上田北斗さん(Drivemode 共同設立者、元テスラ・モーターズ社マネジャー)「普通の人の生活が良くなるモノを作りたい」

上田北斗さん

職場として 2LDK の部屋を借りているのですが、外の空気が気持ちよくて
主にガレージで働いています。自動車業界の偉い人が訪ねて来ると、
おもしろがってガレージをミーティング場所に指定されることも多いです。

うえだ・ほくと/1984年ロサンゼルス生まれ、5歳からワシントン州カークランドで育つ。ワシントン大学(機械工学専攻)卒業、ハーバード大学 MBA(経営学修士)取得。2011年テスラモーターズ入社後、セダン型の電気自動車「モデルS」やテスラ工場の立ち上げを担当。その後もデュアルモーターの新モデル、世界最大のバッテリー工場「ギガファクトリー」の立ち上げに参画。2014年初頭に Drivemode, Inc.を共同設立し、現在に至る。

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僕は "何でも屋"

20代にしてテスラモーターズで数々の重要プロジェクトを手がけ、現在は運転中でも安全にスマホを操作できるアプリ 『drivemode』 を開発している上田北斗氏。「起業家」とか「エンジニア」など、さまざまな表現で描写されているが…。

自分の仕事を一言で説明するのは難しいです。悩むところですね。僕は「何でも屋」なんです。

ベースはエンジニアです。ワシントン大学で機械工学を専攻し、卒業してからは自動車の電気系エンジニアの仕事をしました。でも、エンジニアで世界一になれる気がしなかったので、エンジニアリングとビジネスサイドの架け橋になるために、MBA を取ろうと思い立ちました。

大学情報誌を参考にして、ハーバードを含むトップ5校に願書を出しました。ただ、僕は卒業できなかった同級生も少なくないような、進学校とは言えない高校を出たので、友達からは「ハーバードなんて意味がわからない」と言われました。実際、僕自身もハーバードがどこにあるかも知りませんでした。受け入れられてから場所を調べて、「遠いな、コレは」と思いました。

MBA 取得後は、テスラモーターズで重要な仕事を次々と成し遂げるように。入社のいきさつは…。

ハーバードのビジネススクールには、そうそうたる企業の人がやってきて学生の面接をするリクルーティング・ウィークというものがあります。しかし、その企業リストに僕が働きたい会社がなかったんです。それで、自分の好きな自動車業界で、一番おもしろいことが起こっている会社、テスラに目をつけました。当時テスラは小さなベンチャーで瀕死状態の会社だったんですが、リクルーティング・ウィークをサボってカリフォルニアの本社に飛び込み訪問し、インターンシップをしたいと伝えました。

いい車を所有することには執着がなく、車のことを知るのが好きなんです。HONDA のシビックのように、さまざまな制約によりエンジンは比較的小さいのに馬力が出るという、エンジニアリングの質に興味がわきます。

実は、もともとなりたかったのは車のデザイナーで、アート系のデザインをしたかった。でも、絵の才能がなくて挫折したんです。それで、デザインはできないけど、すごいデザイナーの作品を形にするというエンジニアを目指し、それも才能がないと思って MBA を取得することにしました。やりたかったけど才能がなくて、挫折の繰り返しだったというのが、僕のこれまでの人生なんです。

「あなたの仕事は何か」という最初の質問に戻ります。世の中にはすごい人がたくさんいます。僕がなりたかったような技術のあるエンジニアや美的感覚の鋭いデザイナーがいて、そういうすごい人たちが力を発揮できる環境を作るために、その他は僕が全部やるという意味で「何でも屋」なんです。床掃除もするし、倉庫の中で見つからない部品を一つ一つ箱を開けて探したりもします。

「打たれ強い」と言われる性格

上田北斗さん

趣味は格闘技で、15年ぐらいやっています。「怒られた時につい手が出ること」?それはないです(笑)。僕、怒らないんです。ストレスをためるとかイライラするという感覚もよくわかりません。

細かいことにとらわれず前向きな上田さん。「挫折の繰り返しだった」という表現がそぐわない気もするが、挫折感で落ち込んだことはないのだろうか。

落ち込むことはありません。感情の起伏が激しくない性格なんです。よく人に言われるのは、「すごく打たれ強いよね」。

例えばテスラで働いていた時も、とにかく怒られまくりました。26歳とか27歳の何も知らない若造が工場を造るのですから、当然です。それに、僕は怒られるポジションにいたんです。

いろいろな人がいろいろなことをやろうとするのを取りまとめる立場で、今やらなければ機能しなくなるというプライオリティの高いものを優先させます。すると、それ以外はできないので、あとは怒られるしかない。で、毎日、毎日、周りの人が心配になるぐらい怒られまくるんです。

でも、僕は平気でした。怒られるのはわかってやっているので。相手も怒らなければいけない立場にいましたし。だから、怒鳴られることが僕の仕事でした。

自分は100%アメリカ人で、100%日本人

ご両親が日本人で、日本語も自然に話すが、生まれも育ちもアメリカの上田さん。自分のことは日本人だと思っているのだろうか、それともアメリカ人?

上田北斗さん

僕の中のアイデンティティの話をしますと、日本人とアメリカ人の両方です。どれぐらいかというと、100%アメリカ人で、100%日本人。では、50・50かと言われると、そうではありません。両方100%で、合わせて200%持てるのはラッキーなことであり、両親のおかげです。日本語補習校に通わせてくれて、家の中では日本のテレビ番組を見て日本の音楽を聴くという環境で育ててもらいました。

日本語補習校には高校まで通いました。父親が「日本語は基礎が必要だから」と言って、小学校卒業までは無理矢理行かされている感があったんですけど、その後は別に辞めてもいいと言われてました。

それで、それほどプレッシャーをかけられず、中学高校では宿題もやらないし学校に行っても居眠りしているしという、ダメな生徒でした。「ちゃんとやれ」と厳しくされていたら辞めていたかもしれません。僕の両親はレストラン勤めだったので、兄弟3人を補習校に通わせるのは金銭的にも負担だったろうし、両親はちゃんとやってほしかったんだろうと、今は思いますが。

上田北斗さん

普通の人の生活が良くなるモノを作りたい

今後の展望として、とりあえずは 『drivemode』 を成功させること。成功が何かと言うと、『drivemode』 を普及させ、「運転中に携帯を使って事故を起こす」という世界中で起こっている問題を解決することです。

中高生時代から僕のキャリアを通して、「普通の人の生活がよくなるモノを作る」というのがハイレベルな理想としてあります。お金持ちとか特別な人ではなくて、僕の両親のような普通の人の生活です。

今、アメリカでは交通事故原因の3分の1近くが、携帯を使いながらの運転だと言われています。高性能ナビゲーションがついているような高級車に乗っていれば別ですが、普通の人は、運転用に作られていないスマホを使って事故を起こしてしまうんです。そんな状態を改善したい。

まずは 『drivemode』 がその第一歩です。今はコレ一本でがんばります。

「現在はアンドロイド版 『drivemode』 のダウンロードが可能です。利用者の意見を取り入れ改良を繰り返しているので、それが一段落したら iPhone 版の製作に移ります」

掲載:2015年9月 取材・文:渡辺菜穂子

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