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第1回:雇用平等法とその重要性

平等を理想として掲げると同時に「多様性」を積極的に職場に取り入れようと努力を重ねる多民族国家アメリカにおいて、雇用機会均等は非常に重要な意味をもちます。この国で仕事に関わる以上、雇用者にとっても勤労者にとっても雇用平等法の基礎知識を把握することは不可欠です。


在米日本企業による雇用問題

1980年代を皮切りに在米日本企業の雇用差別問題は法廷で頻繁に争われるようになり、中には連邦最高裁にまで達したケースも存在します。1990年代に入ると、ついに連邦議会が問題を取り上げるまでに深刻なものへとエスカレートしました。1991年、1992年に5回にわたってラントス委員長率いる議会下院小委員会が特別な公聴会を開催し、差別を訴える従業員をはじめ、企業幹部、雇用機会均等委員会(EEOC)の関係者、弁護士等からの証言を元に、在米日本企業による雇用差別をあらゆる角度から分析しました。採用の際に暗号を使用して一定の人種や性別の応募者を排除したり、黒人の少ない地域をあえて選択して事業の地にしたり、またセクシャル・ハラスメントまがいの行動をとったりといった日本企業によるさまざまな差別的行為が問題点として指摘され、強く非難されました。対象となったのは世界に名だたる一流の会社や銀行が大半を占め、それだけの国際的大企業でありながら日本の企業文化をアメリカに持ち込み、雇用機会均等のルールを無視しているという批判がなされました。さらに1996年に起きた米国三菱自動車製造に対するセクシャル・ハラスメントの訴訟は数百人もの女性従業員を巻き込み、「史上最大の訴訟」とまで言われ、マスコミに大きく取り上げられました。

訴訟社会アメリカで経営に関わる企業としては、法律の正しい理解のもとに人事対策を練り、文書化と啓発、そして実施に努めることがトラブルを未然に防ぐ上で欠かせません。訴訟となると、たとえ結果的に和解となるかあるいは企業側が勝利を収めたとしても、裁判に費やす時間と費用がかかり、企業のイメージに傷がつくことになります。特に多数の原告を含む集団訴訟では、賠償金が膨大なものに達する可能性があります。


雇用平等法の概要

アメリカでは連邦法と州法の二重構造に加え、さらに市や郡の条例などで雇用差別が禁止されています。今回は差別禁止の連邦法として最も重要な意味をもつ1964年公民権法第7編の概要を紹介します。日本企業を相手どった訴訟の多くで、従業員はこの法律に対する違反を訴えています(ちなみに連邦憲法修正第14条においても差別を禁じていますが、基本的には憲法は公的機関のみにしか適用しないため、ここでは省略します)。

公民権法第7編(Title VII of the Civil Rights Act of 1964)は俗にタイトルセブンと呼ばれており、人種・肌の色・宗教・性別、または出身国を理由とする採用・昇進・解雇などにおける差別を禁じています。法律の運用をする政府機関として雇用機会均等委員会が設置されています。タイトルセブンの施行を語る時、ケネディ大統領の黒人支持、南部で幕を切り、遂には全米を揺るがした公民権運動、死傷者が続出した反抗デモ、1963年8月のワシントンDCでの250,000人もの参加者による大行進、キング牧師による有名なスピーチ、といった歴史的背景を抜きに語ることはできません。この背景が反映するように、元来は黒人への根強い差別を念頭に誕生した法律ですが、実際には人種や肌の色のみにとどまらず、広範囲での差別を禁止し包括的なものとなっています。

タイトルセブンにおいては意図的な差別のみが違反ではない点に要注意です。例えば企業が日本語能力を採用の条件とした場合、たとえ人事側が差別的意図を否定し「職務上、語学力が必要」と主張したとしても、その証拠が不充分であり、結果的に非日本人の応募者を排除することになれば違法とされる可能性もあることを留意しておくことが必要です。

また信仰に重きをおかない日本人には直ちに把握し難いのが宗教による差別かも知れません。特定の宗教に属する者を採用しないといった行為が違法になるのはいうまでもありませんが、さらにタイトルセブンの厳しい点として、雇用者は従業員の宗教上の慣行を尊重し、事業に困難が生じない範囲内で便宜をはかることを義務としています。具体的な例を挙げると、一定の時間に祈りを捧げるイスラム教徒に対して、業務に過大な障害をきたさない限り職場での祈りを禁じることはできません。

公民権法以外の重要な連邦法としては、平等賃金法・障害者差別禁止法・年齢差別禁止法などが挙げられます(概要の説明は後のコラムにゆずります)。

どの雇用平等法をとっても根底を流れる基本理念は極めて明快です。募集・採用に始まって解雇に至るまでのプロセスにおいて応募者または従業員の能力を元に判断を行うということです。 よく「差別をするのは日本企業だけではない。アメリカだって建前はともかく、根強い差別が残っているではないか」という意見を耳にします。前記の公聴会についても「不当な日本叩き」と呼ぶ日本人もいます。確かに建前と本音のギャップが残るのは否定し難い事実ですが、少なくともそのギャップをなくそうという理想を掲げ、社会全体がそれに向かって着実な努力を強いられているのもまた多民族国家アメリカの側面といえるでしょう。

次回からは雇用平等法について、さらに掘り下げてお話しします。

(2004年6月)



= お断り =
このコラムはあくまでも一般的な情報を読者に提供するのが目的です。法的トラブルが起こった場合は個々のおかれた具体的な状況によって法律の適用が異なることもあり得ますので、個人的に弁護士に相談されることをお勧めいたします。また、当コラムでは連邦法を中心に説明していますが、雇用関係には州法、更にはローカル法(市や郡の条例など)が関連してくる場合もあります。
第17回 セクシャル・ハラスメント
第16回 雇用訴訟ケース・スタディ(2)
第15回 雇用訴訟ケース・スタディ(1)
第14回 差別訴訟を防ぐ人事対策(8):職場でのコミュニケーション
第13回 差別訴訟を防ぐ人事対策(7):採用における注意点
第12回 差別訴訟を防ぐ人事対策(6):採用面接 (2)
第11回 差別訴訟を防ぐ人事対策(5):採用面接 (1)
第10回 差別訴訟を防ぐ人事対策(4):履歴書と求人広告
第9回 差別訴訟を防ぐ人事対策(3): 人事ファイル
第8回 差別訴訟を防ぐ人事対策(2): 雇用ハンドブック
第7回 差別訴訟を防ぐ人事対策(1): 中小企業の場合
第6回 差別的な効果 "Disparate Impact"
第5回 宗教を理由とした差別(2): "Reasonable Accommodation"
第4回 宗教を理由とした差別(1): 概要
第3回 性差別と「顧客の要望」
第2回 言葉の壁がもたらす差別
第1回 雇用平等法とその重要性
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