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最終回:石垣ワークショップ 後日談

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第2次世界大戦前の1907年に四国から移民し、クボタ・ガーデニング・カンパニーを起業した造園家・窪田藤太郎氏がシアトルに開いた日本庭園 『窪田ガーデン』。開園当時の5エーカー(6,120坪)から20エーカー(約2万4,500坪)に拡張され、1987年からシアトル市が所有し管理しているこの歴史的建造物に本格的な石垣が完成したのは2015年。そのプロジェクトを発案し、完成まで携わった彫刻家・児嶋健太郎さんの実録エッセイ。

ワークショップのドキュメンタリーを作ってくれたフィルムメーカーのゲリーが語りながら描いた場面はこうだった。

舞台は早朝、窪田ガーデン。

彼はワークショップのドキュメンタリーのために日の出を撮りたくて、一人で公園を歩いていた。

すると、草むらから3人、そう、15~16才の少年達が飛び出してきた。

ゲリーは一目で少年達が「普通」な状態じゃないのがわかった。

ドラッグだな。

リーダー格の少年がナイフを取り出して、「おっさん、そのバッグに入っているもの出しな。それに、財布、後はスマホ出しな」

ここまで話を聞いた僕はびっくりした。

そんなことがあの石垣ワークショップの外周というか裏で、起こっていたなんて。

しかし、ゲリーの話を聞いていると、さらに驚いた。

確か、彼は話を始めるときに「このバッグ」と言って、肩にかけているバッグのことを指していた。そして、そのバッグには彼が今手にしているビデオカメラが入っていたのである。

ゲリーは話を続けた。

「おれも、まあ、3対1だからとりあえず、”俺の仲間達とここで会うはずなんだ。あいつら、もうそこの辺にいるんじゃないか。” って言ってやったんだ。そしたら、ガキの一人が、”おう、こいつうそついてるぜ。仲間なんかこねーよ。早く財布とスマホ出せ” と来たもんだ。警察が来たときには、あのガキンチョ達、俺があいつらからスマホを盗もうとしてるとか警察官に言ってたけど、まあ、やつらポケットにクラック入っていたからな。警察は彼らを逮捕したっていうわけさ」

「ちょっとまってよ、ゲリー。なんかすごく大切な部分、飛ばしてない?ナイフ突きつけられて、3対1からどうなったの?」

「ああ、俺、銃持ってたんだ」

とケロリ。

「だから、ゆっくりバッグを地面に置いてから、ベルトにはさんであった銃を取り出して、”欲しいのはこれかい?” って、言ってやったんだ」

「ああ、ああ、そうだったんだ」

また、びっくりした。

ゲリーは、少年の一人に(少年の)スマホを出させると、警察に電話させた。少年は、震えながら警察に電話して、いかにも自分達が犠牲者であるかのように、慌てて説明した。

「友達と公園歩いていたら、クレイジーなおっさんに銃突きつけられて、スマホ盗もうとしてるんだ、こいつ、早く来て」

警察が来るまで5分か、長くても10分くらいだったそうだ。

リーダー格の少年は警察の顔見知りで、警察はさっさと彼ら三人に手錠をかけて逮捕した。

警察はゲリーに、「告発するか?」と聞いてきた。しかし、ゲリーは昔、高校の先生をしていたこともあって、これくらいの年の子供は「あほなことをする生物(ゲリーの言葉)」だと知っていたので、「いいや、その代わり、こういう子達用のプログラムを知っているので、この子らの学校に話をつけて、そこに行かせる」と言った。

それと、もう一つ条件を出した。

リーダー格の少年を二日間、もう一人を一日ゲリーに預けてくれないか、と。

警察は、もちろん、といって、ゲリーにその子達を預けた。

後になって、この少年達は、窪田ガーデンで早朝ゲリーに出くわす前に、コンビニ強盗をしていたことがわかった。その後に窪田ガーデンに来て、隠してあったクラックを吸っていたらしい。

ゲリーは預かった子を僕らがやっていたワークショップに連れてくると、プロ用のすごいカメラを渡して、「これで一日撮影してこい」、と言って彼を自由にしたそうだ。(カメラ、死んでも返せよ、としっかり釘を刺して)

リーダー格の子(ゲリーに言わせると一番問題の子)は、最初は、すごくいやそうだったが、そのうち、人が鑿と鎚のみで、あんな固い、大きい岩を割ったり形付けたりしていることにものすごく感動したそうだ。そして、ワークショップの最年少の参加者のセスと話が合って、二日とも昼食と休憩は彼と座って食べた。

もう一人の少年も、人があんな石を叩いて割ったり削ったりするのを見たことどころか考えたこともなく、感動したらしかった。

ゲリーは「ああいう子らは、なんか直接的な、こう、はっきりしていて結果が目に見えることに反応するんだ。ああいう単純明快で、原始的なくらい直接的なことには、普通の子より反応する。なんか抽象的なこととか言ってもピンとこないタイプの子らなんだ」と言っていた。

「まあ、それが功をなしたのかどうかわからんがね、彼らはあれから夏の特別プログラムに行って、夏が終わったらちゃんと学校に戻って、俺の知っているところ、しっかりやってるらしいぜ」

ゲリーはなにかのついでに、「ああ、そういえば」と話してくれたのだが、ゲリーの腹の据わり方にも圧倒されたが、ナイフを突きつけられたすぐ後に、「俺に一日付き合え」と言えるところなど、なんてラッキーな少年達なのだろう。

今回のワークショップでは、いろいろな意味でいろいろな人たちの人生に触れたのではないか。

僕の知らないところでも、もっとこういう逸話があるかもしれない。

このワークショップ、やって良かった。

筆者プロフィール:児嶋 健太郎
彫刻家。グアテマラで生まれ育ち、米国で大学を卒業した後、ニューヨークの彫刻関連のサプライ会社に就職。2005年、シアトルのマレナコス社に転職し、石を扱うさまざまな仕事を手がけている。2006年のインタビューはこちら

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