第16回: 雇用訴訟ケース・スタディ(2)
今回は、数多くの判決ならびに連邦議会による公聴会(詳細は前回のコラムをご覧下さい)で話題にのぼったケースを題材として私が国際法専門誌に掲載した
"In the World, But Not of it: Japanese Companies Exploiting the U.S. Civil Rights
Law" という記事からの抜粋を元に、在米日本企業が直面した差別訴訟問題を分析します。
(1)募集・採用における人種差別
在米日本企業の場合、これらの分野における差別問題が特に深刻であるという指摘がなされました。特に、「黒人は怠慢である」「ドイツ系アメリカ人は勤勉である」といった固定観念にとらわれた結果、一定の人種や出身国を除外または優先して募集・採用を行うケースが多く見られます。例えば、ホンダがオハイオ州に工場を設立した際に黒人在住者の多い地域を避けたとして訴えられ、EEOC
(雇用機会均等委員会)との長期間に及ぶ話し合いが行われました。さらに公聴会では、アメリカ進出を狙う日本企業の多くが黒人の密集する地域を意識的に避けているという専門家の発言が出ました。私自身が入手した日本企業向けのビジネス書にも、一定の人種を避ける、あるいは逆に優先することをアドバイスとしてほのめかすヵ所が見られます。
(2)ローテーション・スタッフに対する優遇措置
在米日本企業が日本人派遣社員("ローテーション・スタッフ")を優先して管理職に配置する結果、日本の企業文化が職場に持ち込まれ、アメリカでビジネスを行いながらもアメリカの法律を無視した形になるという傾向が公聴会で批判されました。また、ローテーション・スタッフと現地採用社員との間に待遇の面で大きな隔たりがあるという声も上がりました。例えば、日本人派遣社員には諸手当を支給する一方で、日本語のコースを履修するアメリカ人社員には授業料の負担あるいは援助を拒否し、「日本語能力の欠如」を理由に差別するといった矛盾を追求する発言が出ました。某大企業では、そのような差別を訴えたアメリカ人社員に対して日本人マネージャーが、「日本人は終身雇用だが、アメリカ人はどうせ辞めるのだから待遇に差をつけるのは当然だ」と説明をしたという指摘もなされました。
(3)性差別
日本国内で伝統的に見られるように、在米日本企業においても女性従業員が秘書あるいはアシスタントといった、男性の補助的職務しか与えられない傾向が明らかにされました。また、「女性のみファースト・ネームで呼ばれる」「女性のみ職種に関係なく昼食時に交代で受付の仕事をさせられる」といった批判も出ました。米国住友商事をめぐる有名な集団訴訟では、原告の現・元女性従業員が、「日本人男性を優先して管理職に配置することは、性ならびに出身国を理由とする差別にあたる」と訴え、上訴が繰り返された挙句に連邦最高裁で争われる結果となりました。訴訟社会アメリカにおいても、連邦最高裁のレベルに達する訴訟というのは非常に稀な部類に入ります(この訴訟では、日米友好通商航海条約の「上級管理職選択の自由」という条項が日本企業の在米子会社に適用するかという問題も取り上げられましたが、このコラムでは詳細を省略します)。さらには、「ヌード・カレンダーがオフィスに貼られている」「上司に水着の写真を要求された」といったセクシャル・ハラスメントに関する証言も出ました。
(2006年3月) = お断り = このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。
また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。 |