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第15回: 雇用訴訟ケース・スタディ(1)


企業が人事対策を練る上で、雇用法を机上の理論として理解するだけでは不十分です。今回から2回にわたり、アメリカのメディアでも大きく取り上げられたケースや数百億円に及ぶ賠償請求を求めたケースなども含めて在米日本企業をめぐる訴訟を中心にご紹介します。

概要

1980年代を皮切りに在米日本企業を巻き込む雇用訴訟が増加し始め、中でも住友商事を訴えたケースは上訴を繰り返した挙句に連邦最高裁にまで進む結果となりました(ちなみに、連邦最高裁のレベルまで達する訴訟は数としては非常に稀な部類に入ります)。 また、数百人もの女性従業員を巻き込み、「史上最大の訴訟」とまでアメリカのメディアに形容された米国三菱自動車製造に対するセクシャル・ハラスメント訴訟を記憶する方もいらっしゃるでしょう。 

実際に雇用差別をしたとして訴えられた在米日本企業の例を挙げると次のようになります。資生堂、住友商事、伊藤忠商事、ソニー、東芝、NEC、松下電器、電通、博報堂、日本航空、日興證券、日産自動車、三菱自動車、ホンダなど(これはほんの一部の例に過ぎません)。世界に名だたる一流企業、つまり雇用法弁護士を雇い、国際人事課を設置する経済的余裕のある会社でさえ、訴訟の槍玉に挙げられているという事実は特筆に価します。

1990年代に入ると、日本企業による雇用差別が法的問題から社会問題に発展したとして、ラントス議員率いるアメリカ議会下院の小委員会("Employment and Housing Subcommittee")が "Employment Discrimination by Japanese-Owned Companies in the United States" という題目の公聴会を行い、訴訟を起こした元従業員・企業幹部・弁護士・政府関係者、その他の専門家の証言を元に問題を分析する結果となりました。一般には "Lantos Hearings" として知られるこの公聴会では、一定の人種を除外する人材選考過程や、黒人コミュニティを避けた工場の設置、そして社内でのアダルト・ビデオ鑑賞に至るまで、日本企業による多様な差別行為が取り上げられました。また、女性従業員のみによるお茶汲みや不明確な "job description"(職務の範囲)など、日本の伝統的な企業文化を「アメリカに持ち込むな」という意見が出されました。「我々アメリカ人は自国にいながら下等の人間として扱われている」「日米関係の醜い章が開かれた」といった怒りをぶつける声もあがり、問題の深刻性を反映しました。

その一方で、雇用機会均等委員会(EEOC)ケンプ委員長は、「統計的に分析すれば、日本企業による雇用差別は氷山の一角に過ぎない」「日本企業がアメリカ企業と比較して、差別しやすい傾向にあるとは言い切れない」と発言しました。 更に、「わざわざ日本企業に絞って公聴会を開くこと自体が差別行為にあたるのではないか」という「日本叩き」を批判する声もあがりました。しかし、いずれの見方をするにせよ、在米日本企業が訴えられやすいという点では専門家の意見は一致しています。


リクルートUSAによる差別

公聴会で厳しく追及されたケースのひとつとして、カリフォルニアで企業を対象に就職斡旋を行うリクルート USA をめぐる差別問題をご紹介します。リクルート USA は、顧客の要望に応じて一定の人種・出身国・性、あるいは年齢の候補者を選択する目的で暗号を使用していました。例えば、"Talk to Adam"(男性に限る)、"Talk to Eve"(女性に限る)、"Talk to Haruo"(日本人男性に限る)、"Talk to Haruko"(日本人女性に限る)、"Maria"(ヒスパニックの女性)、"Maryanne"(黒人女性)、"Suite 20 through 35"(20歳から35歳)といった具合です。更に、「外国人は不可」「白人と黒人は不可、しかし日系人であれば可」などと記したメモを使用していたことや、男性と女性の候補者を4対1の割合に決めていたことなども判明しました。雇用機会均等委員会との交渉において、リクルート側が、差別の対象となった人達への賠償金支払いに加え、アメリカ雇用機会均等法に関するセミナーを通して、日本駐在員に啓蒙を促す義務が課される結果となりました。


(2005年11月)


= お断り =
このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。 また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
第17回 セクシャル・ハラスメント
第16回 雇用訴訟ケース・スタディ(2)
第15回 雇用訴訟ケース・スタディ(1)
第14回 差別訴訟を防ぐ人事対策(8):職場でのコミュニケーション
第13回 差別訴訟を防ぐ人事対策(7):採用における注意点
第12回 差別訴訟を防ぐ人事対策(6):採用面接 (2)
第11回 差別訴訟を防ぐ人事対策(5):採用面接 (1)
第10回 差別訴訟を防ぐ人事対策(4):履歴書と求人広告
第9回 差別訴訟を防ぐ人事対策(3): 人事ファイル
第8回 差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
第7回 差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合
第6回 差別的な効果 "Disparate Impact"
第5回 宗教を理由とした差別(2): "Reasonable Accommodation"
第4回 宗教を理由とした差別(1): 概要
第3回 性差別と「顧客の要望」
第2回 言葉の壁がもたらす差別
第1回 雇用平等法とその重要性
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