第12回 40歳からのアメリカ移住「英語に埋もれる」

40歳からのアメリカ移住「英語に埋もれる」
Seattle IT Japanese Professionals

執筆者:保坂 隆太さん

第10-12回 筆者プロフィール:保坂 隆太 (ほさかりゅうた)さん
Seattle IT Japanese Professionals ディレクター。現職は Microsoft Corporation にて 社内IT部門のプログラム・マネジャー(ビジネスインテリジェンス・ビッグデータ)。東京生まれ/育ち。法政大学大学院システム工学研究科卒。40年以上の日本生活ののちに2012年からシアトル在住。シアトルに来てからアウトドアが楽しくて仕事よりも休日が忙しい。詳細プロフィール

漫画:銭湯ルイス(せんとうるいす)
Seattle IT Japanese Professionals 漫画担当。原案と作画を二人で担当しているコンビ名。日本の漫才コンビ 『星セント・ルイス』 とは別人。本業は IT。スーパー銭湯好き。

インタビューループと文字通り山のような書類と格闘したのち、およそ三ヶ月後にシアトルでの生活がスタートしました。美しいシアトルの夏、ここはなんというパラダイスなんだ!と喜んだのもつかのま、待っていましたよとばかりに想定外が次から次へと・・・。何しろ海外生活が初めてなので、トイレにウォシュレットがない、バスの乗り方がわからない、運転免許も取らなきゃいけない(日本では免許を持っていませんでした)、などなど、仕事を始める以前の混乱状態。そんな中で最初の一年で特に苦労したこと – 英語についてお話ししたいと思います。

英語と English

日本で業務をこなすうえでは必要十分だった英語力は、シアトルでの業務開始一日目にして華々しく敗れ去りました。20世紀の日本の英語教育は21世紀の職場ではまるで骨董品です。私の所属していたチームはマーケティングを担当する部門でしたので、エンジニア部門とはちょっと雰囲気が違い、技術力よりはコミュニケーション能力、交渉能力、それを支える表現力が求められます。さらにインド・中国などアジア圏からのタレントが比較的多いエンジニア部門に比べると、マーケティング部門はアメリカ・ヨーロッパなど英語圏の人材が圧倒的に多いため、結果的にネイティブ並みの英語力が求められることになります。最初の一年は話をすることさえままならなかったのですが、その中でも特に感じたことを3つまとめてみました。

怒りの伝え方

ビジネス英語は論理的に課題を伝えることに重きがおかれますが、ミーティングや担当者同士の会話では、お互いが感じていることを理解することがより重要になります。学生時代にあまりきちんと英語を勉強しなかったからかもしれませんが、私に限らず日本人の英語は感情表現が薄いようです。学生時代の不勉強のたまものなのか、それとも日本の英語教育そのものが原因なのかわかりませんが、感情を表現するための動詞、形容詞、そしてそのニュアンスをコントロールする助動詞のバリエーションの少なさといったら、驚きを通り越して自分に呆れ返るしかないほどの状態でした。

アメリカに住んで数十年になるインド人の友人は "演劇のクラスを受けるといい" とよく話をしてくれますが、とても的を得た助言だと思います。詰まるところ、言葉そのものだけでなく、その言葉にあった感情表現を体得するのはボディランゲージなども含め、日本語とはあまりにも違うのです。教科書で単語だけを追っていても、こればかりはなかなかつかめないですよね。そのうえ日本人はシャイなので、こちらの多くの人間のように大げさに "Oh No!" などと言おうものなら、自分に Oh No! と嫌気がさしてしまうものです。今ではずいぶんとよくなりましたが、それでも大柄なこちらの人間に半径2メートルくらいはありそうなボディランゲージで圧倒されそうになることがしばしばです。

私の英語は骨董品

ネイティブと話をしていると最も困るのは様々な比喩や表現。言葉は生きているといいますが、毎年のように表現の仕方、言葉は変わっていきますし、トレンドもあります。当然ながら20世紀日本仕込みの英語はまったくの無力、あまりにもわからないので最初の一年は周りのネイティブの友人にスラングや比喩を教えてもらう時間をつくってもらって、なんとか周りの人間が言っていることが理解できるようになりました。それと Urban Dictionary のようなオンライン辞書、テレビなどです。言葉は単に言葉ではなく、文化そのものと密接に結びついていることを実感しました。

ちなみに、日本で英語を習得した人は必ず使えるとっておきのジョークがあります。"最初の授業で習った英語は This is a pen! だったよ" というと、漏れなく爆笑の渦です。20世紀の英語で育った40代の方はぜひこれを有効に使いましょう。下手をすると全員腹を抱えて笑ってくれます。そもそも私もここにきて This is a pen! と言うべき状況にあったことがありません。「なんであれが教科書の一ページ目だったのか教えてくれないか?」と質問されたのですが、まったく答えようがないですよね。苦笑いしながら、"こんな残念な教育でここまで来てるんだからすごいだろ?" と切り返すのが精いっぱいでした。なお、ちょっと疑問に思ってこのエッセイを書きながら最近の中学一年生の教科書を見てみたのですが、さすがにずいぶんとましになっているみたいですね。でも、アメリカで誰もが一番聞くであろう "How are you doing?" がどこにも見当たらないんですよね。あれはなぜなんでしょう?

言葉と文化

何しろどの部隊も多国籍ですので、英語も出身地によってイントネーションも様々です。なかにはネイティブでもよくわからない人もいるようですが、とにかくわかったふりくらいはしなければいけないし、あまりにもわからなければ "何言ってるんだい?" くらいは返す必要があるのですが、あまりのイントネーションの違いでアタマの中がカオスなままにミーティングを終えることがほとんどでした。時間が経ってだいぶわかるようになってきたときに気がついたことが、これはただイントネーションの問題だけではないということ。どの国の英語もその国、地域の文化と強く結び付いています。使う単語の意味、言い回しは結局のところ彼らの文化をどれだけ理解するかにかかっているのです。そうとわかったら解決策はただ一つ。とことん仲良くなることと彼らのバックグラウンドとなる文化を理解することです。そんなこともあってヒンズーやイスラムの文化はこちらにきてからずいぶんと身近になりました。次回の連載で改めてお話ししますが、多様な文化に触れることはアメリカで仕事をすることの醍醐味の一つです。

日本人の英語能力はもはや永遠のテーマになっている感もありますが、英語だけでなく、世界中の文化への好奇心や理解なども、日本人がアメリカ、海外で生活をする上でとても重要な要素だと思います。次回はそのあたりについてお話しします。

掲載:2016年3月

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