、その必要性に応じて人事上の決断をするということです。雇用機会均等委員会は出身国による差別をより厳しく取り締まっていく姿勢を見せており、実際に委員会の介入により企業側が極めて多額の賠償金を支払わされているケースもありますから、注意が必要です。
なお、言語能力による差別については数多くの判決を分析し、"Language Minorities: Forgotten Victims
of Discrimination" というタイトルで法律専門誌に詳しい記事を発表しましたので、ご希望の方にはコピーを無料で送付させていただきます。お気軽にお問い合わせください。
(2004年7月)
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お断り = このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
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