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第17回: セクシャル・ハラスメント


215億円を求める訴訟

「会社にとって大きな恥部である」とまで形容された在米日本企業に対するセクシャル・ハラスメント訴訟が、この夏に和解という形で幕を下ろしました。北米トヨタ自動車の秘書だった日本人女性が、「大高英昭前社長から、食事や出張に同行して性関係を持つことを繰り返し強要された」「会社側は適切な措置を怠った」と訴え、総額1億9,000万ドル(約215億円)の損害賠償(懲罰的損害賠償を含む)を求め、今年5月にニューヨーク州地裁に提訴したケースです。和解の金額や条件は非公開ですが、「双方とも納得がいく公正な結果となった」とトヨタは発表しています。訴訟開始直後、大高前社長は日本への帰国ならびにトヨタ関連会社であるダイハツ工業での監査役への配置転換を命ぜられましたが、結局は辞任という形になりました。「この処分はトヨタが訴訟の内容を深刻に受け止めざるを得なかった事実を反映している」とアメリカのメディアは報じています。

在米日本企業をめぐるセクシャル・ハラスメント訴訟に関しては、1996年に約38億円で和解し、史上最大とまで言われた米国三菱自動車に対する集団訴訟を中心に以前のコラムでもご説明してきました。米議会公聴会においても、「日本人駐在員から水着の写真を見せて欲しいと依頼された」「日本人男性のグループがオフィスの一室でアダルト・ビデオの鑑賞会をした」などといったクレームが女性社員から相次いで出されました。今やセクシャル・ハラスメントは深刻な社会問題の域にまで達し、懲罰的賠償を含め膨大な賠償金を請求される可能性もありますから、企業側は真摯に対応し、クレーム予防対策を念入りに行う責任があります。


概要と対策

セクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)は性差別にあたるとして連邦法タイトル・セブン(詳細はコラム第1回参照)で禁じられています。EEOC(雇用機会均等委員会)の定義を要約すると、セクシャル・ハラスメントとは「被害者が望まない性的誘惑、口頭表現あるいは身体的接触が雇用関係や業務遂行に悪影響をもたらしたり、威圧的で不快な職場環境を生じること」となります。具体的には次のような行為が一例として挙げられます:「性的行為を強要する」、「職場にヌード・カレンダーを貼ったり、ポルノ雑誌を広げたりする」、「性的な冗談を言う」、「性的な発言や冗談を扱った E メールを同僚に送る」など。すなわち、対象となる行為は肉体的接触にとどまらず、多岐にわたります。原則として、一定の行為がセクシャル・ハラスメントに該当するか否かを決断する上では、個々の具体的状況(the totality of the circumstances)から総合的に判断されます。

特に留意する点を列記します。
  1. 直接の被害者のみならず、問題とされる行為によって間接的影響を受けた人が苦情を申し立てることもできる。
  2. 被害者は経済的な損失や解雇を経験していなくても提起可能である。
  3. 雇用者である企業側も場合によっては法的責任を負う。
  4. 女性のみではなく、男性も被害者になり得る。(ちなみに、EEOCが2005年に受理した12,679件に及ぶセクシャル・ハラスメントのクレームのうち、14.3%は男性の被害者によるものだった)
  5. 「仕事と私生活の境界が必ずしも明確でない」、「女性社員が職場の花として扱われやすい」といった日本企業文化の側面が不快な職場環境(hostile environment)の温床となり得ることを念頭に置く。例えば、「いつ結婚(出産)するの?」「恋人はいるの?」といった質問や「女のくせに」といった発言は避けるべきである。
  6. 異文化間の摩擦やコミュニケーション不足が問題に繋がる可能性がある。一例として、「欧米では、男性マネージャーが女性秘書の頬に挨拶程度の軽いキスをすることは許される」という誤解が原因で、部下にハラスメントを訴えられた日本人男性もいる。映画などを通して「アメリカ人は性的にオープンだ」という固定観念を持つ日本人も少なくないが、アメリカは多様な価値観を抱える社会であり、宗教的背景などによっては非常に保守的な考えやライフスタイルを保持する人も多い事実を知る必要がある。


人事担当者はセクシャル・ハラスメントに対するポリシーを明確に書式化し、社員教育そして実践に務めることが必須です。書式化にあたっては、次の内容を織り込む必要があります。
  • セクシャル・ハラスメントの定義ならびに具体的行為の例
  • ハラスメントのクレーム処理全過程の詳細内容 (なるべく細かく規定すること)
  • 苦情を申し立てた社員が、その訴えによって経済的損失や解雇などの報復行為を受けないという約束
  • プライバシー保護の約束
  • クレームへの対応として、第三者による中立的な調査が迅速に行われるという約束
  • 処罰または是正措置の具体的内容(処罰に関しては、状況に応じて段階的なアプローチを取ることをお勧めします。例えば、「口頭での警告、カウンセリング、停職処分、解雇」といった段階です)

第8回のコラムで雇用ハンドブック作成についてご説明しましたので、そちらの方も参考にして下さい。
書式化されたものは一人一人の従業員に配布し、さらには受理したという署名を取る必要があります。


(2006年9月)


= お断り =
このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。 また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
第17回 セクシャル・ハラスメント
第16回 雇用訴訟ケース・スタディ(2)
第15回 雇用訴訟ケース・スタディ(1)
第14回 差別訴訟を防ぐ人事対策(8):職場でのコミュニケーション
第13回 差別訴訟を防ぐ人事対策(7):採用における注意点
第12回 差別訴訟を防ぐ人事対策(6):採用面接 (2)
第11回 差別訴訟を防ぐ人事対策(5):採用面接 (1)
第10回 差別訴訟を防ぐ人事対策(4):履歴書と求人広告
第9回 差別訴訟を防ぐ人事対策(3): 人事ファイル
第8回 差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
第7回 差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合
第6回 差別的な効果 "Disparate Impact"
第5回 宗教を理由とした差別(2): "Reasonable Accommodation"
第4回 宗教を理由とした差別(1): 概要
第3回 性差別と「顧客の要望」
第2回 言葉の壁がもたらす差別
第1回 雇用平等法とその重要性
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