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第32回 : 米国ビジネス法についての指針

以下は、日本のビジネス関係者に向けて行った講演の内容です。このコラムの読者の皆さんにも参考になると思われますので、ここにその概略をご紹介します。

  1. 米国には「ビジネス法」という統一法典は存在しません。

    ほとんどの法律が国会で制定される日本とは異なり、米国内の法令のほとんどは50州の議会によってそれぞれ制定されます。従いまして、同じ事項についても州によって制定内容が異なることがあります。

    連邦議会は国家的見地から重要な事項については法律を制定しますが、それ以外はそれぞれの州に任せています。例えば、法人(株式会社や有限会社など)の成立や維持については州法が規定しますが、米国と日本での法人所得の国際課税については連邦政府と日本との間で取り決められた日米所得税協約が規定するという具合です。

    時には1つの州が全米基準を設定する結果となることもあります。一例として、カリフォルニア州は自動車の排気ガス規制について連邦政府や他の州より厳しい基準を設けています。カリフォルニア州は自動車メーカーにとって重要なマーケットですから、メーカー各社はカリフォルニア州の基準に合致するような厳しい基準を取り入れることになります。

    ビジネスに影響を及ぼす法律を各州がそれぞれ制定して良いわけですから、ビジネスを特に厚遇する州もあります。デラウエア州の会社関連法はその安定性とビジネスを優遇していることで知られ、その結果、デラウエア州では多くの会社が起業しました。これに対し、ワシントン州やカリフォルニア州のビジネスに対する課税はかなり多額で、ビジネスを優遇しているとは言えない面があります。しかし、ビジネスはそれだけの理由でなく他の諸事情(立地・生活の質・大学との距離など)をも勘案してこれらの州を選んでいます。とにかく重要なのは、統一「米国ビジネス法」というものは存在しないということを理解することです。


  2. 米国は慣習法(コモン・ロー)の国です。

    日本は大陸法(シビル・ロー)の国です。これは、訴訟では事例に法を適用して判決がなされることを意味します。これに対し米国では、事例に法令を適用するだけでなく、同様の事例につき先になされた法律判断にも従わなければありません。つまり、法は日々変化しつつあるとも言えるのです。


  3. このことは米国の法律を複雑なものにしています。

    以上が、一般的に米国の弁護士がそれぞれ狭い分野で専門化している理由と言えます。ですから、もし法律問題で助言を必要とする場合は、その分野を専門とする人を見つけることが大切です。日本から見ると米国の個々の弁護士の取り扱い分野はあまりに細分化されて狭すぎるように思えるかもしれません。しかし、これは各分野の深さから生じることで、米国で何でも屋の弁護士であるのは難しいでしょう。

    弁護士の専門分野はまず、民事と刑事に分けられます。民事、および刑事のどちらも十分に取り扱うという人にはまずお目にかからないはずです。

    民事の分野では法廷弁護士と取引弁護士に分けられます。法廷弁護士は、訴訟が開始されている場合(建築法、債務取立法というように、これもまた専門化されています)に関係します。取引弁護士は訴訟とならない形で法律を取り扱い、会社・不動産・税・一般ビジネス・資産計画・遺言書検認・知的所有権・雇用などに専門化されています。このため会社は、個々の弁護士との取引より法律事務所と取引することになるのです。


  4. 結果として、米国での契約書は非常に長いものとなります。

    日本を拠点とする依頼人は通常、米国の契約が長文であることに驚きます。米国は、違う州であれば違う法律を持つ、巨大かつ異質な国なのです。そのため、契約当事者間には共通の認識というものは少ししか存在しないことがあり、すべてが契約書の中に記述される必要があるのです。

    契約当事者はそれぞれの不測の事態を想定して契約書の中に明記しておくことが必要です。もし何か重要なことが契約の中に含まれていない場合は過失と考えられます。契約書を差し出されてもその内容が先の口頭の合意内容と異なる場合は、内容を直した後でなければ署名しないように気をつけましょう。

(2008年6月)

= お断り =
このコラムは一般的な情報提供のみを目的としたものであり、法的勧告もしくはそれに代わるものと見なされるべきではありません。このコラムは、執筆担当者と読者の間に、弁護士とクライアントという関係を意図するものでも、そのような関係を築くものでもありません。ここに含まれている内容は概括的なものであり、読者個人の法的なまたは事実に基づく状況には適合しない可能性があります。このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。
第35回 「不動産業専従者」と類別するための条件
第34回 日本企業の米国内商標登録について
第33回 ワシントン州の 『Distressed Homeowner Act』
第32回 米国ビジネス法についての指針
第31回 小規模ビジネス売却にあたっての税法上の考慮
第30回 『1031Tax Exchange』 を利用する場合における注意事項
第29回 有限会社メンバーシップによる債務保証の完全化
第28回 資産売却に際する債務不継承についての例外
第27回 州法5373 ワシントン州失業保険プログラムの対象拡大
第26回 2007年の特許法改定について
第25回 ワシントン州消費者保護法(Consumer Protection Act:CPA)後編
第24回 ワシントン州消費者保護法(Consumer Protection Act:CPA)前編
第23回 責任制限条項(Exculpatory Clauses)
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第21回 なぜ有限責任会社(Limited Liability Company)は人気があるのか?
第20回 バラード・スクエア判決とシングル・プロジェクト法人
第19回 リース契約と賃料支払能力
第18回 個人保証の重要性
第17回 商標の上手な選び方
第16回 米国著作権
第15回 地役権(ちえきけん)
第14回 ワシントン州の不動産消費税(REET)
第13回 取締役及び役員の賠償責任保険(D&O Insurance)について
第12回 不動産を担保とする貸金契約
第11回 株式プラン
第10回 単独所有と有限責任主体 (法人) (2)
第9回 担保権の重要性
第8回 Buy-Sell Agreements ("売り渡し・買い取り規定")
第7回 既存ビジネスの買収
第6回 "S コーポレーション"とは
第5回 単独所有権と有限責任法人 (1)
第4回 国際商標登録
第3回 商標
第2回 コマーシャル・リース
第1回 ビジネス・ライセンスの取得
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