第17回 誰も知らないものを作り上げるUXデザイナーの仕事

誰も知らないものを作り上げるUXデザイナーの仕事
Seattle IT Japanese Professionals

この方にインタビュー:
松本 真純さん
Google UX (User Experience) デザイナー。1歳のときに渡米。2、3年おきにアメリカと日本に住み、日米の義務教育を受ける。カリフォルニア大学バークレー校で哲学を専攻。マックスプランクでリサーチフェローを経て、デザイン会社を設立。その後、2011年から Google にて勤務。

PC からスマートフォンやタブレットなど、IT はより身近に、生活に密着するようになってきました。スマートフォンも生活を助けるアシスタントとしての役割を担うようになっています。Google では Google Assistant が、iPhone では Siri が、あなたの専用秘書として、情報を提示してくれます。

“Ok, Google! How can I get to the restaurant?”

スマートフォンは即座に地図を表示して、レストランまでのナビを開始します。時には、お店の閉店時間も確認して「急いだ方がいいよ!」と教えてもくれます。

こんなふうに、人が IT をどのように使うのかを考えて、製品として形にする仕事があります。最近、脚光を浴びている UX (User Experience) デザイナーです。

そこで、UX デザイナーとして Google で働く松本真純さんにお話を伺いました。

誰も知らないものを作り上げるUXデザイナーの仕事

Google Kirkland オフィスにて。左:松本さん、右:近江(撮影:SIJP 金子 敏章)

UX デザイナーの仕事って?

私が Google で担当しているのは、製品の UX デザインです。デザイナーといっても、画面のデザインだけをしているわけではありません。実際に使用するユーザーがどのようなシナリオで製品を使用するのかを考えて、製品の機能を定義していきます。例えば、以前に担当した製品は Google Wallet というスマートフォンでの決済サービスなのですが、お店に入ったときからの動作、買い物、どのように支払いをするのか、のシナリオを想定してから、スマートフォンでの支払い方法をハードウエアとソフトウエアの両面から、製品の仕様をデザインしました。私のバックグラウンドはリサーチなので、実際にスーパーマーケットに行き、買い物をする人を観察するところからはじめました。

現在は、Allo を担当しています。スマートフォンのチャットアプリケーションなのですが、その会話の内容を精査しアプリケーションがアシスタント的な役割もします。まず、UX デザイナーはユーザーシナリオを考えます。ユーザーがチャットしている間にどういう行動をとらないといけないのか、例えば、友達との会話中に、レストランで会うことになったとします。そのために、お互いの予定調整やレストランの予約を取るわけですが、何の情報を元にどのアプリケーションを使用すればよいのか、を調査し考えて、仕様にいれていきます。Allo は全く新しい形のアプリーケーションなので、そのユーザーシナリオを考えるのがとても難しいのです。

Google では、ひとつの製品やサービスを作るときに、PM (Product Manager)、UX デザイナー、開発エンジニアの3つのチームで進めていきます。製品を作る前は、この製品仕様を PM と UX デザイナーで一緒に決めます。UX デザイナーは使用者の視点で製品仕様を考えます。製品の仕様が決まり、製品を作り出す段階では、今度は UX デザイナーは開発エンジニアチームと一緒に仕事をしていきます。実際に製品に反映させたけど難しそう、他に方法がないかな、何をやるべきか、やらないべきか、など一緒に問題を解決して一緒に製品を作っていきます。実際には、このエンジニアチームとの仕事がリリースまでの80%を占めます。

UX デザイナーに必要な最大のスキルは「コミュニケーション」

業務の95%はコミュニケーションです。英語という言語のコミュニケーション能力ではなく、いかに意見を受け入れてもらうか、「みんなで作り上げていきましょう」という組織でのコミュニケーションが必要になっていきます。なので、ミーティングが業務の大半を占めます。また、デザインは抽象的な部分が多いため、デザイン自体の重要性、デザインが製品をよくすることができる、という説得からする場合もあります。

自分の考えや仕様を取り入れてもらうために説明をして説得する、というのが最も大切なスキルになっています。私も日本人的な考えで「みんなの意見を取り入れて進む」傾向にあるのですが、これがアメリカの会社ではなかなか難しいので、苦労する点ですね。時には、強く自分の意見を推し進める、ということが必要ですが、これは正直やりにくいです。

デザインはデータでは表しにくいです。そのため、時にはリサーチャーと協力してデータを提示することで意見に説得力を出すこともあります。また、私は大学では哲学を専攻し、日本の大学で Critical Thinking を教えていた経験などから得た、「人を説得する」方法や言葉がとても役にたっていると思います。ただデザインをするだけではなく、「なぜこのデザインでなければならないのか」説得力のあるプレゼンテーションなどのスキルはとても大切だと思います。

違う分野での経験をさまざまに生かせる Google

松本さんは、研究職というアカデミックエリアから Google へ転職をしています。IT 業界での経験がないことへの苦労などはありましたか?

特に苦労はありませんでした。研究職では一人で15年間ほど研究をしていたので、大きな組織の一員として働くことに慣れるのは2、3年ほどかかりました。でも、これも貴重な経験だと思っています。

アメリカ、Google で働くことでよかったと思う点は?

Google は自分の仕事時間の20%を現在の業務以外に費やすことができます。そのため、自分の興味のある研究やプロジェクトをしたり、それに支援をしてもらうこともできます。今は、アフリカでデザインクラスを教えるというプロジェクトを4年間行っています。そこで、データを収集して今行っている自分の研究に役立てることもできます。

また、勤務時間なども自分に合った時間で働くことができます。たとえば、絵具を使ってデザインをするスタイルの同僚がいるのですが、その人は絵具でデザインするときは、家から仕事をすることが可能なのです。Google 柔軟性があるので、クリエイティブな仕事に合った環境を自分自身で作ることができます。そのかわり、責任をもって結果を出す必要があります。

仕事は楽しいですか?

とても楽しいです!今、時代はとても速く動いていて、その変化に立ち会ってることが楽しいです。ここ2、3年でスマートフォンは大きく変わってくると思います。たとえば、会話内ですべてが完結するように、アプリケーションをインストールしなくてもよくなるとか、それをどうやって実現させようか、などとても大きな問題について考えていくのが本当に面白いです。

UX デザイナーを目指す人へのアドバイス

コミュニケーション能力を高めることです。例えば、学校ではうまくデザインをすることを主に教わります。また、世の中には、デザインがうまい人たくさんいます。そこで、自分のデザインを意見として発表する、プレゼンテーション能力がとても重要になります。特に日本の教育は、そこがまだまだ足りない部分だと思います。データに頼ることができない世界なので、スキルの一つとして非常に重要です。

ありがとうございました。

取材を終えて:
松本さんは、変化を恐れずに前向きに進んでいき、アカデミックエリアで培った「論理的思考」を元にどのような題材でも研究として進めていくことのできる強みをお持ちでます。IT開発という技術志向の強い現場で、ソフトスキルを強く求められていることがとても興味深い内容でした。また、自分の強みをよく知ることが、まだ誰も経験していない技術を作るという最前線において、柔軟性をもって対応していく上での最大の武器になることを学びました。

取材・執筆:近江 まさこ
Seattle IT Japanese Professionals (SIJP)スタッフ。ワシントン大学(University of Washington) 大学院 iSchool(Science in Information Management) にてデータサイエンス、セキュリティを専攻中。

掲載:2016年11月

この記事は、参考情報の提供のみを目的としており、法的その他の専門的助言を提供するものではありません。この記事に記載する情報に基づくいかなる行為およびその結果について、筆者および SIJP は一切責任を負いません。また、掲載内容は対談者個人の見解であり、所属する企業を代表するものではありません。

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